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アフリカの子どもに銃を取らせる世界(1)「電気自動車のふるさと」の子ども兵―コンゴ民主共和国(六辻彰二)

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生きるために戦う

 こうして武装組織が「独立」したことは、二重の意味でコンゴの紛争を深刻化させました。

 まず、「内戦の日常化」です。資源を採掘し、それを輸出して利益を得ている勢力にとって、内戦の終結は、その利益を手放すことを意味します。いわば天然資源が豊富であるがゆえに、紛争の当事者に戦闘を終わらせる意思が生まれにくくなったといえます。

 それは反体制的な武装組織だけでなく、政府・軍でも同様です。国連は2017年8月、同国北東部のツォポ州で金鉱山の管理を行うコンゴ軍のクンバ将軍が天然資源の密輸を行っていると報告しています。

 次に、「内戦の低年齢化」です。

 内戦が長期化するなか、「独立」した武装組織には「人員の補充」をも自前で行う必要が生まれました。しかし、グローバルなテロ組織と異なり、ローカルな武装組織の「補充人員の調達先」はごく狭い範囲に限られ、しかも地域社会の大人からは警戒されがちです。その結果、大人より従順な兵士として、貧困に直面する若者や行き場のない子どもが用いられることが増えたのです。

 このような資源の違法な採掘・輸出によって「独立」した勢力が子ども兵を用いる構図は、コンゴに限りません。2006年に公開されたレオナルド・ディカプリオ主演の映画「ブラッド・ダイヤモンド」の舞台となったシエラレオネなども同様です。

 しかし、コンゴの場合、その国土は234万平方キロメートルに及び、これは西ヨーロッパで面積の大きいフランス、スペイン、スウェーデン、ノルウェー、ドイツの合計に匹敵します。広大な土地の各地で「掘れば資源が出る」という状況は、結果的に他の国以上に「独立」した武装組織を林立させ、彼らによる子どもの利用を広げたといえるでしょう。

 母親に捨てられ、12歳の時から5年間FDLRのメンバーとして戦った経験のある少年は、アルジャズイーラのインタビューに以下のように答えています。「僕らは生き残るために、生きる場所のために戦っていた。だから茂みのなかにいたんだ。彼らが必要とした時、僕は戦った」。

「紛争鉱物」の取り締まり

 このような武装組織の「独立」がもたらす問題に対しては、国際的な取り組みもみられます。

 先述のシエラレオネなどでみられた「紛争ダイアモンド」への関心の高まりを受け、2002年に発足したキンバリー・プロセスは、ダイアモンドが武装組織の資金源となることを防ぐため、国際取引における原産地表示を義務化し、追跡性(トレーサビリティ)を高めて消費者が「倫理的なダイアモンド」を選択できるようにする取り決めで、2018年現在で日本を含む81ヵ国が参加しています。

 その後、規制の対象はダイアモンド以外の鉱物にも拡大。2012年に経済協力開発機構(OECD)が「紛争鉱物」の輸入に関するガイドラインを定め、これに沿ってコンゴ民主共和国からの金、錫、タンタル、タングステンの輸入は規制されています。これは武装組織の資金源を締め上げることとともに、子ども兵や児童労働を減らす効果も期待されます。

「紛争鉱物」規制の落とし穴

 ただし、「鉱物資源」の規制には限界もあります。アフリカでは公務員の腐敗が深刻で、ワイロで原産地証明や国境での検疫を「買う」ことは、「紛争鉱物」規制の効果を引き下げます。

 パブリック・ラジオ・インターナショナルの調査によると、南キヴ州に拠点をもつ5つの武装組織はルワンダやウガンダなど近隣諸国への密輸ルートをもち、控えめに見積もっても、金だけで1年間に3~6億ドル相当が密輸されています。その結果、近隣諸国からの金の輸出額は増加し続けていますが、「紛争鉱物」規制の対象になっていない国から輸出される資源は「紛争鉱物」とみなされずに売買されるため、先進国企業もそれを用いることになります。

 さらに重要なことは、「紛争鉱物」規制の対象が「反体制的な武装組織」に限られていることです。既に述べたようにコンゴでも軍高官などによる資源の密輸や、正規軍による子どもの徴用が報告されています。ところが、政府や軍は規制の対象にならないため、これら公的機関を通じた「紛争鉱物」は止まりません。

 リチウムイオン電池の原料であるコバルトに関しては、主に軍の管理下にある土地で採掘されていることもあり、OECDのガイドラインではコンゴからの輸出規制の対象になっていません。しかし、政府や軍による「紛争鉱物」への関与を考えれば、控えめにいっても「グレー」と言わざるを得ないでしょう。

 もちろん、「紛争鉱物」規制の効果がゼロだったわけではありません。実際、規制の導入によって資源の輸出はしにくくなり、コンゴ国内での買い取り価格を下落させてきました。

 ただし、それは同時に、思いもかけない逆効果ももたらしています。違法に取引している業者は公式の買い取り価格に左右されにくい一方、密輸に関与しない鉱山で働く人々ほど収入が減るというジレンマが生まれたのです。

 その結果、鉱山で働いていた子どもが「食えなくなって」武装組織に加入するという現象さえ報告されています。武装組織によって支配されない鉱山で働いていたという16歳の子ども兵は、2014年11月のワシントン・ポスト紙のインタビューに「もし鉱山でもっと稼げていたら、武装組織に加入しなかった」と答えています。

我々の日常、彼らの日常

 改めていうまでもなく、現代の我々の日常生活が多くのものを輸入することで成り立っています。しかし、その原料や製品が「クリーン」という保障はどこにもありません。言い換えると、我々の日常生活そのものが、アフリカで子どもに銃を握らせる大きな背景になっているのです。

 かといって、国産品だけで生活することも、文明の利器を手放すことも、多くの人にとって非現実的な選択です。また、「紛争鉱物」の規制が予期せぬ逆効果を生んだように、動機付けのよさが結果のよさを保証するとも限りません。

 こうしてみたとき、子ども兵をとりまく矛盾を正すことは容易ではありません。そのなかでせめて個々人ができることの第一歩は、消費しているものがどこからきているかを意識することです。彼らの日常は我々にとっての非日常ですが、我々の日常は、少なくとも部分的には、彼らの日常によって支えられているのです。

※Yahoo!ニュースからの転載

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