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見えない障がいは自己責任か?

ある落語家の方が、日本には貧困問題はない、というツイートをされて批判を浴びているようです。

現在の日本で「相対的貧困」ばかりがクローズアップされる風潮には私も若干疑問を感じてきましたが、日本の貧困は絶対に自己責任、という決めつけには強い違和感を覚えました。それは今、私が8歳の発達障がい(ADHD)児の子育て真っ最中だからです。

ADHDは、注意欠如・多動性障害という脳の機能障がいです。この障がいがあると、何かに集中して作業をしたり、じっと座って人の話を聞いたりすることができません。また、日頃の行動は衝動的で、かっとなってひどい言葉を口走ったり、子どもではとっさに暴力をふるうことがままあります。

我が家の娘は保育園と幼稚園を合計3回退学になり、昨年、正式に病院の診断を受けて薬を飲み始めるまでは、毎月のように親が学校に呼び出されて注意を受けていました。

ADHDは脳の機能障がいですから、精神的なものではなく、一種の身体障がいです。ADHDをもつ人の脳は前頭部がほとんど働かないため、注意力や集中力に欠け、学習や仕事に困難をきたすのはもちろん、下手をすると日常生活もままなりません(娘は小3ですが、薬を飲んでいないといまだに用を足した後トイレを流せませんし、引き算の概念もどうしても理解できません)。

例えば、生まれつき四肢に障がいがあって身体を使った仕事ができない人や、重度の知的障がいがあって通常の職場での仕事ができない人に向かって「仕事ができないのは自己責任」と批判する人は皆無でしょう。しかし、ADHDをはじめとする発達障がいの人たちは、外から見ると何ら健常者と変わらず、知的レベルも特別劣っていない人が多いため、何かにつけて「自己責任」を追及されるのです。娘も親も幼児の頃から周囲に「何とかしろ」と言われ続けてきましたが、いくら躾を厳しくしても、思うように脳が働いてくれないので改善のしようがありませんでした。

さらに問題を複雑にしているのは、このような発達障が遺伝によるケースが多いことです。

我が家の娘の生母は文盲で、自分の名前さえ書けません。読み書き計算ができないのでそもそもろくな仕事にはつけませんが、何とか定職を得てもすぐに辞めてしまい、ゴミ拾いのようなその日暮らしの仕事に戻ってしまいます。

当初は貧しく教育を受けられなかったためにそうなったのかと思っていました。しかし現在では(貧しいのはもちろんですが)、恐らく彼女もADHDをもっていて放置されたまま大人になってしまったのが主な原因ではないかと思っています。

通訳を介して話をしても彼女は決して知的レベルが低いわけではありませんし、何より「娘を私と同じような大人にしたくない。海外に出してきちんと教育を受けさせたい」と養子に出すことを決意し、つてを頼ってそれをやり遂げたわけですから、立派な意思の力を持っており、1人の女性として私は大変尊敬しています。しかし、もし彼女が娘を自分で育てていたとしたら、恐らく娘は母親と同じ人生をたどることになったでしょう。

鈴木大介さんの『最貧困女子』は、最底辺のセックスワーカーとして働く女性たちを取材した渾身のノンフィクションです。

彼女たちは、いい加減で約束を守らず、何か努力をしているようにもみえず、その日暮らしの行き当たりばったりの生活を送っており「自己責任」の「じ」の字も知らないように見えます。また、生活保護を受けたくてもどうしたらいいかわからず(わかっても申請書類の記入ができず)、中には生活保護の存在そのものを知らない女性もいます。

そんな彼女たちのほとんどが、外見からではわからない、精神障がい、知的障がい、発達障がいという障がいを抱えており、自分の力ではどうしようもなくそんな生活を送らざるを得ない、と鈴木さんは言います。そして私には、彼女たちの姿はそのまま、娘やその生母の姿と重なって見えるのです。

何らかのADHD傾向をもつ人は全人口の5〜7%を占めると言われています。また、学校で娘の面倒をみてくれているカウンセラーが担当している児童の中には、軽度の自閉症の子どもや、ディスレクシアという文字が読めない子どもも何人もいます。このような子どもたちが、障がいを克服できる技術を身につけないまま社会に出てしまい、不適応を起こして貧困に陥ったら、果たして私たちには「自己責任」と非難する権利があるのでしょうか?

もちろん、障がいがあるのだからすべて社会が面倒をみるべきだ、ということを私は言いたいのではありません。

ただ、見えない障がいをもつ人たちが世の中には一般の想像以上の数で存在していること、一見して障がい者に見えないからといって、彼らにできないことをすべて自己責任として片づけることは、逆に、社会の構成員としての私たち自身の責任を全うしていないことになるのではないかと考えるのです。

障がいをもつ人=社会的弱者の自己責任を問う前に、彼らを社会に受け入れ、彼らが自分の能力を十分に発揮できる社会を作ることこそ、私たち「健常者」の自己責任ではないでしょうか。

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