記事

トランプ大統領の一般教書演説を読み解く(付録:ロシアゲート疑惑をめぐる続報)

1/2

一般教書演説は非常にトランプ的

トランプ大統領の一般教書演説が終了しました。メディアは早速演説を分析し、強い米国、強い経済を訴えながらも、外交政策で新味に欠けているとか、あるいは米国民の結束を訴え超党派の取り組みを訴えながらも他方で国を分断させている大統領として語られています。あるいは、トランプ大統領にしては比較的お行儀が良かった、原稿自体は無難だったという意見も見かけられました。

私は、ちょっと違う風にこの演説を見ています。つまり、この演説自体は(出だしのフォーマルさを除けば)非常にトランプらしいものだったと。ちょうど一年前の就任式に刊行した拙著『「トランプ時代」の新世界秩序』やこのブログでもたびたび申し上げてきた通り、トランプ政権の本質は、中道の経済政策を保守的なロジックで語るというもの。その背負っている歴史的な使命は、グローバリゼーションや資本主義に対する支持を民主主義の枠内で再び取り付けるという作業です。

グローバリゼーションがもたらす移民や不法移民の増大が巻き起こす不安、中産階級の相対的地位の低下に対処しつつ、国民の定義を明確にする。米国だけが内包している国民化のプロセス、日々の同化政策と多様な人々の共存を強化する。同時に、資本主義のメカニズムで当然行われるべき「産業の新陳代謝」で生じる歪みや痛みを、新産業を圧迫せずに和らげてあげること。政権が身にまとっている生々しい白人優位主義や田舎の保守性の尊重と言った「保守的なロジック」を引きはがしてしまえば、やろうとしていることはそれに尽きます。

国民化政策の本音

中道の経済政策を行い、誰も置き去りにしないというメッセージを強力に発信するためには、国民の定義をあらかじめ厳格にすることが必要です。幼児期に親に連れられて不法入国し、米国以外の生活を知らない不法移民の子供を救済することで、すでに国民化している人々に門戸を開きつつ、叔父叔母いとこなどの新たな家族呼び寄せに恩恵を与えないことで流入量を抑える。移民の政治経済学というのは非常に複雑なものです。「移民というものがいったいに国の経済政策にとってプラスである」と言うことはできない、とハーバード大学のジョージ・ボージャス教授は指摘しています。それは米国政治の「ポリコレ」的にはかなり危うい発言ですが、実はその通りです。

トランプ政権がやろうとしているのは、移民受け入れ大国としてのお題目は維持しながらも、実質的に国家の負担になりそうな移民を制限していくというやり方です。これは実現できるとしてもかなりの力技が必要。そのために、移民政策をめぐる言説が政治的な闘争の様相を帯びてくるのです。今回の一般教書演説では、わざとらしく不法入国ギャングの犠牲者となり殺された女子高校生二人の両親たち(しかも黒人)が選ばれて出席していました。あまりに見世物的に過ぎるではないか、と思われる方もおられるでしょうが、それほどあからさまにやるのが米国流であり、かつトランプ流なのです。

逆に本来なら民主党が喜ぶべきメッセージもちりばめられていました。刑務所の見直しと犯罪者の更生を促進し、セカンド・チャンスを与えることで社会復帰を支援するということ。あるいは家族の育児や介護のために仕事を休まなければならない人への有給休業制度の導入。

国民とそれ以外を峻別し、国民であればできの悪い人も、不運な人も、困難を一時的に抱えている人も含めて救済に道を開くということ。これは本来民主党の価値観に沿うメッセージであったはずです。しかし、多様性をめぐる論点が米国リベラル政治の頂点に躍り出た今では、トランプのようなオールドなタイプは民主党に居場所がなくなったわけです。

ゆえに、共和党から選出されたトランプは公務員、軍人、市民的奉仕活動をする人にスポットライトを当てます。共和党下での国民像というのは、キリスト教徒を中心とした神を信じる人々であり、自発的に公に奉仕する人であり、強い軍事政策と強い経済政策を支持する人々であるというわけです。もちろん、その過程で腐敗したりやる気のない公務員をクビにすべきというくだりを入れこんで、公務員の団体票をもつ民主党に嫌味を言い、釘を刺すことも忘れていません。

「俺たち」が行う分配であり社会的包摂(この場合≒同化政策)である、ということが徹頭徹尾明らかにされた年頭教書演説でした。

徹底して内政の政権が持つ脅威認識

もうひとつ、押さえておくべき点は、やはりこの政権は徹底して内政の政権であるという点です。最も強調された成果は税制改革であり、その波及効果としての経済インパクトでした。実際、アップルなど大企業はこぞって雇用を増やし、賃金をあげています。成長産業は次々と投資を増やしていくことになるでしょう。設備投資でなければ、自社株買いも行われる。それを通じて株価は上昇します。文句なしに、レーガン政権期以来の経済史に残る税制改革であることは明らかです。

では外交安保政策についてはどうだったか。トランプ政権は外交安保政策でさしたる成果を上げていません。演説で北朝鮮に時間を多く割いたのは、政権の最初の一年で北朝鮮政策を重視しすぎたからです。成果をすぐに挙げられないトピックを選び、しかも中国頼みで迷走した結果、北朝鮮に関しては強硬策をとるという一般論を展開するほかはありません。制裁では核・ミサイルの放棄というゴールにまではたどり着けないからです。

米国による斬首作戦が3月にもあるという噂が方々で流されていますが、それは日韓でその後起こるであろうテロの脅威を過小評価しているばかりか、中国の影響をさらに朝鮮半島で拡大する結果を呼び起こすだけです。韓国で大きな犠牲が出れば反米感情は強まるはず。しかも、北朝鮮の金正恩を斬首したところで、その後の秩序で唯一現実的なのは中国の傀儡政権を樹立すること。中国にとって韓国における米軍のプレゼンスは本当に邪魔なもの。いま北朝鮮が南に対して行っている種々の妨害工作や浸透工作は、戦争後に減るどころかむしろ影響力を増すでしょう。対米不信が強まった韓国が、中国の軍門に降るのは時間の問題です。なぜわざわざカネと人命を費やしてまで中国の覇権を強化したいのか理解に苦しみます。結局のところ、軍事作戦が破滅に終わらずうまくいったとして、せいぜい竹のカーテンが38度線から対馬にまで下りてくるだけのことですから。

演説では中国やロシアをライバルとして名指ししたトランプ大統領ですが、演説の重心はあくまでも内政や通商政策にありました。内政と外交安保が重なるのが、実はホームランド・セキュリティです。つまり、ISなどのイスラーム原理主義の脅威が強調されているのは、グローバルな文脈というよりもむしろ、国内への浸透を退けるという意味合いにおいてなのです。

いまロシア人、中国人、そしてISのテロリストの写真を並べて、米国民に誰を一番怖いと思うかとアンケートをとったとしましょう。ほぼ全ての人がISを選ぶに決まっています。そんなことは実験をすればすぐ結果が出ることです。概念からする中国脅威論は、米国で浸透力を持たないということは頭の片隅においておくべきでしょう。また、ロシアゲート疑惑が取りざたされている今ですが、だからこそ、米国民が本当にロシアを脅威と捉えているのかどうか。思い込みで語るのは危険です。

トランプ政権の外交安保政策は選挙戦中から一貫した脅威認識に基づいています。2016年4月末のトランプ候補による外交演説で示された、米国の国益に対する一番の脅威とは、イスラーム原理主義でした。その認識はホームランド・セキュリティ・ファーストとでも呼ぶべきでしょうか。

二番目は米国の経済力の相対的退潮傾向。その観点から、中国は経済的競争相手とみなされました。軍事的にはサイバーセキュリティやAI、ドローン技術に投資し、宇宙の軍事利用をためらわない。核兵器はいざとなれば「使える核」を目指し、ミサイル防衛で核の恐怖の均衡を脱し、自国に犠牲を出しにくい無人機やドローンでの秘密作戦を多用する。この方針は、残念ながらオバマ政権後半の路線をさらにむきつけに強化したものにすぎません。

外交政策におけるオバマ政権との決定的な違いは、「そんなもん知るか」という地域紛争を見捨てる態度であり、多国間協調を重んじないエコノミック・ナショナリズムでしょう。それはアメリカのソフト・パワーを毀損することでしょう。確かにそうなのですが、だからといって我々のように残された西側の同盟国がふんぞり返って嘆いているだけではすみません。アメリカが努力を放棄する以上は、TPP⒒のように、日本がリーダーシップをとらなければならない場面が多くなるからです。自らが住むアジアの平和と秩序を維持するためには、アメリカが提供している防衛の肩代わりも必要になってくることでしょう。言ってみれば、このトランプ政権の新味は、G7諸国をもはや優遇しない、という第二次世界大戦後秩序の否定でもあるわけです。G7諸国の一員としては、一時代が去りつつあることを深く自覚して事に当たるべきでしょう。

あわせて読みたい

「ドナルド・トランプ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    埼玉県でマスク30万枚が野ざらし

    SmartFLASH

  2. 2

    中韓が日本産盗む?対立煽る報道

    松岡久蔵

  3. 3

    安倍首相の暴走許す自民党は末期

    田原総一朗

  4. 4

    ひろゆき氏 五輪の開催は難しい

    西村博之/ひろゆき

  5. 5

    新型コロナで公共工事中止は愚策

    近藤駿介

  6. 6

    権限ない休校要請 保護者は困惑

    BLOGOS しらべる部

  7. 7

    在宅勤務に賛成して休校否定の謎

    やまもといちろう

  8. 8

    政府の無策が招く東京五輪中止

    渡邉裕二

  9. 9

    石破氏 船内対応巡る発言を反省

    石破茂

  10. 10

    マラソン決行 主催の説明に呆れ

    WEDGE Infinity

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。