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オリンピックとナショナリズム

「羽生選手すごい」と「日本人すごい」

オリンピックでたびたび話題になるのが、ナショナリズムの問題だ。国家の代表同士が競い合うのだから、応援をしているだけでも他国にたいするライバル意識は高まる。「国民」としての意識も持ちやすくなる。

先日、ジャーナリストの江川紹子さんによる以下のツイートが話題になった。

現時点で6000以上の「いいね」がつく一方、ぶら下がっているリプライを見ると批判的なコメントがすこぶる多い。

まず言っておくと、ぼくのなかには江川さんのツイートに共感する部分がある。

「羽生選手すごい、宇野選手すごい」から「日本人すごい」への飛躍からは、自分の手柄でもないことを横取りするような、そんな感じもするからだ。こういった個人主義的な倫理観は、それはそれで尊重されるべきと考える。

実際、「アイツは俺が育てた」的な、何もしてないのに他人の手柄を自分のものにして威張る態度というのは傍で見ていて気持ちよいものではない。もし仮に「日本人すごい」から他国をバカにしたり、外国籍の人を差別するような態度をとる人がいたら、「お前がいったい何を成し遂げたというのだ」と、ぼくも言いたくなる。

とはいえ、「自国の選手が勝てば誇りに思う」という心情を否定したところで、良いことがあるとも思えない。

栄誉を成し遂げた同胞から「自分も頑張ろう」という前向きなエネルギーがもらえるならとても良いことだし、「同じ日本人なんだから、困ったときはお互いさま」という方向へと流れていくなら肯定されてしかるべきだろう。こうした発想から、次のようなツイートをした。

政治思想的に言えば、「同じ国民なのだから、助け合おう」というのは、いわゆるリベラル・ナショナリズム論の発想だ。

活躍している同胞をみて良い気分になるという「メリット」だけを享受するのではなく、必ずしも自分の責任とは言えない同胞の苦境や罪にも関心を向ける、という考え方である。共同体への帰属にあたって「美味しいとこ取り」はやめておこう、という発想だとも言える。

もちろん全員がこういう発想をする必要はないし、不可能だろうとも思う。しかし、ナショナリズムを全否定できないのであれば、ポジティブな方向を目指したほうが良い、というのがぼくの判断だ。

オリンピックの「夢」

他方、ナショナリズム的な観点からだけでオリンピックを眺めるのは、ちょっともったいないという感もある。

ここは想像で書くけれども、フィギュアスケートを例にとるなら、本当に熱心なファンは、日本人選手さえ勝てばあとはどうでも良いという態度にはならないのではないだろうか。

日本人選手を応援しながらも、他国の選手の素晴らしい演技に感動したりはしないのだろうか。ナショナリズムの観点からだけで自分の好きなスポーツを眺める人たちに、少し苛立ちを感じたりはしないのだろうか。サッカーを例にとっても、国際大会では日本代表を応援しつつも、普段は海外のクラブチームを熱心に応援しているファンもいるだろう。

スポーツが生み出す絆は時に国境線を超えるのであり、そこに多くの人は感動する。平昌オリンピックのスピードスケート女子500メートルで、金メダルを取った小平奈緒選手が、銀メダルに終わった韓国の李相花選手と抱き合ったシーンに多くの視聴者が感動したのも、そういう心情の表れと言っていいだろう。

1964年に開催された東京オリンピックの閉会式。開会式と同様、閉会式でも選手団は国ごとに整列して入場してくるものと思われていた。ところが、選手たちは国籍に関係なく、ばらばらに入場してきた。国籍を越えて、手を取り合ったり、肩を叩きあったりしていた。日本選手団の旗手だった選手は、日の丸を持ったまま、ニュージーランドの選手に肩車された。

この様子を中継していたテレビでは、アナウンサーが次のように語ったという。

オリンピック始まって以来、この東京大会のような閉会式がかってあったでしょうか。あの秩序正しく華麗であった閉会式も素晴らしかった。だが、今夜、ここに繰り広げられた、国境を忘れ、人種を忘れ、渾然一体となってただ同じ人間として笑い、親しみ、別れを惜しむ人々の群れ、素晴らしい、ただ素晴らしいとしか言いようのない、涙が滲んでくるような瞬間であります。世界の平和とは、人類の平和とはこんなものであろうと旨が詰まるような瞬間であります。
(出典)塩田潮(1985)『東京は燃えたか』PHP研究所、pp.228-229。

もちろん実際には、国家という枠組みも、民族や人種という境界も簡単には無くならないし、無くなったほうが良いということもおそらくない。

国家と国家とはいがみ合い続けるし、場合によっては戦争も起きる。オリンピックはこれからも国威発揚の場であり続ける。そういう意味で、視聴者の多くにとって国境を超える絆は、ひとときの「夢」でしかない。

けれども、ほんのわずかでもそういう「夢」を見せてくれるのもオリンピックの一つの側面だろうし、それはそれで悪くないように思える。

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