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「スリーパーセル」は存在するか-欧州の認識とデイリー・メールの信頼度

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国際政治学者三浦瑠麗氏が、テレビ番組「ワイドナショー」(2月11日放送)で、北朝鮮の「スリーパーセル」(番組は「一般市民を装って潜伏している工作員やテロリスト」と説明)が日本と韓国に存在し、米国の北朝鮮攻撃によって戦争が勃発した場合に「活動する」と発言したことで、波紋を広げている。

ハフィトンポスト・ジャパンに、具体的なやり取りが紹介されている。

三浦瑠麗氏、ワイドナショーでの発言に批判殺到 三浦氏は「うがった見方」と反論(アップデート)

一部を引用すると、三浦氏は:「もう指導者が死んだっていうのがわかったら、もう一切外部との連絡を断って都市で動き始める、スリーパーセルっていうのが活動すると言われているんですよ」と述べ、「普段眠っている、暗殺部隊みたいな?」と聞かれて、「テロリスト分子がいるわけですよ。それがソウルでも、東京でも、もちろん大阪でも。今ちょっと大阪やばいって言われていて」と答えた。

この発言に対し、「根拠がない」という批判や、大阪には在日韓国人が多く生活していることから特定のコミュニティを攻撃しているようにも聞こえ、「差別」、「偏見を助長する」などの批判が出たという。

ハフィントンポストの取材に対し、三浦氏は「イギリスのメディアが、北朝鮮がラジオ放送に暗号を忍ばせて各国のスリーパーセルに指令を出していたと報じた」と述べた。また、自分のブログで、その発言の根拠を説明している。

朝鮮半島をめぐるグレートゲーム

ここで、三浦氏が「韓国の情報源に基づく英国の記事」として出したのが、英日刊紙デイリー・メールの記事だった。

デイリー・メールの記事(2016年11月21日付)

dailymail.co.uk

筆者は、「惜しい!」と思った。客観的な事実を示すための根拠としてデイリー・メールの記事を出すのは、英国に住んでいる人からすると、やや説得力に欠けるように聞こえてしまうからだ。

三浦氏の指摘(日韓に北朝鮮のスリーパーセルがいる)が正しいかどうかという問題とは、別の次元の問題だ。

ここでお断りしておくが、筆者は北朝鮮問題の専門家ではない。このため、こうしたスリーパーセルの存在について「本当にそうなのかどうか」については、後述する専門家の意見を紹介したい。

まずは、デイリー・メールとはどんな新聞か、そして他の英語圏のメディアはこの問題についてどう報じているのかを見てみたい。

英国内のデイリー・メールの位置付けは

英国の新聞は大雑把に言って、「大衆紙」と「高級紙」に分かれている。

高級紙はタイムズ紙、ガーディアン紙、フィナンシャル・タイムズ紙などで、多くの方がその名前のどれかを聞いたことがあるだろうと思う。日本で言うと、全国紙や地方紙のイメージである。通常大判で(ただし、タイムズやガーディアンは小型版に変身しているが)、日本で考えるところの普通の朝刊新聞である。

こうした新聞は、主としてホワイトカラーの職に就いている人、大学生、学者、そのほかの知識層、政治家、企業の経営者などが読む。

そのほかの大部分の人が読んでいるのが、大衆紙だ。すべてが小型タブロイド判で、一部売りの価格は高級紙の半分以下。手に取りやすい新聞である。

大衆紙で最も有名なのはサン紙だろう。1面の見出しが赤いので「レッド・トップ」とも呼ばれる。使っている英語は高級紙より読みやすくなっており(「8歳でも読める」という人もいる)、感情に強く訴えかけるような、ヒューマンストーリー、大げさな見出しが特徴で、女性の半ヌード写真が大きく扱われたりする。

サン同様に著名な大衆紙が、今回話題となったデイリー・メール。この新聞はデイリー・エキスプレスという新聞とともに、「中間紙」とも言われている。大衆紙ほどどぎつくなく、女性の半裸の写真もない。

階級と新聞が結び付く

英国には階級社会の名残があり、エリザベス女王を頂点に、上流、上・中流、中流、労働者階級に分かれている。英国の「中流」は日本の中流よりは、少し上の印象で、広い意味の「ホワイトカラー職」とほぼ重なる。

高級紙は中流階級以上が読み、大衆紙は主として労働者階級(ブルーカラー層)と低・中流階級が読む新聞だ。

英国で新聞の閲読が広く一般化してゆくのは、19世紀後半だ。新聞自体は17世紀から発行されていたが、社会の上層部にいる人が読むものだった。

これを変えたのが、「新聞王」と呼ばれるようになるアルフレッド・ハームズワースで、1896年、一般大衆向けの新聞としてデイリー・メールを創刊した。文章は簡潔で読みやすく、価格も飛び切り低かったことで、大人気となった。

なぜデイリー・メールの記事を使うのが「惜しい!」のか

現在の英国で、デイリー・メールはどんな新聞として捉えられているのか。

まず、デイリー・メールは、事実を慎重に積み上げた報道を行い、過度に煽情的な表現をしない高級紙でなく、「読まれる」ことを第一に、誇張表現・感情に強く訴える表現を好む大衆紙の1つである、という認識がある。

政治信条としては右派保守系で、保守的な政策を支持する人にとっては、かゆいところに手が届くような、痛快感を与える記事が満載だが、ライバル紙からは「同性愛者や女性蔑視、反外国人感情があって読むに堪えない」と言われる。

先月、鉄道運営会社ヴァージン・トレインズがデイリー・メールの車内販売を中止すると発表した。その理由は、「過激な表現や差別的な記事が多いから」であった。ライバル紙だけが「読むに堪えない」と判断したわけではないのである。

しかし、言論の自由への抑圧と受け取られることを懸念して、結局はこれを撤回することになったのだけれども。

何故、筆者が「惜しい!」と思ったかがご理解いただけだろうか。

せっかくなら、事実に即した記事を報じることを重要視する、文章は少々長めで退屈かもしれないが、「真面目」な新聞を引用して欲しかった気がする。

しかし、デイリー・メールに掲載されたからと言って、その情報が嘘とは言えないのは、もちろんである。

また、高級紙、大衆紙に限らず、一定の懐疑を持って新聞記事は読むべきだろう。故意に「フェイクニュース」を作っているわけでなくても、事実誤認となる場合があり、その新聞の政治信条によっても、どこを強調するかが変わってくるからだ。

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