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売れないポテチの種類が増えつづける理由

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■「生産イノベーション」がさらなる多品種化を招いた

多品種化は、必然的にコスト増と収益性の低下につながる。そのことは、多品種化が趨勢となり始めた初期には、ちゃんと認識されていた。多品種化が進んでも、コスト高につながらないような創意工夫、特に生産に関するイノベーションに多くの企業が取り組んだのである。

製品種類を減少させるVRP(Variety Reduction Program)やマスカスタマイゼーション(顧客から見れば多様な製品であるが、生産では大量生産のメリットを享受するアプローチ)は、多品種化が進展するプロセスで、考案された洗練された考え方なのである。その他にも、以下に列挙するように、創意工夫から数多くの生産イノベーションが実現した。

・段取り替え(製造する製品の製造ラインにおける切り替え)に要する時間の短縮、特に外段取りの高度化
・部品の共通化・共用化による材料費の削減や製造工程の統一化
・FMS(Flexible Manufacturing System:多品種対応ができる製造設備)とロボットの活用
・CAD/CAM(Computer Aided Design/Computer Aided Manufacturing)を活用した設計工数の削減と、設計と製造のシームレス化
・自動化倉庫活用による庫入れ・庫出し業務の効率化
・作業者の習熟・多能工化による労務費の削減
・プラットホーム設計(車で言えば、セダン、SUV、クーペなど車形が異なっても、共通シャーシを活用することを前提とした設計)やモジュール設計(部品個々の設計ではなく、それらの集合体としてのモジュールを構想し、その設計を行うこと)を通じての原価の削減や取引費用の削減
・ポカよけメカニズムの導入
・小口多頻度配送

多品種生産は間違いなくコスト高につながるが、上記のような血のにじむような努力により、多品種化しても、現実にはコストが大幅に跳ね上がることはなかったのである。さまざまな技術革新をおこない、大量生産と変わらないコストやリードタイム、品質、生産性を実現し、多品種少量生産は日本企業の得意技となった。これは、称賛すべき成果ではあったが、皮肉なことに、このような成功によって、多品種化に歯止めがかかることはなく、さらなる多品種が進んだのである。

■上位5車種が台数の6~7割を占めている

多品種少量化を促した要因の中でも、看過してはならない大きな理由がある。それは、原価計算である。多品種少量化が進むと必然的に製造間接費が製造原価に占める割合は増大する。生産計画立案のための計算コスト、FMSの減価償却費やプログラミングコストなどはいずれも製造間接費に区分され、その金額は予想以上に多額である。

自動車メーカーでは、製造間接費が製造原価に占める割合は実に40%を超えている。製造間接費は、製品に直接結びつけられないコストであるから、配賦(割り振り)計算によって、各製品に帰属させるという計算を行う。配賦を行う基準として採用されるのは、機械運転時間、生産量、販売量等の企業の操業度に関連するものである。ここで、再度確認しておこう。製造間接費は、操業度との関連性はない。配賦とは、わかりやすく言えば「もっともらしい、しかし合理性のない基準に基づいて、製造間接費を製品に適当に割り振る」計算である。

例えば、生産量が配賦基準として採用されている状況で説明しよう。多品種のうち、少数の特定製品の生産量が多く、大多数の他の製品は少量生産であることは決して珍しいことではない。自動車メーカー3社(トヨタ、日産、ホンダ)では、次のようになる。

売り上げ上位5車種の全車種に占める販売台数の割合(2015年国内販売台数ベース)

・トヨタ 39.4%(全車種約50車種)
・日産 66.9%(同約30車種)
・ホンダ 72.3%(同約20車種)

このような状況で、製造間接費を販売台数という操業度基準で製品別に配賦すれば、一部の生産量の多い製品に多額の製造間接費が配賦される一方で、多数存在する少量生産品の製造間接費負担額は極めて少額となる。

■多品種少量生産が国際競争力の強化を阻害している

期待がかかる新製品であっても、発売当初は少量しか売れないこともある。製品に利益貢献がない状態は望ましくないという経営判断から、製造間接費の製品負担を一定期間免除するという特例が設けられることも少なくない。当然ながら新製品からの免除総額は、他の製品が負担することになる。考えてみよう。つまるところ製造間接費のうちのかなりの部分は、実は、多品種少量生産体制を維持するためのコストだということである。それにも関わらず、伝統的原価計算に基づく製造間接費配賦を行うと、少量生産品への製造間接費負担は少額となってしまうからである。

その結果、製造間接費の操業度基準による製品別配賦は、実際以上に多品種少量生産品の収益性を良好なものとなる方向に原価をゆがませるのである。

日本企業が実現した多品種少量生産は、世界市場における強力な武器であった。だが、行き過ぎた多品種少量生産によって、コストダウンの効果もなくなり、製品づくりは内向きで細かいセグメントを増やしているだけとなり、むしろ国際競争力の強化を阻害しているのである。

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加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
神戸大学名誉教授、博士(経営学)。1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。

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(同志社大学大学院ビジネス研究科教授 加登 豊 写真=iStock.com)

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