記事

なぜラーメン二郎は"パクリ店"を許すのか

1/2
東京・港区に本店を構える「ラーメン二郎」は、多数のファンを抱える人気ブランドだ。顧客から応援されるブランドはどこが違うのか。いずれも経営学者の新井範子氏と山川悟氏は共著『応援される会社』(光文社新書)で同店を取り上げ、「類似店舗を許容する姿勢が、本店の価値を高めている」として、5つの類型のうち「崇拝型応援タイプ」に分類している――。

※本稿は、新井範子・山川悟『応援される会社』(光文社新書)の第3章「応援されるブランドの類型と特徴」を再編集したものです。

■小さな入口から奥深い世界を垣間見せる

東京都港区三田に本店を構える「ラーメン二郎」。近隣の慶應の学生たちの応援が店を支えたというエピソードも残っている。とにかく量が半端なく、「小」を頼んでも他店の大盛りを遥かに凌駕するラーメンがドカンと出てくる。食べた直後は必ず後悔するが、しばらくすると無性に食べたくなる、いわゆる病みつき系のこってり味であり、二郎に何度も通う人たちを「ジロリアン」と呼ぶなど、カルト的なファンが存在することでも有名だ。

画像を見る
ラーメン二郎三田本店のラーメン。2010年撮影。 Photo by Shijuukurou / CC BY-SA 3.0

一杯平らげるにはそれなりの気合と体力が必要なため、二郎での食事体験を「修行」と捉える人も多い。「もはやラーメンではない」「二郎という別の食べ物だ」と言い放つ人さえもいる。独自の味とスタイルを築いた創業者・山田拓美代表を慕った、インスパイア系と呼ばれる類似店舗も増加している。

新規店舗がオープンしても積極的に宣伝はしない、駅から遠い、店員は不愛想、常連が多くて肩身が狭い、メニューは少ない、注文方法や頼み方に独自のルールがある、もちろんヘルシー志向などとは無縁、などといった特徴があり、顧客ニーズに適合しようなどといった気配は微塵もない。

■20~40代男性の5人に1人がジロリアン

しかしそれでも客足は絶えず、常に店内は満席、外には長蛇の列ができている。ちなみに自らもジロリアンだという牧田幸裕氏(信州大学)のフェルミ推定によると、ジロリアンは全国で105万人。これは首都圏20~40代男性の5人に1人に相当するという。

「お客様満足」を題目とする企業がこれだけ増えた今日、二郎の顧客を突き放すような姿勢は、ある意味爽快でもある。豚のゲンコツを煮出したフルボディのスープ、チャーシューは直方体、盛られた野菜はもはや円錐状態と、「これでいいのだ」という自信に満ち溢れた姿形を見れば、これがタダものでないことくらい誰にでもわかる。店側が一つの信念からつくり上げたモノを真剣にぶつけられたと感じた客側も、それに真剣に呼応せざるを得ない。この得体のしれない存在感と奥深さに畏敬の念を感じつつも、額に汗してそのラーメンを制覇することに、ジロリアンたちは喜びや生き甲斐さえ見出すのであろう。

■採算を度外視しても最高級品を市場投入する

崇拝型のブランドにおいては、求道的な消費スタイルがより強く発揮される。むろん情報機器にしてもジャムにしてもラーメンにしても、誰もが簡単に楽しめる消費財にすぎない。しかしそれぞれの世界は奥深く、真の楽しみを知るためには、それなりの消費経験や知識が必要となる。その奥深さを小さな入口から垣間見せることが、崇拝型ブランドへのルートといえよう。

最近、マス向け消費財のメーカーにおいて、採算を度外視しても最高級品を市場投入するケースが相次いでいる。クリネックスティシューの「至高」「極」「羽衣」(日本製紙クレシア)、カルビー「かっぱえびせん匠海」、スターバックス「パナマ アウロマール ゲイシャ」、伊藤園「お~いお茶 玉露」などが代表例である。言葉で主張するのではなく、実際につくり上げた最高の商品で、自社の持つ技術の奥深さや、本気度、すごみを感じさせようとする狙いといえよう。コモディティ化が懸念される商品ジャンルにおいては、こうした形でブランド至高体験を提供していくのも、一つの選択肢である。

■内なる顧客の声を信じる

崇拝型ブランドが決して顧客の気持ちを考慮しない、ということではない。信用するのは市場調査のデータではなく、「内なる消費者」の声である。これが独特の嗅覚となり、強烈な個性と完成度を持った商品を生み出していく。一方、消費者サンプリング調査に基づいてニーズを測定すると、往々にして当たり障りのない無難な選択に陥りやすい。

画像を見る
新井範子・山川悟『応援される会社』(光文社新書)

「ブリュードッグ」(スコットランド)は2007年、ワットとディッキーという2人のビールオタクによって設立されたマイクロブリュワリーである。立ち上げた理由は「心から飲みたいと思えるものが世の中になかった」から。ウイスキー樽熟成のスタウト「パラドックス」を皮切りに幾多のビアコンペで賞を獲得して業界を席巻、創業8年足らずで売上70億円を達成した。

プロモーションに関しても、アルコール度数55%のビールをリスの剥製のパッケージで発売、大通りを戦車で駆け抜けて新製品を告知、英国議会議事堂に創業者2人の裸の影を映し出す、など破天荒なものばかり。眉をひそめる人もいるが、彼らの「パンク精神」に対しては心酔するファンも多い。

ワットは「ターゲット市場なんて言葉は無視しよう」と提唱する。なぜならその事業のことを来る日も来る日も考え続けてきた経営者自身が、顧客とは誰かを一番知っているからであり、「あなた(著者注:経営者)の魂にはブランドのDNAが焼き付いている」からだとしている。

あわせて読みたい

「ラーメン」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    韓国現代自動車はなぜ凋落したか

    ロイター

  2. 2

    徴用工判決で日本「韓国撤退」も

    NEWSポストセブン

  3. 3

    宗男氏「日ロ会談で歴史動いた」

    鈴木宗男

  4. 4

    自民・後藤田正純氏が結婚詐欺か

    文春オンライン

  5. 5

    徴用工判決 韓国内でも疑問の声

    NEWSポストセブン

  6. 6

    山本一郎氏 川上量生氏を提訴へ

    やまもといちろう

  7. 7

    蓮舫氏に答弁 気の毒な桜田大臣

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  8. 8

    日露会談 安倍首相は譲歩しすぎ

    大串博志

  9. 9

    スーツ買えぬ若者に企業は配慮を

    工藤啓

  10. 10

    橋下氏「徴用工で負けるリスク」

    PRESIDENT Online

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。