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トランプ政権の正しい読み方

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一般教書演説を行うトランプ大統領 flickr  The White House

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【まとめ】

・トランプ政権への現状認識を曇らせる好き、嫌い

・政権への実害をもたらさなかった「暴露本」。

・驚くほどの支持を得た一般教書演説。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-deptのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=38385でお読みください。】

アメリカのドナルド・トランプ大統領も就任以来、2年目へと入った。同大統領はますます活発に動いている。日本側のいわゆる識者たち、そして主要メディアによる「トランプ政権の崩壊」や「トランプ大統領の弾劾」の予言はみごとに外れたわけだ。トランプ大統領が大統領として健在であり、いまのところ退陣や政権崩壊の兆しはないことがあまりに明白だからだ。

では日本側でのアメリカ通とか、識者とされる向きはなぜトランプ政権の現状や展望をこれほど大きく見誤るのだろうか。このあたりでトランプ政権の読み方の復習が必要なのではないか。

ワシントンと東京を往来する私からみて、日本側でのトランプ大統領への反応には大きく分けて3つのレベルがある。

第一はまず個人としての好き、嫌いである。トランプという人物を人間として、あるいは政治家、ビジネスマンとして、好きか、嫌いか、という基準だといえる。この次元では好悪の感情が最大の要因となる。とにかく好悪の情だから、理屈も損得もない。

日本の識者の大多数はこの点ではトランプ氏が嫌いなようにみえる。「彼はとにかく愚かだから」「無知だから」という批評はこの次元で出てくるといえよう。

第二は、政策への反応である。トランプ氏が大統領として打ち出す政策に反対するか、同意するか、あるいは内容をどう意味づけるかという基準だといえる。この次元でも好悪の感情は要因となろうが、少なくとも主眼はトランプ大統領が打ち出すTPP(環太平洋パートナーシップ)協定離脱法人税率の大幅引き下げという具体的な政策への判断となる。特定の政策がアメリカにとって、あるいは他の諸国にとって、どんな影響を及ぼすかを踏まえての政策の判断となる。

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▲写真 TPP首脳会合 平成27年11月18日フィリピン共和国・マニラ 出典:内閣官房

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▲写真 減税法案の議会通過を祝うトランプ大統領 flickr : The White House

第三はトランプ政権の現状と展望への認識である。トランプ大統領があまりに低い支持率のために辞任に追い込まれるのか、ロシア疑惑のために弾劾されるのか、そもそも今後どのくらいの期間、ホワイトハウスに留まることができるのか、という情勢認識である。

以上の三つのアプローチのうち最重要なのは当然、第三である。超大国アメリカの大統領の命運がどうなるのか、その現状の認識であり、展望の予測だからだ。第一も第二も、識者の側は自分自身のトランプ氏への好き嫌いや、政策への反対、賛成を主観的に述べるだけですむ。いわば、一人よがりの断定でことはすむ。

ところが、第三のトランプ大統領の今後となると、好悪の感情では当然、律しきれない。客観的な事実認識に基づく判断が欠かせなくなる。この点で日本の識者の多くはミスを冒してきた。情緒に走り、事実を視る目を曇らせたともいえるだろう。

そんな情緒的なトランプ大統領糾弾の典型例とも思える一文を最近、目にした。情報誌とされる「FACTA」の2018年2月号巻頭エッセイだった。この雑誌はその筋ではなかなかの評価の高い情報雑誌である。一般の書店では買えない年間予約購読制で、みずからは「既存メディアの報道だけでは満足できない、情報感度の高いリーダー向けの総合誌」とうたっている。実際に内容は政治、経済、社会、文化などにわたり、一般メディアにはない鋭い切れ味のスクープ記事も多い。

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▲写真 FACTA 2018年2月号 出典:FACTA ONLINE

私もこのFACTAを知人から送られて、ときおり読んできた。なかなかおもしろい雑誌だと思った。だが最新の2月号の巻頭にあるエッセイ「いまここにある毒」には失笑させられた。この一文は「そして誰もいなくなる」という見出しだった。内容はトランプ大統領に対するきわめて感情的、主観的な貶(けな)しである。

エッセイの骨子を簡単に述べるならば、トランプ大統領は今年1月はじめに出た『炎と怒り-トランプ政権の内幕』(マイケル・ウォルフ著)による暴露本に耐え切れず、失脚してしまうだろう、という予測だった。その一文にはマンガふうのイラストがついていて、トランプ大統領がホワイトハウスの執務室らしい部屋から地下の闇へと墜落していく図がついていた。

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▲写真 『炎と怒り-トランプ政権の内幕』(マイケル・ウォルフ著) 出典:Amazon

このエッセイはまず「いまここにある毒」というタイトルからして、トランプ氏を「毒」だと断じていた。そのうえで「そして誰もいなくなった」という著名なミステリー作家アガサ・クリスティーの作品の題名からの表現を強調するのだった。その意味はトランプ大統領もいなくなる、あるいは同大統領の回りには誰もいなくなる、ということである。

そのエッセイの一部は以下のようだった。

≪トランプ大統領は暴露本の「ネタバレ」に耐えられない。元首席戦略官で袂を分かったスティーブ・バノンに、ロシアゲートで愛娘イバンカの夫やジュニアが「売国的」と批判されたくだりがあるからだ。情報源のバノンを「職も正気も失った」とツィートで罵倒した≫

≪大統領周辺は一気に「バノン離れ」に走りだした。イデオロギーの支柱を失ったトランプは、正気に戻るだろうか。否、残ったのは気まぐれとネポチズムだけだ。身内以外は誰も信じられないのだ。

ネタバレのドタバタ劇の後に待つものは、同じアガサ・クリスティーの別作品だろうか。

そして誰もいなくなった…≫

以上のような情緒的な一文が意味するところはトランプ大統領が1月に出た暴露本で回復不可能の打撃を受け、まったく孤立してしまう、あるいは辞任してしまう、という予測である。

ところがこの暴露本はトランプ大統領にもトランプ政権にも政治的にはなんの実害も及ぼさなかった。政権が揺らぐような気配はまったくなかったのだ。「誰もいなくなる」という現象は起きなかったのだ。それどころか現実にはトランプ大統領は1月30日の連邦議会上下両院での初めての年頭の一般教書演説ではそれまでよりずっと多くの超党派の支持を得たのだった。

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▲写真 一般教書演説を行うトランプ大統領 flickr : The White House

トランプ大統領はこの演説で、共和・民主両党に対し移民問題やインフラ投資法案で歩み寄るよう呼びかけた。野党の民主党側からも意外なほどの拍手がわいた。そしてアメリカ国民一般からもこの教書演説への賛同が驚くほど多かった。CBSテレビの世論調査では一般国民の75%が「トランプ大統領の一般教書演説を支持する」と答えたというのだった。

「そして誰もいなくなる」という日本の雑誌でのご託宣とはあまりに異なる現実があらわとなったのである。

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