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食品添加物危険論者に告ぐ「リスクの大小を冷静に比較せよ」

 "リスクの伝道師"ドクターK(山崎 毅)です。今月は食品添加物のひとつ、トレハロースの健康リスクを問題視したネット記事に対して、SFSSが初めてファクトチェック(事実検証)を実施し、判定結果を公表したことを受けて、この際まとめて食品添加物の健康リスクを煽る報道の陥りやすい問題点について考察したいと思います。まずは、最近公表したSFSSファクトチェックの記事についてご一読いただきたい:

 ・食品添加物トレハロースは本当に危険か⇒「事実に反する」
  ~SFSSが英誌Natureの問題提起論文をファクトチェック!~

  http://www.nposfss.com/cat3/fact/trehalose.html

 副題をよむとNature論文がSFSSファクトチェックの対象と誤解されやすいが、実際はNature論文をエビデンスとして見解をのべた国内記事2件を対象疑義言説として事実検証を試みたものだ。筆者が最初に当該記事(西川伸一氏)のタイトル「論文紹介:食品に添加されたトレハロースがクロストリジウムの流行の原因だった」から受けた印象は、一般的にトレハロースに限らず糖質全般が腸内細菌のエサになるのは当たり前なので、ほかの直接的原因がある疑いが強いことに加えて、典型的な食品添加物バッシングの「おとり捜査」的なにおいがする記事と感じたところだ。そうはいってもNatureの査読を通った論文なので、そのエビデンスを精査することとした。

 その結果、Nature論文の実験データそのものに関して精度が高いものかどうかの検証はできない(ねつ造や改ざんがあるとは言えない)ものの、このエビデンスをもって本当に食品添加物のトレハロースがクロストリジム・ディフィシレ菌(CD菌)の強毒化による流行(アウトブレイク)の原因だったと断定できるものなのか、その事実検証は可能であった。上述のSFSSファクトチェックの結果判定のとおり、結論は「事実に反する(レベル3)=科学的根拠を欠き事実に反する」となった。すなわちこのNature論文のエビデンスからは、食品添加物のトレハロースが原因とは断定できず、トレハロースはCD菌の栄養源(糖質やアミノ酸など)のひとつに過ぎないという結論にいたったということだ。

 さすがにNature論文のエビデンスをもとに考察するには学術レベルがそれほど低いものではないので、SFSSファクトチェックを詳しく読み込んでいただかなければ理解が難しいのだが、これをできるだけ単純に意訳解説すると以下のような感じになる:

<対象疑義言説>
 食品添加物のトレハロースが原因で強毒性CD菌がアウトブレイク?!
 ↓↓↓ そのような因果関係が本当にあるのか、エビデンス検証

<エビデンス1>
 カナダでトレハロースが認可される2年も前に強毒性CD菌が病院でアウトブレイク。
 ここ20年間トレハロースが最も流通している日本でCD菌アウトブレイクはない。

<ファクトチェック判定>
 因果関係があるとは言えず、食品添加物のトレハロースがCD菌流行の原因ではない。
 よって対象言説は「事実に反する(レベル3)」

<対象疑義言説>
 トレハロースは腸の中で菌の栄養になり、食中毒を引き起こす?!
 ↓↓↓ トレハロースがCD菌の栄養となり食中毒の原因になるのか、エビデンスを検証

<エビデンス2>
 マウス実験でCD菌+抗生物質を与え、トレハロース経口投与ありの群となしの群で症状を比較したところ、トレハロースありの群で死亡率が有意に高かったという。しかし、CD菌のエサがありとなしで実験すれば、エサがあるほうがCD菌の増殖が強いのは至極当然だ。しかもトレハロースはマウスに経口投与されたら小腸で代謝されてブドウ糖になることもわかっており、本実験でCD菌の栄養源になったのはブドウ糖だった可能性が高い。本当にトレハロースが原因というなら、なぜ対照群にブドウ糖を投与しなかったのか?

<ファクトチェック判定>
 トレハロースはCD菌の栄養源のひとつに過ぎず、食中毒の原因との証拠はない。
 よって対象言説は「事実に反する(レベル3)」(限りなく「フェイク(レベル4)」に近い)

 食品中のハザードに関して安全性が確立されているからこそ、市場に流通することが許可されているわけで、もし安全性に問題があると科学者たちがリスク評価したなら、世界の食品行政が流通を許可しないはずだ。それにもかかわらず安全性が証明されている食品添加物や遺伝子組み換え作物をあえて危険視し、不安煽動記事をまきちらす方々がいるのは大変残念だ。これらの「食品添加物危険論者」が共通して主張する一見科学的な「フェイク・エビデンス」の特徴は以下の3つだ:

1.「ヒトで病気が増えたのと食品添加物の販売が増えたのが同じ時期なので因果関係あり。
 ゆえに食品添加物が病気の原因だ?!」⇒因果関係をでっちあげたエビデンスに注意!

*遺伝子組み換え食品の健康リスクを煽るビデオでも同様の手口が多い(「世の中で潰瘍性大腸炎の患者が増えたのは遺伝子組み換え作物が世に出たのと同じタイミングだ?!」「遺伝子組み換え作物を栽培し始めた村で奇形の子供や家畜が生まれた?!」)⇒もう呆れるしかない(直接的因果関係が証明できる科学的証拠は全くなく、ただ同じタイミングだっただけ?GM食品があってもなくても起こった事象かもしれないが、そこには触れず・・)

2.「動物実験で毒性が報告されている。だから食品添加物は危険?!」
 ⇒摂取量の観点が欠落しているエビデンスに注意!

*動物実験で食品成分を大量に投与すれば、それが食塩でも毒性を発現するのは自明だ。「食にゼロリスクなし」は当然であり、ヒトで摂取量が十分低い場合にリスクが許容範囲ならば、それを「安全」と定義している。すなわち、「動物実験で食品添加物を投与したら10匹中7匹が3日以内に死亡した。やっぱりね?!」というような記事を見かけたら、まず「投与量はどのくらいだったのかな?」と問いただすべきだろう。今回のNature論文のように、被験物質投与群もそうだが、対照群に何を投与したんだろう、など実験条件が本当に適切かどうかにも注目してほしい。

3.「天然の食品は安全だが、食品添加物は長く食べていると発がん性などが心配だ」
 ⇒ 天然の食品のほうが発がん物質が多いことをご存知ですか?

*食品添加物ほど安全性試験がしっかり確認されたうえで使用を許可されている食品成分はほかになく、逆に天然の一般食品はそのリスク評価がほとんどされていないのが実情だ。たとえばお米なども環境由来のヒ素やカドミウムが残留するケースが多いものの、健康リスクが十分低いため問題となっていないだけであり、化学合成の食品添加物とリスク比較するならば、実際はお米のほうが健康リスクが高いというリスク評価結果になるのだ。
⇒「天然の食品と比較してどうなの?」とリスクの大小を冷静に比較しよう!

 食品添加物のリスク評価とリスク管理については、SFSS主催で開催したリスクコミュニケーション・フォーラム2017で国立医薬品食品衛生研究所の畝山智香子先生が、一般消費者にもわかりやすくリスクの全体像のイメージ方法を解説してくださったので、アーカイブ記事をご参照いただきたい:

 ◎リスクアナリシスで考える食品添加物の安全性
  畝山智香子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  http://www.nposfss.com/cat7/risk_analysis.html

 ◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2017(4回シリーズ)活動報告
  http://www.nposfss.com/cat1/risc_comi2017.html

 以上、今回のブログでは、食品添加物危険論者が陥りやすい短絡的なリスク評価の落とし穴とともに、消費者市民が冷静に食のリスクの大小を比較することの大切さについて解説しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションの学術啓発イベントを継続的に実施しておりますので、SFSSホームページにてご参照ください:

 ◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2018(4回シリーズ)開催案内
  http://www.nposfss.com/riscom2018/index.html

(文責:ドクターK こと 山崎 毅)

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