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金正日の死に思ったこと

人間、いつかは死ぬ。

金正日も、私の目の黒いうちには死ぬのだろうと思っていた。脳卒中で倒れたこともあったし、そう遠くないことかもしれない。しかし、最高水準の医療を受けることも可能な男だ。まだしばらくは金正日体制が続くのだろうと、漠然と思っていた。

だから、突然の訃報には強い衝撃を受けた。

2006年の核実験の時だったか、テレビのニュース番組のインタビューで、大阪の生野区あたりの在日の老女が、「北朝鮮は地球の恥です!」と吐き捨てるように言っていたのが、未だに強く印象にのこっている。人民を飢えさせてでも、核兵器保有を強行した国家指導者。権力闘争や瀬戸際外交には長けていても、国を富ませるすべを知らなかった指導者。一度も戦ったことがないにもかかわらず、軍と連携して父の死後の体制を固めた「将軍様」。共産主義国の中でもまれに見る異常な個人崇拝を推し進め、国を一族の私物と化した男。ラングーン事件や大韓航空機事件のような大規模テロを起こし、日本人拉致をも指令したとされる男。

その憎むべき人物が死んだ。これは慶事であるはずである。

しかし、不思議と喜びの気持ちは湧いてこない。

人の死を喜ぶということに慣れていないからだろうか。金正日が死んだといえど北朝鮮の体制にはまだ変わりなく、その行く末に不安を覚えるからかもしれない。また、彼の晩年の映像が、敵愾心を抱くにはあまりにも弱々しく、痛々しいものだったからかもしれない。

これからあの国はどうなるのだろう。金正日は20代後半で党組織指導部長に就き、30過ぎで党書記、さらに政治局員を兼任し、金日成の後継者であると決定された。しかしそれは公式には明らかにされず、後継体制づくりが密かに進められ、公の場に姿を現したのは38歳の時、国防委員会委員長として軍の統帥権を父から譲り受けたのが51歳の時であった。これに対して金正恩が後継者として明らかにされたのはまだ昨年のことにすぎない。後継体制づくりはまだ始まったばかりだった。

さすがに、現在28歳とされる金正恩が、これまで金正日体制を支えてきた老幹部たちをさしおいて、いきなり主導権を発揮できるとは思えない。おそらくは、後見人的立場とされる金正日の妹金敬姫とその夫の張成沢や、金正恩が基盤を置くとされる軍幹部らによる集団指導体制となるのだろう。当面は。金正恩後継に抵抗する動きも多少は出るかもしれないが、排除されて終わるだろう。

金正恩にしろ、その後見人たちにしろ、これまでの政策を変更することは、必ずしも彼らの政権基盤を揺るがすことにはならない。彼らの下で、いわゆる改革開放政策が採られて、北朝鮮が経済的に軟着陸することに成功してもらいたいものだ。 改革開放政策をとれば、いずれは国民からの自由化の要求に耐えられなくなり、結局は政権の座を失うことになるかもしれない。それでも、内乱や、韓国との戦争、周辺諸国の武力介入、難民の流出といった事態の発生に比べれば、よほどましだと言えるだろう。

東欧のアルバニアは、戦後40年間、共産主義者エンヴェル・ホッジャが独裁者として君臨した。スターリン主義者であるホッジャは、スターリン批判に踏み切ったフルシチョフのソ連を批判して中国に接近し、中国が毛沢東の死後改革開放路線に転じるとこれをも批判して孤立した。アルバニアはほぼ鎖国状態にあり、経済は低調のまま推移し、ヨーロッパの最貧国であった。

1985年にホッジャが死去すると、後継者に指名されていたラミズ・アリアが指導者の座についた。アリアは当初ホッジャ路線の継承を表明していたが、経済や言論の分野でゆるやかな改革を進めた。1989年のいわゆる東欧革命の影響を受け、複数政党制と自由選挙を導入し、1991年の初総選挙では連立により政権を維持し初代大統領に就任したが、1992年の総選挙で敗れ辞任した。 金正恩、あるいはその後見人たちは、北朝鮮のアリアとなるだろうか。

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