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リベラルは失敗から学んだのか -拉致問題と三浦瑠麗の「スリーパーセル」発言から考える議論の方法

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北朝鮮問題で、総崩れとなった「リベラル」

町山が言及している辛光洙(シン・ガンス)は拉致工作の主要な工作員のひとり。

後に別の対韓国への工作で韓国当局に逮捕された。が、韓国における在日韓国人政治犯釈放の要望を日本の左派リベラルが行った際に、この辛光洙が釈放要望リストに入っていたため、拉致事件が明らかになったあと、日本の右派政治家から厳しく批難された。拉致加害者の工作員の釈放要望をするとはどういうことか、と。

当時北朝鮮と友好関係にあった日本社会党や北朝鮮シンパの人権活動家は、この拉致事件についてもこれを完全に否定していた。唯一この問題を追及していたのは産経新聞と日本共産党である。日本共産党は1960年代から北朝鮮と対立し始めており、その「極左冒険主義」に対する批判の急先鋒でもあった。

2002年に拉致問題が明らかになったとき、人権問題と称して拉致問題をフェイク扱いしていたリベラル陣営はいわば総崩れした。変わって、これまで北朝鮮批判をしていた右派が発言力を強める。これが、拉致問題にお先棒を担いでいたようなリベラルは信用できないという右派のキャンペーンになり、この問題には解決能力がないという世論のバックファイヤーを招き寄せた。

今回の一件では、このかつての失敗をまた繰り返してしまっているのではないかと私には思えてならない。

なお、自分の知りうるかぎり、このような工作員の話はいわば在日韓国人・朝鮮人社会では当たり前に囁かれている話で、実際にそのような体験をもつものもいる。

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もうひとつ参考までに。在日コリアン社会をテーマに数々の話題作を撮り続けているヤン・ヨンヒ監督の「かぞくのくに」も、このように北朝鮮の工作員に実の兄からオルグされるシーンが出てくる。これはもちろんドラマなのであるが、このエピソードも含めて監督本人の体験した実話がベースとなっている。こちらも映画として秀作である。

なお、これらのエピソードはいわゆる「スパイ」の話で、三浦が言うようなテロではない・・・という意見もあるだろうからあらかじめ書いておくと、大韓航空機事件・文世光事件・ラングーン事件・金正男暗殺事件などをあげておく。これらはテロである。ここでは長くなるので触れないのでそれぞれお調べください。

さて本題に戻ろう。三浦瑠麗の発言についてである。

拡大解釈という「差別」 -三浦瑠麗の発言はなぜダメだったか。どう進めるべきだったか

私の結論として、三浦のバラエティ番組の発言が不用意だったことは間違いない。では、三浦の指摘した事態が「フェイク」なのかといえばそれもまたどうなのだろう。正直、三浦の主張については、自分はそれが存在するべきものだと考える。これは今まで見てきたとおりである。おそらく、三浦の話はフェイクではない。

しかし、だからといって、三浦の発言が許容できるものかというと話は別である。

なぜなら、この手の話は確かに差別問題を招き寄せる可能性が高いからだ。それを回避して議論を進めるには難しい判断となる時がある。

こう考えてみよう。

1.ある特定の属性や集団Aの中に、(a)という小集団がある。

2.(a)について語る時、A=(a)では必ずもない

3.(a)はAの部分に過ぎない。

4.だからといって(a)が存在しないわけではない。

問題はA=(a)とする短絡的な拡張解釈自体である。この短絡的な拡張解釈を「差別」という。今、ネットに溢れかえっているヘイトスピーチやヘイトクライムはまさにこれだ。

一例をあげよう。排外主義団体で、これまで数々のヘイトクライムを扇動して、数々の裁判で罪を問われてきた在特会(在日特権を許さない市民の会)をはじめとする右派系グループによる京都朝鮮学校襲撃事件では、朝鮮総連に所属する小学校が授業中に街宣活動を名目に襲撃された。この時、子供たちに浴びせられたのは、「北朝鮮のスパイ養成機関、朝鮮学校を日本から叩き出せ」や「日本から出て行け。何が子供じゃ、こんなもん、お前、スパイの子供やないか」等のヘイトスピーチであった。

そもそもこの白昼に授業中に生徒のいる学校に街宣活動を行い、実力行使で目的を遂げようとした抗議活動の正当性についても筆者は大いに疑問があるが、百歩譲ってその主張に理があるとしても、子供たちには一切関係のない話なのではないか。これこそまさにA=(a)の拡張解釈である。これは(a)がAという母集団に依拠するがゆえの錯誤によってそう見えてしまうこともあるが、確信犯的にAという母集団を攻撃するために行われることもある。在特会はじめとするいわゆる「ネット右翼」が、ヘイトスピーチやヘイトクライムを引き起こす装置がこれである。

だからといって、その拡張解釈の恐れがあるから(a)については語るべきではないとか、その(a)自体なかったことにするというのも間違いでもある。ではその(a)についての議論はありえないのかというとそれは違うだろう。それが社会的に問題であることならなおさらだ。すると、拡張解釈自体の危険性を前提に(予防)して(a)を語るのは、あってしかるべきことなのではないか。

今回の一件の結論として、三浦の間違いは拡張解釈の危険性を予知していなかったことといえる。

バラエティ番組という面白ければよかれというフレームで、なんの留保もなく、また情報ソースも十分に言及できないものを、拡張解釈の危険性を全く考慮してなかったのだから、これは危険だと言われても仕方なかろう。よって三浦を私は弁護できない。

しかし、だからといって(a)は幻というのもまた違うだろう。つまり、三浦が成そうとした議論が無意味とも思えない。

ここではっきりさせなければならないのは、このようなセンシティブで憎悪扇動に陥る可能性が高い事象に対する議論の仕方である。

拉致問題では、この母集団(A)への配慮や拡張解釈の恐れから、(a)が幻とされた。ところが実際に(a)は存在したことが明らかになり、それまで(a)まぼろし説で正常な議論が行われていなかったため、その反動で(a)まぼろし派は決定的な信用棄損をうけ、そればかりではなく(A)への拡張解釈を逆に強めた。つまり逆に差別に対する口実を結果的に与えたのである。

そうすると(a)に対する議論は別途必要とされるならば、(A)=(a)という拡張解釈をしないゾーン(A)≠(a)の中ですればよい(実際、公安などをはじめとする行政機関はそうしているだろう)。

実際、日本社会は短絡的な拡張解釈を過去に行っており、現在でもその危機の萌芽はある。それではそれを避けるための一般的に方法について考えてみよう。

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母集団Aの中の(a)に言及するには、外部からは母集団Aを通過しなければならないため、(a)はAとして錯視されてしまう。これが「差別」のしくみ

拡張解釈(差別)を引き寄せない議論の方法

方法1.議論をゾーンの中で行う

方法2.全体コミュニティの(A)=(a)の拡張解釈を許さないような議論の枠組みをする。

方法3.(a)に対する議論に(A)を通して行う。または巻き込む。

方法1.議論をゾーンの中で行う

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いわゆる「ゾーニング」。議論に適さないクラスタを排除したうえで議論をする

方法2.全体コミュニティの(A)=(a)の拡張解釈を許さないような議論の枠組みをする。

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(a)という問題を母集団Aから切り離す(拡張解釈を防ぐ)議論とする

  方法3.(a)に対する議論に(A)を通して行う。または巻き込む。

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Aからの視点を繰り込みながら議論を行う。Aがどのように認識しているかを通して事態を把握する。

三浦はこれのいずれの手立ても打たなかった。稚拙と言われても仕方ないし、本人の意図とは別に差別扇動と言われても致し方ない。

ところで不思議なのは、この三浦の発言のあったわずか一週間前に、やはり北朝鮮の工作員活動について触れていたのに、これは全く問題にされなかったことだ。

櫻井翔×池上彰 教科書で学べない「ニッポンの想定外」 2月5日

もちろんこれは三浦のように不用意に特定の地名を述べたり、テロとの関係に直接に触れなかったということもあるだろう。ただ池上は全くこの手立てを打たなかったのに問題はなかったのは、複数の角度から、特に韓国の声を織り交ぜながら紹介したのがむしろ大きい。これは先ほどの方法3に該当する。

トランプやルペンのような排外主義を招き寄せたのはだれか

朝鮮総連という組織は二つの側面をもつ。ひとつは民族の互助団体としての側面で、異国の地の同胞のために生活や文化、さらには経済的なフォローや人権問題に取り組むというもの。私はこの活動に心の底から賛同する。

しかしもう一つの側面もある。それは北朝鮮の事実上の在外公館、つまり北朝鮮政府の組織であるというものだ。この側面には負の部分を担ってしまっているところがあるのではないか、というのが大方の意見であろう。実際、拉致事件でもその組織的関与は当たり前のように疑惑を持たれている。

これも方法2のように切り分ければいい。民族の互助団体としての側面は評価し、非合法活動をする側面は批判する。または方法3のように母集団の意見や視点を借りればいい。

拡張解釈を警戒し、しかし問題には適切に議論を重ねること。これが出来なかったために、人権問題が隠れ蓑になり問題は放置された。これが拉致問題を通じて日本の右傾化が加速した原因のひとつであると自分は特に強く言いたい。

これは日本ばかりの話ではない。人権問題にプライオリティを過剰に置きすぎ、問題に対処できなかった欧米社会は、排外主義を育て、その果てにトランプやルペンを招き寄せた。イギリスはEUから離脱した。これはリベラルの失敗である。

先に紹介した、拉致問題の犯人に対して、その釈放運動をしてしまった土井たか子や菅直人をはじめとする左派リベラルを「極めてマヌケ」と評したのは、現総理の安倍晋三である。

菅前幹事長は、自らのホームページの中で「13年前の130数名の超党派の国会議員の要望書に私の名前があるということで痛烈に批判している。当時の記憶をたどると、要望書は韓国の民主化運動で逮捕された東大生など在日韓国人について韓国政府に対し釈放を要望するという趣旨で同僚議員から賛同を求められたもの。対象はあくまで民主化運動に関係した在日韓国人の政治犯と説明され、この中に日本人に成りすました北朝鮮の工作員シンガンス容疑者が含まれていたことは当時全く知らなかった。事実関係を再調査しているが、シンガンス容疑者が含まれた政治犯釈放の要望書に名を連ねていたとすればそれは私の不注意。お詫びをしたい」と説明している。

民主党ホームページ

この二の舞にならないことを希望するが、現在のリベラル勢のネット上に現れている議論を見ると、彼らは学んでいないということを私は残念ながら認めなければならないことになる。

もし本当に北朝鮮工作員によるテロが起きて、それが「スリーパーセル」の仕業だったとき、リベラルはまた謝り、右派はその主張を強め、そしてまた拡大解釈、つまり特定集団に対する憎悪を招き寄せるだろう。それを私は強く恐れている。しかしリベラルの過去に学ぶことのない姿を見せつけられている今は、ただ予感が的中しないことを祈るしかなさそうである。

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