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ユーロ・リスク、白井さゆり

ユーロ・リスク、白井さゆり

最近、ユーロ危機の本を4、5冊読んだのだけれど、この本が一番わかりやすかったので紹介しておこう。

メディアではユーロ崩壊が騒がれているが、ユーロ崩壊とはそもそも何なのだろうか? それはおそらくユーロの価値が暴落、つまりユーロ圏でインフレが起こることか、ドイツなどの主要国がユーロを脱退することを意味するのだろう。しかし、わずか数年前の世界同時金融危機が起こる前は、ユーロこそが未来の基軸通貨で、スーパーモデルがギャラの支払いでドルを拒否してユーロを要求したとか、産油国がやはり支払いをユーロで要求したとかいうニュースを同じメディアが報じ、ユーロをさんざん持ち上げていたのだ。

確かにユーロ危機ではあるが、ユーロによる恩恵は多岐にわたり、それらをユーロ導入国が簡単に手放すとは思えない。ユーロが未来の基軸通貨というのもメディアの過剰反応なら、ユーロ崩壊というのも同じく過剰反応だろう。現在、17ヶ国でユーロが導入され、人口約3億人、1000兆円ほどのGDPを有する、世界最大の経済圏を形成している。今後、ヨーロッパ諸国が、アメリカ、中国という超大国と対峙していくために、このユーロという通貨は必要不可欠なものだと考えられている。

さて、ユーロの何が今問題になっているのだろうか。この前、経済誌Spaに寄稿した論文にも書いたのだが、ユーロ圏内で借金を踏み倒してユーロという通貨の信用を貶める国がちらほら出てきてしまったのだ。

最初の問題国家はアイルランドだった。アイルランドの銀行は不動産バブルに狂って、他国から金を借りまくって、それを不動産市場に突っ込み、見事にバブル崩壊で破綻してしまった。アイルランド国民は、こういった銀行の尻拭いを今後何年も続けていかなければいけないだろう。しかし、アイルランドの問題はまだある程度国内に留まっていた。

ユーロ危機の引き金を引いたのがギリシャという二級国家である。ギリシャ人はもともと怠け者で、人から借りた金を返さないのを何とも思わないような国民であったが、ユーロという同じ通貨を使っていたために、なんだか信用のおける国民と多くの外国人投資家が勘違いしてしまい、多額の金を貸し込んでいた。そもそもギリシャは、ユーロに加盟するための財政収支などの条件を満たすために、外資系投資銀行に頼んで、国家ぐるみで国の財務諸表を粉飾していた。そして当然のように、やっぱり借りた金は返せないと言い始めたのだ。それから、ギリシャに続けとばかりに、イタリア、スペイン、ポルトガルのような、地中海のモラルの低い問題国家が、ギリシャと同じように借金を踏み倒そうと虎視眈々とチャンスをうかがっている。

そもそも、アイルランドやギリシャのような国々はなぜそこまで借金をふくらませたのだろうか。そのことを考えるとユーロ危機の問題がわかってくる。ユーロという同一の通貨を導入したこれらの国々は、依然として主権国家として自国の財政を運営するが、ユーロの政策金利に関しては同じになる。つまり、ユーロの金利はドイツやフランスのような成熟した大国にはちょうどよかったり、あるいは高すぎたりしても、アイルランドやギリシャのような国にとっては金利が低すぎるのだ。金利が低すぎるということは、借りれば借りるほど得ということになり、これらの国では大規模なバブルが発生してしまった。

しかし、日本にしろアメリカにしろ、大きな国では、経済的に好調な地域と不調な地域が出てくるのは当然で、何ら不思議なことはない。日本など特にそうだが、経済の強い地域から弱い地域に再分配が行われる。日本では、東京から地方に莫大な富の再分配が行われているのだ。ところが、ユーロ圏の加盟国はそれぞれが独立国であるので、このような調整が容易ではない。酒を飲んでばかりでぜんぜん働かない地中海の人々に対して、ドイツ政府が財政支援するということでドイツ国民の怒りは爆発した。

ギリシャの島を強制的に売って借金を返させろとドイツの政治家が発言し、これがギリシャ人のプライドをいたく傷つけ、大変な国際問題に発展してしまった。第二次世界大戦を見れば明らかなように民度の極めて低いドイツ国民は何か勘違いしているようだけど、ギリシャが借金を返せなくなると、非常に困るのはドイツ国民なのだ。ドイツの銀行はギリシャ国債をたんまり抱えているし、イタリアやスペインの国債までおかしくなると、欧州のそこら中の銀行が破綻してしまう。そうなるとこれらの銀行が中小企業などに貸している金を一斉に引きあげるので経済が崩壊してしまうのだ。銀行を守る、すなわち銀行家が十分な給料を受け取り気分よく仕事をするために、ドイツやフランスといったユーロ圏の大国の労働者は汗水垂らして働いて、しっかりとギリシャやイタリアに財政支援をして、もう一度借金を返そうという気になってもらわないといけないのだ。

このように、現在、ユーロ圏の経済は、大小様々なモラルハザードと愛憎が入り混じった、なかなか面白い状況になっている。ユーロ危機からの教訓は、おそらく借金というのは金額が大きくなると、借りている方が偉いということなのかもしれない。あるいは、モラルハザードも大きくなり過ぎると、人々の感覚が麻痺して、間違ってる奴が偉いということなのかもしれない。

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