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ドラマ「アンナチュラル」のこれまでの感想

今のところTBSドラマ「アンナチュラル」を欠かさず見ている。

科学的な細かい部分については、ともかくも、設定やストーリーについては、脚本家の方が大変よく勉強しているなというのが素直な感想だ。
以下、よく考えられているなと感じることを述べてみる。

5話で、最愛の彼女を殺害されたと知った彼氏が、犯人を刺し殺そうとする。しかし、UDIの存在しない現実の社会では埋もれた殺人がある。振りかざされた刃物は、そうした見逃された殺人に対する潜在的怒りを表現しているようにも感じられた。

ドラマの中で出てきた法医学女子会は現実味のある話である。
多くの男性は安定した職場を求め、不安定な法医学を避ける傾向があるように思う。一方、女性は生涯でキャリアを変更することが男性より多く、安定より社会的意義を感じる職場を選ぶ傾向があるためか、法医学は最近、女医さんが増えている。時々、法医学に所属する女性医師と法医学に所属する薬剤師さんや検査技師さんなどが女子会を開いているようなので、この点もよく調べているなあと感じる。

ドラマの中のセリフも考えられているようだ。
臨床検査技師が、当初は、政府の死因究明推進の流れのなかで、UDIは国立になると思い、UDIに就職すれば安定した職を得られると思っていたのに、そうはならず、泥船に乗ってしまったといった話をするシーンがある。しかし、現実にはUDIのような機関でさえ、国や自治体は作ろうともしない。法医学で働く臨床検査技師は、泥船に乗れるどころか、崖から海へ突き落とされたような形で7K職場で働いているのだ。そうした現実に対しての皮肉的な表現と思われ、興味深く見た。 UDIの設定そのものも興味深い。
米国の監察医(Medical Examiner、ME)は、犯罪死体も非犯罪死体も検死する。ME事務所には、医師以外にもDeath Invesitigtor(調査官)が所属し、遺族に対する聞き込みや、現場写真の撮影なども実施し、そうした情報を元に、MEが死因を犯罪に起因するか否かを決めている。一方日本の監察医は米国のMEと違って、犯罪死体を扱う権限はない。そのため、日本の監察医務院には犯罪現場に赴いて、周辺を調査する役割を持つ人員は配置されていない。

従来の日本のドラマは、アメリカのドラマの影響なのか、監察医が犯罪捜査における中心的な役割を果たすなど、あまりに日本の現実と異なっていた。アンナチュラルでは、UDIという架空の設定を行うことで、米国のME制度類似の検死を行うこと、つまり、調査官や医師が現場に赴く(またそのことで、二次被害的な事件にあう)ということに現実味を持たせている。これまでの、特に監察医を主人公としたドラマとは一線を画したドラマと感じる。

これまでの監察医ドラマは、あまりに設定がひどかったと思う。実際の法医学が、極めて危機的状況にあることは隠され、監察医が犯罪死体を扱い、監察医が死体を見れば、こんなこともあんなこともわかるといった非現実な話ばかり強調されるなど、国民に嘘を伝えてきたようにさえ感じる。また、多くのドラマが、法医学は死者の尊厳のためにあるという点ばかりを強調してきたが、アンナチュラルでは、死者のためというより、今生きている国民のために法医学があるという、法医学が本来目指している点が強調されており、その点も好感を持つ。

また、UDIの設定そのものが、日本の監察医制度の欠陥を指摘しているようにも見ることができる。公益法人のUDIの方が、公立の監察医務院より、お金を集めやすく、大学法医学教室や、民間機関との連携がやりやすい側面がある。犯罪死体を扱わない日本の監察医制度は、それ自体が大変な欠陥といえるし、多くの国の運営と乖離している。法人化などを通して、大学法医学教室と連携し、犯罪死体も扱うと同時に後継者育成も積極的に行う組織に改革していくべきとも考えられので、むしろドラマに教えてもらえることもあるように思う。

このドラマ、今後どんな展開をしていくのか楽しみであり、またこのドラマがきっかけとなって、法医学の現実を多くの国民が知ってもらえるなら大変ありがたい。

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