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「スリーパーセル」は存在するか-欧州の認識とデイリー・メールの信頼度

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BBCやNYtimesも「スリーパーセル」に言及

さて、三浦氏が述べたようなスリーパーセルが存在し、いざという時に、同氏が言うように立ち上がるのかどうか、である。ターゲットになるのはソウル、東京、大阪なのか。

筆者は英国で北朝鮮報道を見てきたが、どこからが本当で、どこからが本当ではないかの判断は、専門家でない限り、難しいという印象を持っている。

ただ、これまでの報道を見てきた限りでは、「ありうる」確率は大きいと思うし、むしろないほうがおかしい感じがする。

欧州ではイスラム系テロが頻発しているが、膨大な数のスリーパーセルの存在は周知と言ってよい。首都のみならず、第2、第3の都市がイスラム・テロのターゲットになっている。

誰が「スリーパーセル」なのかを判定するのは困難だ。いざとなったらテロを起こそうとする人を事前に察知していたら、欧州捜査当局はとっくの昔にテロを未然に防ぐよう、行動していただろう。

ただ、本当に「普通の人」(男性であること、イスラム教の国からの移民であったり、移民の子供であったりするなどの共通点がある)が、ある日突然、トラックを使って路上で人にぶつかったりする(ニースのテロ事件など)のである。イスラム国から指令を受けたというよりも、自分で何らかのシンパシーを感じて、テロ行為に及んでしまう。

ここで付け加えておくと、筆者はこの件について日本での報道を読んでみたが、今回の問題の文脈においての「スリーパーセル」についての認識が、日英あるいは日欧で違うように思った。

英国を含む欧州では、近年のイスラム系テロと関連付けた「スリーパーセル」とは、「普通の一般市民だが、なんらかのきかっけでテロなどの行為を働く人」という感覚がある。

これを、今回の「ワイドナショー」が定義したように「一般市民を装って潜伏している工作員やテロリスト」とすれば、「すでに何らかの行動を起こそうと画策している人物だが、あくまで表向きは一般市民を装っている」という解釈となり、秘密の軍隊が有事にテロを起こそうと画策している姿が想像される。

「スリーパーセル」という言葉に対する認識、印象が異なると、この言葉を使った論考に対する反応も異なってくる。

ただ、いずれの解釈にせよ、表立って分からないようになっているからこそ、「スリーパー」(眠っている人)なのであり、「秘密の軍隊・工作員」として戦闘態勢で身を潜めているのか、あるいは単にシンパシーを持って、何かの拍子に行動を起こすかもしれないのか、その判別は容易ではない。

三浦氏自身は専門家の1人として、スリーパーセルについての分析をブログに詳細に記している。

同氏はハフィントンポストに対し、「北朝鮮のスリーパーセルの存在については、例えばイギリスのメディアが、北朝鮮がラジオ放送に暗号をしのばせて各国のスリーパーセルに指令を出していたと報じるなど」と答えており、「イギリスのメディア」として紹介されていたのが、デイリー・メールの記事(2016年11月)だったことは、先述した通りだ。

デイリー・メールに限らず、他の英語メディアも「北朝鮮」と「スリーパーセル」について、報じている。

先のデイリー・メールの記事から4か月前の7月16日付で、BBCがある記事を発信した。北朝鮮がラジオ放送で暗号を流した、という。韓国の通信社「聯合ニュース」が情報源である。

東西の冷戦時代のような行動だが、韓国側は「挑発」として受け止めたようだ。

North Korea is criticised by South Korea for 'spy broadcasts' -BBCの記事

昨年5月には、米ニューヨーク・タイムズが北朝鮮のスリーパーセルがサイバー攻撃を行う危険性について報道した。

Focus Turns to North Korea Sleeper Cells as Possible Culprits in Cyberattack - ニューヨーク・タイムズの記事

英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』東京特派員で、北朝鮮情報に詳しい高橋浩祐氏に、スリーパーセルについてメールで聞いてみた。

高橋氏は、北朝鮮関連の調査活動を担当する公安調査庁調査第2部長を務めた菅沼光弘氏に複数回インタビューし、今回の問題についても話を聞いたことがあるという。

Chongryon still Pyongyang’s pawn in covert operations: former intelligence officer ――Despite dwindling numbers, pro-North organization can still be useful should hostilities arise

菅沼氏の結論は、朝鮮総連がいかに財政的に弱体化し、メンバーが減少してきていても、「いざ朝鮮半島で有事があった際のゲリラ戦を開始できる『骨格』は保っている」であった。

「朝鮮労働党や金正恩体制に忠誠を尽くす彼らにしてみれば、行動が必要な際に行動ができればいいと思っている。有事の際の工作活動において、平壌の『手先』になることは間違いない」――これが菅沼氏の見方である。

高橋氏は、「朝鮮総連を含め、北の対日工作を調査監視する機関として、日本には公安調査庁や警察の外事課などがある」が、現場レベルでは情報の共有や交換などができておらず、「国としてもっと効率的に北の対日工作を調査監視できるのではないか、と思うこともしばしばある」という。

「世界のどこの主要国も保有しているように、日本もしっかりとしたインテリジェンス機関を創設したほうがいい」

「今は、公安調査庁も、警察の外事課も、司司(つかさつかさ)で立派に仕事をしているが、それが国として全体にまとまって効率的、組織的に情報収集なりができているとは思えない。縦割り組織の弊害による無駄も多い」と述べる。

三浦氏の発言は、スリーパーセルの存在を指摘し特定の都市に言及したことで、日本で批判のさざ波を引き起こした。しばらくはこの波は続くかもしれない。

特定のコミュニティに対する攻撃と受け取られかねないことと関連付けながら、今回の発言の信ぴょう性に疑問符を付けた日本の報道が一部にあったが、これまでの英語での報道や専門家らの見方によれば、スリーパーセルの存在やその可能性は否定されていない。

特定のコミュニティへの攻撃という文脈を避けることは難しいが、筆者は「どう対処するべきか」の方に今後議論が進むことを願っている。

日本の読者を怖がらせるわけではないが、質の高い報道で知られる英ニュース週刊誌「エコノミスト」は1月27日付の記事(電子版)で、「開戦の可能性は本当にある」と報じており(筆者は同意しないが)、あらゆることの可能性の1つとして、「備えておく」ことが必要だろう。

そのためにも、しっかりとした情報収集体制の構築が鍵を握りそうだ。

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