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愛知の最低賃金はトヨタを基準にすべきだ

コンサルティング会社・経営共創基盤(IGPI)の冨山和彦CEOは、日本の競争力を高めるために「労働市場の再設計が必要だ」という。そして具体例として「現状の最低賃金は地域で最も弱い企業が基準になっているが、この基準を強い企業とするべきだ」と主張する。その狙いとは――。

■日本型モデルはすでに賞味期限が切れている

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経営共創基盤CEO 冨山和彦氏
1960年生まれ。東京大学法学部卒、在学中に司法試験合格。スタンフォード大学でMBA取得。2003年から4年間、産業再生機構COOとして三井鉱山やカネボウなどの再生に取り組む。07年に経営共創基盤を設立し現職。


「新卒一括採用」「メンバーシップ型雇用」「終身年功型組織」。これが戦後の日本型経営の特徴でした。政府や経団連などは、いまだにこれを標準=望ましい形態としているようです。しかし、現実には、この日本型モデルはすでに賞味期限が切れています。

このモデルが機能したのは、高度成長期からバブル期まで。黙っていても市場が拡大したので、企業はごく単純な原理で勝負できました。つまり従業員を長く働かせて、1日の生産量を100から120にすれば競争に勝てました。だから、人生のすべてを捧げるフルタイム=フルライフという従業員ばかり集めて、同質的で連続性のある組織をつくったのは、人件費効率という面からも有効だったといえるのです。

一方、従業員のほうも、長時間働けばそれだけ所得が増えるという理由で、残業を歓迎しました。つまり、会社にとっても従業員にとっても、それからおそらく経済全体にとっても、日本型モデルは合理的に働いていたのです。

■日本型の同質性と連続性がマイナスに作用

このフェーズが変わったのは、1990年代に入ったころからです。89年に東西冷戦が終結すると、途上国や新興国が市場経済にこぞって参入してきました。とくに、日本型モデルのいいとこ取りをした中国が、安価な人件費を武器に急激に成長してきたため、日本企業の優位性はあっという間に失われていきます。

さらに、デジタル革命が起こり非連続的イノベーションの時代になると、日本型の同質性と連続性がむしろマイナスに作用しはじめました。高学歴の男性を大量に集めて、組織の下の階層から30~40年かけて順に昇っていくというやり方では、生産性が上がらないのです。

また、この時期には、安い労働力や新たな販路を求めて海外に拠点を移す日本企業も出てきましたが、当然のことながら海外では、文化や価値観が日本とは異なります。それで、これまでとは逆の多様性を受け入れる経営に移行せざるをえなくなったというのも理由のひとつです。

■非正規雇用はどんどん拡大し、格差が固定化

90年代にはもうひとつ問題が起こります。日本型経営ではうまくいかないとわかった時点で、政府は会社や労働者に関する法律や制度を時代に合ったものにつくりかえるべきだったのに、それを怠った。

そのため、多くの大企業が、解雇規制の埒外にある非正規雇用者や中小企業の社員を、メンバーシップ型正社員のバッファ(緩衝装置)として利用するようになったのです。彼らに低賃金長時間労働を引き受けさせて、自社の正社員には、これまで同様の割高な賃金を支払い続けたのでした。

これでは同一労働同一賃金など実現できるはずがありません。また、政府もこの歪んだ労働市場を、本気で是正しようとはしませんでした。なぜなら、大企業の労働生産性が低くても、バッファの部分で多くの雇用が発生するなら、その分失業者が減るからです。政府は経済成長や同一労働同一賃金の実現よりも、見た目のワークシェアリングで、社会の安定を優先したのだといっていいでしょう。

その結果、非正規雇用はどんどん拡大し、格差が固定化していった。これが失われた20年の実態なのです。この間、とくにサービス産業の分野で、長時間低賃金労働で人件費率を圧縮して安売りをするというブラック企業が登場したのも必然だといえます。

■ホワイト企業戦略のほうが圧倒的に有利

しかし2012年を境に、風向きが変わりました。団塊の世代が定年を迎え、労働市場から退出しはじめたのです。彼らが生産現場からいなくなったことで、労働力余りという前提が成り立たなくなった。そこでまずブラック企業が軒並み赤字になりました。

当社のグループにはバス会社もありますが、いまでは高賃金で労務管理もしっかりしていないと黒字経営はできません。そうじゃないと運転手が採用できないからです。かつて安い給料で法律も守らずに運転手を酷使して売り上げを上げていた同業者には、人が集まらず撤退を余儀なくされたところも多々あります。

いまや労働力というのは「希少資源」にほかなりません。そして、その希少資源を獲得するには、ブラックではなくホワイト企業戦略のほうが圧倒的に有利なのです。

■経営力のある企業へ事業を集約するのが合理的

海外を見ると、アジアを含めて同一労働同一賃金のジョブ型がほとんどです。メンバーシップ型雇用といった日本型モデルは、すでにガラパゴス化しているといっていい。多くの企業はなんとか対応を進めていますが、とくにグローバル企業の場合、世界標準のジョブ型に変えていかないと、今後は現地での採用はもちろん、日本の従業員を海外に転勤させることもできなくなるでしょう。

問題は、国の規制が相変わらず古い日本型モデルの働き方を前提にしていること。これでは変化に対応できません。今後ジョブ型雇用が増えるのは必然なので、同一労働同一賃金のルールをきちんとつくり、同時に最低賃金を積極的に引き上げ、非正規雇用者であっても安心して働けるよう、労働市場を再設計するべきだと思います。

内需に依存するローカル型企業の場合、経営人材の不足がはなはだしい。そのため、規模のメリットが働かない産業であっても、経営力のある企業へ事業を集約するのが実は合理的なのです。たとえば、最低賃金は現状では地域の中で最も弱い企業に合わせて設定されていますが、これを強い企業を目安に引き上げる。すると、退出せざるをえない企業が続出するでしょう。

でも、それでいいのです。人手不足の時代はまだまだ続きます。働き手にとっては、経営力があり高い賃金を払える企業へ移るほうが、どう考えても幸せではないですか。

(経営共創基盤CEO 冨山 和彦 構成=山口雅之 撮影=宇佐美雅浩)

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