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9月に向けて「派遣切り」が急増するワケ

2018年末には「年越し派遣村」が復活するかもしれない。2015年施行の改正労働者派遣法は、派遣社員の受け入れ期間の上限を3年と定めた。法改正の目的は派遣社員の処遇向上だったが、その結果、3年を待たずに「雇い止め」にあう派遣社員が続出している。現場でなにが起きているのか。派遣会社の役員に匿名で実態を聞いた――。

■2018年、派遣社員の「雇い止め」が横行する背景

今年は派遣社員の「雇い止め」が横行するのではないかと予想されている。その証拠にすでに弁護士団体などがネット上での無料相談をはじめている。

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写真=iStock.com/chombosan

相次ぐ「派遣切り」の背景にあるのは、2015年9月に施行された改正労働者派遣法だ。政府が派遣社員の処遇向上のために推進した政策が、逆効果を生んでいるのだ。

改正労働者派遣法では、有期雇用の派遣社員の受け入れ期間の上限を3年とし、以降は無期雇用への転換など雇用安定措置を設けることとされた。その「3年終了」が今年の9月末なのだ。

法律では派遣元(主に派遣会社)の責務として以下の4つのいずれかの措置を講じることを求めている。

(1)本人の希望を聞いた上で派遣先(本人が働く企業)に直接雇用を依頼
(2)新たな就業機会(派遣先)先の提供
(3)派遣元事業主において無期雇用
(4)その他安定した雇用の継続が確実に図られると認められる措置

仮に(1)を派遣元から派遣先にお願いして直接雇用に至らなかった場合は、派遣元は(2)~(4)のいずれかを講じることになる。

▼「派遣社員を使う最大メリットは人件費の安さ」

また、派遣先は派遣元から直接雇用の依頼があった場合、新たに事業所内で労働者を募集する際に、その情報を派遣労働者に周知することを求めている。そして施行後、4年目を迎える派遣社員に対し、2018年10月から派遣元は上記の雇用安定措置を実現する必要がある。

だが、この措置は人材派遣会社の経営に深刻な影響をもたらす可能性がある。4000人の派遣社員を抱える流通系派遣会社の役員はこう語る。

「派遣先企業にとって派遣社員を利用する最大のメリットは、正社員と比べ、雇用責任がなく人件費が安いことにあります。ところが、『3年超の派遣社員を直接雇ってください』とお願いしても多くの企業から拒否されることは目に見えています。そうなると新たな派遣先を探さなければなりませんが、大手の派遣会社と違い、同じ時給で同じ仕事を探すのは簡単ではありません。小規模の派遣会社はさらに難しいでしょう。そうなると派遣元が無期雇用にせざるをえませんが、仕事がなくても休業補償をしなくてはならないのでコストアップになる。体力的にも厳しいので、中には雇い止めで契約を終了するところも出てくるでしょう」

■派遣社員の処遇を向上する狙いが、完全に逆効果

派遣切りの原因になるのはそれだけではない。

2013年4月に施行された改正労働契約法は、契約更新による通算5年超の有期契約社員が自動的に無期雇用に転換できる権利を付与した。そして5年後の2018年4月から解雇しにくい無期契約に切り替わることになる。

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賃金などの労働条件は直前の有期契約のときと同じでもよく、既存の正社員に合わせる必要はないが、有期契約の派遣社員が派遣元での無期契約への転換を希望する人が増えると、さらに経営を圧迫することになる。

そして「派遣切り」が増えるもうひとつの原因が、安倍政権が正規と非正規の格差是正を目的に打ち出した「同一労働同一賃金原則」をベースとする労働者派遣法の改正案だ。法案審議が今年の通常国会で審議され、19年4月の施行を予定している。

この改正案の最大の柱は、非正規社員が正社員との間に不合理な待遇差がある場合にその非正規社員が裁判に訴えやすくすることにある。新たに(1)派遣先の正社員との均等・均衡待遇とする、(2)派遣元の正社員との均等・均衡待遇とする――の2つのいずれかを選択することになった。

(2)が設けられたのは、派遣先が大企業から中小企業に変われば賃金水準が下がることなどが理由となっている。ちなみに均等待遇とは仕事の内容が同じであれば同じに待遇にする、均衡待遇とは仕事の内容が違う場合は、その違いに応じてバランスをとる、という意味だ。たとえばすでに政府が示している「同一労働同一賃金ガイドライン案」では、通勤手当は派遣を含む有期雇用労働者も「無期雇用フルタイム労働者と同一の支給をしなければならない」としている。

▼「安倍政権」は派遣切りが増加する要因を作った

有期の登録型派遣は派遣期間が終了すれば雇用契約が終了したが、一連の制度改革が実現すれば派遣社員は無期雇用(正社員を含む)を選択できる。とぎれることなく派遣で働けることになり雇用も安定する。さらに賃金などの処遇も向上することになる。これはこれで結構なことなのだが、前述したように派遣業界は中小の事業者が圧倒的に多く、実現は容易ではない。

「同一労働同一賃金が制度化されると、派遣先は自社の社員との均等・均衡を図るために賃金情報を派遣元に開示しなくてはならないとし、派遣元に対して待遇改善の原資を確保するための派遣料金を上げることができる配慮義務も課されています。しかし、派遣先から『うちには派遣社員と同一の職種はない』と拒否されるかもしれません」(前出の役員)

■2018年末に「年越し派遣村」が復活する

無期雇用のコストに加えて均等・均衡処遇という二重のコスト負担は当然、経営を圧迫する。この役員はこう指摘する。

「今でも派遣社員の社会保険料やキャリアアップのコストアップで利益が出なくて苦しむ企業が多いのです。さらに法改正に伴うコスト負担に耐えられずに廃業・倒産する企業が増えるのは間違いありません」

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派遣会社の事業所数は約8万。すでに2015年の派遣法改正で派遣事業の届出制が廃止され、許可制に一本化され、届出制の事業者の廃業が相次いでいる。そこを「2018年ショック」がおそえば、一気に業界の淘汰が進み、最終的に生き残るのは業界大手企業だけではないかという見立てもある。

生き残りを図ろうとする中小の派遣会社では、無期雇用化を避けるために派遣の上限期間の前となる2~3年で雇い止めを行う企業が出てきているという。

▼契約1年目に、以降も継続して働いてもらうか「選別する」

また、5000人以上の派遣社員を抱えるコールセンター会社では、4月以降の無期転換を防止するために、今後は契約後1年を迎えるまでに能力・スキルの選別を行おうとしている。同社の人事担当者はこう語る。

「新たな評価制度を作り、契約後1年を迎える段階で能力・スキル基準を設けて選別し、今後も継続して働いてもらうかどうかを決めていく予定です。基準をクリアできなければ残念ながら契約打ち切りとなる」

もしそういう会社が増えると、派遣社員の雇用は不安定にならざるをえない。派遣社員の雇用の安定と処遇の向上を目指した一連の法改正が、むしろ不幸をもたらす結果になりかねない。

リーマンショック後の2008~09年に大量の派遣切りが発生し、「年越し派遣村」が誕生した。「2018年ショック」は、再びそうした事態を招く恐れがある。早急の対策が必要だろう。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)

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