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下町ボブスレーはなぜジャマイカに選ばれなかったのか?

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もう平昌オリンピックが終わってしまいますが、Facebookなどで断片的に書いていたことをブログでまとめてみたいと思います。話題になり始めていた2月9日頃から書き始めていたのですが、経緯を追っているうちにまとめるのがこのタイミングとなっていました。

平昌オリンピックが始まって下町ボブスレーが良い意味でも悪い意味でも話題となりました。

町工場の夢が暗転=下町ボブスレー、損害賠償請求へ〔五輪〕
下町ボブスレーの賠償請求「今は考えない」 警告として話を出したと細貝GM

契約上の細かいことについては当事者同士でないと正確なことは知り得ないでしょうし、どちらが正しいか間違っているということもなく単に契約上ペナルティーを支払う必要があるのであれば、それをジャマイカが支払う必要があるというだけでしょうが、下町ボブスレー側としては実際に訴える行動をとらないようですね。

私がこのニュースを最初に耳にしたとき気になったのは『ジャマイカはなぜ下町ボブスレーを選ばなかったのか?』ということでした。

もちろんジャマイカ側が、下町ボブスレーが自分たちにとって一番あっていてタイムを出すことが期待できる、と考えていたのであれば、何か不正などが絡まないかぎりは下町ボブスレーを選ぶはずなので、他のソリを選ぶのには、他社製のソリのほうがタイムがでると考えたのでしょう。

下町ボブスレーは確かに高い技術力で作られているかもしれません。しかし技術力というのは急速に陳腐化していくものでもありますし、その差は世界的に広がるよりも縮んでいく傾向があります。優れた加工製品をつくる工作機械が日本製であるなら、その日本製の機械を導入できる機会は誰にでもありますし、古い機械で技術を磨いていた工場よりも、最新の機械を導入して、ひと足ではなくふた足も先に何かない状態から最新の技術についての知見と経験を積んだほうが良いものが作れる場合もあるかもしれません。

そうした事例を私は深センの工場に百台規模で並ぶ日本製のCNCの機械の列をみながら考えさせられたりしています。
また熟練にしかできない優れた加工技術があることが、必ずしもプラスに働くとは限りません。むしろマイナスに作用することすらありえます。

例えば、熟練にしかできない制作パーツがあるとしたら、そのパーツは他では代替することは難しくなります。制作コストもあがりますし、故障した場合の交換やメンテナンスの難度も増します。

もしこのパーツが3Dプリンタで誰でも制作できるものだったとしたら、どうでしょう?そうなると特定のエンジニアだけではなく、ボブスレーをしているプレイヤー自身がパーツをつくることができるかもしれません。練習のたびに自分でいくつものバリエーションがある自作パーツを試してみたり、練習のときに気づきがあれば、翌日までにそのアイディアを反映したパーツを制作して試すことができるかもしれません。

また技術力は良い製品をつくるためのひとつの要素でしかありません。製品をつくるための体制、かけられる労力、キーとなる優秀な人材がいかにその能力を発揮できるか、検証・テスト体制、検証の頻度や容易さ、など様々な要素が絡み合います。

そうした様々な要素がある中でなぜ下町ボブスレーが選ばれなかったのか?

当事者ではないので、知りうる情報はかぎられますが、下町ボブスレーを作り出してきた人たちによって執筆された「下町ボブスレーの挑戦」という昨年の12月末に出版された書籍を読みながら、その要因を考えてみることにしました。

下町ボブスレーの挑戦 ジャマイカ代表とかなえる夢下町ボブスレーの挑戦 ジャマイカ代表とかなえる夢
細貝淳一 奥田耕士

朝日新聞出版 2017-12-20
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敗因の分析というのは、心地よいものではない方もいるかもしれませんが、当事者ではない外部の人ではないとなかなか言いにくかったり、書きにくい意見もあるかもしれません。以降の分析は下町ボブスレーを批判するものではなく、今後、下町ボブスレーがより飛躍していくためのきっかけとして参考にしていただける情報と捉えてもらえると嬉しいです。

またこうしたことは下町ボブスレーだけではなく、類似性はないかもしれませんがホンダがF1でなかなか勝てないといったことにも関連があるのかもしれません。日本では利用者と制作者の立場が良い意味でも悪い意味でも最適化と役割分担が進みすぎてしまっていて、そのあたりの断絶に日本のものづくりがひとつの袋小路に落ちいっている要因があるのではないか、と個人的には考えています。下町ボブスレーだけではなく、より大きなものづくり全般への課題を考えるきっかけと捉えていただければと思います。

少し前置きが長くなってしまいましたが、『下町ボブスレーの挑戦』のなかで気になった箇所を引用させていただきながら、このボブスレーがジャマイカに選ばれなかった原因の一端を探ってみたいと思います。
ソチ五輪直前に日本代表チームの選手・監督は外国製のソリを選択した。下町ボブスレーは2013年11月に日本連盟から「テストする時間的余裕がない」との理由で最初の不採用通告を受ける。P. 3

現場の監督・選手はラトビア製ソリの使用を希望していた。下町ボブスレー側は新型車に改修を加えて熟成する、というものづくりの常識でスケジュールを組んでいたが、競技者側はカルガリーに届いた瞬間に完璧なソリを求めていた。ポイントを稼いで五輪出場権を手に入れなければならない競技者側に、下町ボブスレーの改修に付き合う心の余裕はなかった。p.14
4年前も今回と同じように、オリンピック直前で国は違えど、下町ボブスレーではなく、ラトビア製のソリが選ばれています。

ここで見受けられるのは、納期の意識の差ですね。下町ボブスレー側は、実際の試合の中で熟練させていくことを考えていたようですが、採用する側は試合の時点で完成されているものを求めていた。
これはハードウェアにかぎらず、ソフトウェアの世界などものづくり全般に見受けられることで、結構あるあるな話でもあり、こうした意識のずれが、今回もあったのかもしれません。
それまで明るく軽いノリで活動してきた下町ボブスレーが、初めて経験する沈痛な雰囲気の説明会。重苦しい空気を破って発言したのは、プロジェクトのスタート当初から協力していた元日本代表選手の脇田だった。 
「外国製ソリとの比較テストは、ラトビア→ラトビア→下町ボブスレーの順で3本滑走していますが、ボブスレー競技では滑走のたびにコースが荒れて、後ろの滑走順ほどタイムが落ちるのは常識です。このわずかなタイム差は、むしろ同等の性能であることを示していると言ってもいい。そもそも、こんな重要な比較テストを3本の滑走だけで決めるなんておかしい。滑走順を入れ替え、十分なテスト時間を確保するべきです」p.15
こちらの発言は落ち込んでいる下町ボブスレーのメンバーを勇気づけるためのものだったかなと思います。ただ、このエピソードが下町ボブスレーが決して遅くはなかったというふうにもとれるような形で紹介されています。

確かに滑走順が後ろなら、同等のスピードなのかもしれない。ただ、明確に早いと言えるわけでもなく、ある意味希望的観測ともいえます。書籍全体を通して、こうした推測に基づく楽観的な説明が多いのが気になりました。

また、ここで指摘されているラトビア製ソリとの比較テストですが、おそらくラトビア製のソリを入手したり、同一条件で比較テストを下町ボブスレー内で行うことが難しかったのだろうと思われますが、そうしたApple to Appleのテストがなされたような記述をみつけることはできませんでした。また最後まで、このラトビア製のソリに関する特徴や、技術的優位点などに関する記述を見つけられませんでした。

この書籍が、そうした技術的観点を説明するためのものではないからかもしれませんが、4年前にラトビア製のソリに選考で破れているのであれば、ラトビア製のソリとどう違うのかの検証がなされるべきだと思いますし、ラトビア製のソリが早い、あるいは選ばれた理由が分析されるべきだと思うのですよね。
ところが、この下町ボブスレーの挑戦の書籍の中では、自分たちのソリづくりに関する挑戦についての記述は見つけることができても、ラトビア製のソリに関する技術的なコメントや記述はみつけることができませんでした。

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