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年金もらいすぎ(特例水準)解消は、実はバラマキである

そしてバラマキだけが残った


 政府が年内の取りまとめを急いでいる「社会保障と税の一体改革」は、民主党の調査会における社会保障分野の議論が12月16日に終了し、今後、消費税引き上げの議論に焦点が移ることになる。

 しかし、今回、政府・民主党の社会保障と税の一体改革調査会がまとめた社会保障改革の素案は、あまりにも露骨な「バラマキ」オンリーの案となった。財政悪化に歯止めをかけようとするための一体改革でさえ、相変わらずのバラマキ政策に変えてしまう民主党に、まったく付ける薬はない。

 こんなことでは、消費税引き上げをしても右から左に消えるだけであるから、財政再建にもならないし、社会保障の維持可能性を高めることにもならない。「社会保障の機能強化分は1%に過ぎない」などと言う財務省・厚労省の説明に騙されてはいけない。

 一体改革で議論されなかった診療報酬、介護報酬、生活保護費の急増分や、一体改革に伴う地方単独財源の社会保障費増などを勘案すると、今回の痛み先送りのバラマキで、消費税5%分の財源増はほぼ使い切られる計算となる(医療・介護分野の重点化・効率化で得られるとする費用削減額も、厚労省のフィクションに基づく単なる「絵に描いた餅」であるから信用すべきではない)。

 もともと、今回の一体改革で議論されてきた「社会保障改革」については、消費税引き上げを行う為の単なる「餌」に過ぎないから、そこに理念や思想、綿密な設計はなかった。しかし、それでもマクロ経済スライド発動や、年金の支給開始年齢引き上げ、医療費の自己負担増など、6月にまとまった「成案」の段階では、多少は国民に痛みを迫る内容もあったのである。

 これは、社会保障を将来も維持可能なものにするほどの「根治療養」ではないが、3年から5年程度は一息つける程度の「対症療法」ではあったから、やらぬよりは大いにマシであった。しかし、今回、それらの痛みを伴う案が全くそぎ落とされてしまい、バラマキだけが残ったのである。

実務上不可能なバラマキ案


 また、このバラマキ案の中には実務上、不可能なことが含まれている。実際、低所得者への年金加算、低所得者への医療や介護の保険料軽減は、どのように実行するつもりなのだろうか。

 「低所得者」とはいうが、厚生労働省は、国民の所得や資産を全く把握していない。所得や資産を把握せずに、このようなことを行えば、見掛け上、所得を低く偽っていて、たくさんの貯蓄を持っている人に、虎の子の財源をバラまいてしまうことになる。年金額が少ない人の中には、所得や資産に余裕があるにもかかわらず、確信犯的に未納を行っていた者も含まれる。そんな人の年金を増額するのだろうか。

 今回、歳入庁や国民背番号制導入の議論が全くなかったが、これでは順序が逆なのである。歳入庁・国民背番号制を実施してからしか、低所得者に対する所得再分配案は実行できない。しかし、マニフェストに堂々と書かれていた歳入庁創設は、政権交代以来、2年間以上も完全に放置されたままであり、今後も、議論が行われる気配が全くない。

 ちなみに、バラマキであるとのマスコミ批判に対して、民主党がムキになって反論しているのは、「年金の特例水準の解消」である。実際、マスコミの記事も、この特例水準解消だけは負担増であると報じている。先日、報道ステーション・サンデーで、小宮山厚労大臣と対談した際にも、私の批判に対して、小宮山大臣は「特例水準解消は、国民への負担増だ」と誇らしげに語った。

特例水準解消はバラマキ継続


 しかし、特例水準解消は、実は負担増ではない。むしろバラマキの継続である。特例水準とは、簡単にいえばデフレでも年金を減らさないという措置である。良く知られているように、インフレのときには年金支給額は、その分増える。

 それは、世の中の物価が上がった時に、年金の金額を増やさないと、同じ年金額で購入できる食べ物や商品の数が少なくなり、高齢者の生活水準が下がってしまうからである。逆に、物価が下がった時には、同じ年金額で購入できる物の数が増えるから、年金の金額を減らさないと不公平になる。

 しかしながら、現実には、デフレ下でも「特例水準」として、年金の金額を据え置く措置が続いており、特例水準を決めた1999年から今までの累計額で、「7兆円」もの「年金の支払いすぎ」が生じている。そして今年も既に、本来の水準よりも2.5%も高い年金を支払っている。これは、高齢者世帯で毎月約5000円もの「もらいすぎ」が発生している計算になる。

 今回、民主党が決めたというのは、特例水準を3年かけて徐々に解消するということであるが、これは言い換えれば、「月5000円のもらいすぎが、金額は減るものの、まだ3年間も続く」ということである。これでは負担増ではなくバラマキである。

インフレでも発動しない「マクロ経済スライド」


 しかも、一般にあまりよく知られていないが、特例水準を解消しないと、2004年改革で決まった給付カット策である「マクロ経済スライド」が発動できない仕掛けとなっている。マクロ経済スライドは、デフレ下では発動できない仕組みとなっていて、したがって今まで一度もこれが発動されていないことは良く知られている。

 しかし、もし来年から1%以上のインフレになったとしても、実は、特例水準が解消されていないと、法律上、マクロ経済スライドが発動できない仕組みなのである。つまり、特例水準解消に3年間かけるということは、民主党は今後3年間、「マクロ経済スライド」を発動しないと決めたということに等しい。とんでもないバラマキである。

 特例水準解消は来年度、即時解消を行うべきである。また、過去に払いすぎた7兆円もの金額についても、民主党はこれを全く放置する方針であるが、これは全て現役世代・将来世代への負担先送りとなる。本来は、この7兆円こそ、3年から5年の時間をかけて徴収すべきなのである。

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