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医学部新設をめぐる議論の論点は?

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深刻化している医師不足。その解消方法を巡って、意見の対立が続いています。

政府はこれまで、医学部の定員増加を抑制してきました。
1982年と97年に医学部の定員削減を閣議決定。
新設が認められたのも、1979年の琉球大学が最後です。

しかし近年、救急患者のたらい回しや地方での医師不在などの報道が表すように、医師不足が叫ばれるようになりました。
文部科学省も、今年の1月に「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」という有識者会議を設け、1年にわたって議論を重ねてきました。

医師の人数を増やすための政策は、既に検討されています。

この議論に先行して、既に行われた具体的な施策は、医学部の定員増加です。
すでに2008年度から定員増が進められており、2012 年度の定員は、2008年度に比べ計1,366 人増の8,991 人。これだけでも、医学部13校分に相当(!)します。

このまま、医学部の定員を増やすことで乗り切れるのか。
それとも、それに加えて30年ぶりとなる「医学部新設」が必要なのか。
ここで、関係各所の意見が食い違っているわけです。

医学部の新設を求めているのは、現時点で医師不足が著しい地域の方々。
結論を待ちきれない一部の方は、既に動き始めています。
新潟、宮城、神奈川、静岡の4県の知事らが19日、中川正春文部科学相を訪れ、医師不足解消のため現在は認められていない大学医学部の新設を解禁するよう共同で要望した。
(略)要望書は「4県は人口あたり医師数が全国平均に比べて少なく、医師不足は深刻。現在の施設や教員数では既存医学部のこれ以上の定員増は見込めない」と強調。新潟県の泉田裕彦知事は会談後に「このままでは医者にみとってもらえない環境が想定される。大学での医学教育のあり方も見直してほしい」と話した。
「新潟など4県知事ら、医学部新設解禁を要望 」(日本経済新聞)記事より)
新潟の場合、新潟大学の医学部定員は125人。新潟県知事は、「これ以上の定員増は物理的に困難」と表明し、県立大学医学部の新設か、私立大学医学部の誘致が必要だと訴えています。
県立病院の勤務医を調査したところ、過半数が月100時間を超えた時間外労働を行っているとのこと。

新しい医学部を新設した方が良いのか、「物理的に困難」な既存の医学部を(教員や施設・設備も含めて)大幅に拡張した方がいいのかという議論はありそうですが、いずれにしても危機的状況であることは確かです。

一方、独自の解決策を模索する方々もいます。
東北地方の医師不足解消を目指し、仙台厚生病院(仙台市)は12日、大学医学部を新設する方針を発表した。設置先は東北福祉大(同)が最有力。厚生病院は大学付属病院とする方向で、3月にも正式決定する。
(略)構想によると、新設医学部の定員は80~100人を想定し、うち半数程度は東北6県の学生枠とする。学生の出身自治体から奨学金を受けられる制度も導入したい考えで、宮城県内のほかの病院にも連携を呼び掛ける。
「仙台厚生病院が医学部新設を構想 医師不足解消目指す」(47NEWS)記事より)
「病院が医学部新設を目指す」というのは、これまで聞いたことがありません。
医師が来るのを待っているだけではなく、自ら人材育成に乗り出すということで、非常に興味深い事例です。

上記以外にも、茨城県が早稲田大学医学部の誘致を検討していることは、多くのメディアで報じられたので、皆さんもご存じかもしれません。

もっとも医学部を新設するには莫大なコストがかかりますし、早稲田大学は既に、東京女子医科大学と研究などで連携していますので、自前の医学部を持つ可能性は低そうですけれど。

こうした「新設推進派」に対し、「反対派」の中心になっているのは、「全国医学部長病院長会議」をはじめとする既存医学部の関係者や、日本医師会などです。
医学部誘致を公約とする茨城県の橋本知事が早稲田大学(鎌田薫総長)に新設医学部の誘致を打診したことについて、県医師会(斎藤浩会長)は21日、水戸市の県メディカルセンターで記者会見を開き、教員確保で全国の医師不足に拍車をかけるなどとして、医学部の新設・誘致は不適当と批判した。
斎藤会長は18日に知事に会い、「おやめなさい」と進言したことも明らかにした。

医学部の新設・誘致に反対する理由として、県医師会は「教員確保のために医師を集めれば全国の医師不足に拍車をかける」「既存医学部で入学定員の増加を図っている」「中小医療施設や有床診療所などの経営に影響する」「医学生は卒業後に出身地へ戻る可能性もあり県の医師不足解消にならない」の四つを挙げた。
(「医学部誘致なら医師不足に…という医師会の理屈」(読売新聞2011.9.22)記事より)
教員確保で全国の医師不足に拍車をかける、というのは多少言い過ぎの気もしますが、新設反対派の方々による指摘には、もっともな部分もあります。

まず、大学の学部学科というのは、一度つくったら、そう簡単には廃止できません。

大学は基本的に、教授会で重要事項が決議されるガバナンス体制ですので、大勢の教授達が路頭に迷うような判断ができるようにはなっていません。
その上、医学部ともなれば、必要な施設・設備を整えるために、大規模なコストが投入されます。しかもそこには地方自治体などが捻出する、地元の公的資金も含まれています。将来、医師が過剰になったとして、簡単に廃止というわけにもいきません。

実は厚生労働省も、具体的に医学の定員増がどのくらい必要なのか、というデータは示していないのです。これまでに「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」で検討された数字だけでは、「正確な推定は難しい」ということになっています。
一方、日本医師会は、現在の定員数をこのまま続ければ、2025年には病院などの勤務医が現在に比べ5万8,000人増の、33万9,000人になるという試算結果を公表しています。
人口も減少していきますから、これで十分に対応できるはずだというわけです。

加えれば、現在の医師不足には全体の人数だけでなく、

■地域による医師の偏在
■診療科の偏り


……という要因が絡んでいます。これを無視して、議論はできません。

2004年度に始まった臨床研修制度の影響で、医局に入局する卒業生は激減し、大学病院の地域への医師派遣機能は低下しました。地方の医学部を卒業しても、その地域に残らず、都市部に行ってしまうというケースが増加しています。
診療科については、医療ミスで訴訟が起きるような診療科(外科や産婦人科など)などを、学生が避ける傾向が指摘されています。

既存医学部の定員を調整しつつ、こうした要因を見直すことで、医師不足は解消できるのではないか、というのが、「新設反対派」の主張です。逆に言うと、これらの課題を解決しなければ、例え医学部を新設しても、医師を必要としているところに医師は行かないのではないか、ということです。

これは、確かにその通りでしょう。

では、どうすればいいでしょうか。

既に、地域的な医師の偏在に対して取り組まれているのは、医学部入試の「地域枠」制度です。

・特定エリアの出身者だけを受験対象とする
・出身はどこでも良いが、入学後の一定期間、医師が不足しているエリア(いわゆる「へき地」)での勤務を義務づける


上記のいずれかを満たす者だけが受験対象となる入試枠の設定です。
既に2011 年度現在、67 大学で1,292 名の地域枠が設けられています。
毎年1,000以上の医師が、医師不足のエリアに配分されるわけですから、長期的に見れば、一定の効果を発揮すると思われます。

個人的には、医学部の新設をオープンに認めてしまうのには反対です。

もしかすると、例外的に医学部の新設が必要な地域も、中にはあるのかもしれませんが、単純に定員だけ増やせば現在の問題は解決するとも、思えません。
それは、上でご紹介した「反対派」の理由と同じです。

本来、学部の新設も含め、大学の経営方針に関わる問題は、大学が保持して然るべきと思います。

とは言え、医師と医学部のように、特定の専門職養成とイコールになっているような学部は、ある程度の管理も必要だと考えます。

最近の身近な例は、法科大学院でしょう。

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