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八ッ場ダム遥かなり

 八ッ場ダムについては、ついに工事再開・完成へと政府の方針は決まってしまったようだ。「コンクリートから人へ」のスローガンで中止を唱えた前原氏が最後の抵抗をしているが、終戦処理の形づくりをしているようにも見える。民主党の政権公約は、これが消えると、目ぼしいものはすべて消滅ということになりそうだ。

 公約だから絶対に守るべきだというのではない。今は8割まで終っていると言われるようになった工事の実態はどうなのか、私は秋に訪ねて写真とルポでこのブログで報告したのだが、意外にもダム本体の建設現場には、手つかずのままで渓谷が残っていた。してみると八ッ場ダム建設というのは、周辺地域の改造こそが主要な事業で、ダムを作って水を貯めるのは、小さな一部分ということになる。少なくとも金の使い方では、そうなる。

 今回の決定で地元からの反対の声が少ないのは、すでに現場に住民が残っていないからだという説も読んだ。新しい土地へ移った人の方が多くなっているのは事実だと私も思う。しかし今の川原湯温泉と新しい集落とは、それほど離れているわけではない。たとえば数段のエスカレーターをつければ自由に往来もできそうだと思った。観光の目玉にもなるかもしれない。

 もし、ダムに水を貯めるのをやめても、高台に作った新しい町は生きるだろう。道路も鉄道も新しいものを使えばいいので、それに加えて渓谷と古い温泉と、広大な山林と農地も残ることになる。地元の将来にとっても、決して悪い話ではないと思えるのだが、どうなのだろう。

 これから渓谷に巨大なダム本体を作り上げ、広大な面積の湖水になるまで水を貯めて管理する事業が、残り2割の予算でできるとは、私には到底信じられない。ダムを作るというのは、それほど簡単な工事なのか。追加予算の投入など多くの嘘が隠されていると私は思う。ここで止めたら今までの金が無駄になるという理屈で押し切るつもりだろう。

 政府がダム工事再開を決めたと聞いたとき、私は「やんぬるかな、八ッ場」と思った。同時に、川原湯温泉への旅で感じていた温かいものが、急に冷めて行くような気がした。地元の人がそれでいいというのなら仕方があるまい、ただっ広い湖水があるというだけで、そんなところを見に行くこともあるまいと思った。だが、一つだけ質問してみたかった。「ダムを作って水を貯めると、どんないいことがあるんですか、このままでは困るんですか」と。

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