もう30年以上も前のことですが、当時の社会党委員長だった飛鳥田一雄さんの訪朝団に随行して北に行きました。泊まったのは大同江ホテル。日本ではウォシュレットがない時代(多分)に、広々した浴室に女性用のビデまであるトイレを備えた高級ホテル。そこに盗聴ルームがあったという話は以前に書きました。
でも、豪華ホテルにしては食事がイマイチ。そこで以前に訪朝経験のある先輩に教わった通りに、部屋の中で「メシが不味い」と喚いて、食べたいものを叫んだら、その晩に、喚いたものに近いものが出ました! そうです、予想通り、部屋にも盗聴マイクがあったのですね。すぐに対応する北の方々は実に心優しかったというべきですね。
その時代から、下々の情報収集には優れていた北朝鮮。しかし、一方で、外部情報を徹底的に遮断して国民の不満を抑えてきました。ある北朝鮮の地方幹部が真顔で言いました。「南は米軍に占領されて、みんな乞食みたいな生活ですね。気の毒に」って。そういう風に情報が統一されているので、食糧不足の今も、「南よりはまし」と思っているから、暴動もおきないのかも知れない、などと想像します。
金正日主席が死亡して丸2日、その事実は、全く外部に漏れなかった。武田信玄の時代じゃあるまいし、こんな情報化時代、特に北情勢収集に日夜、全力を挙げているはずの韓国の情報機関も何の情報も得られなかったってことは奇跡みたいな話です。南からの報酬を貰ってるスパイは北にもいっぱいいるはずですから。
水も漏らさぬ情報体制って北朝鮮のためにあるような言葉です。勿論、インターネットなど許さない。許していたアラブ諸国ではアラブの春で独裁者が次々打倒されました。でも、北朝鮮ではその心配は全くない。一般向けネットなどないのだから。だから、体制内部での暗闘はあるかもしれないけれど、国民からの集団的なプロテスター(TIME誌が選んだ今年の人)は起こりえない。残念だけど。
つまり、いまの情報遮断体制こそが北の生きる道である以上、金日成、金正日に続く3代目はカリスマ性も何もないなかで統治体制を続けるにはますます国民への情報遮断を強化するしかない。まっとうな国家になってグローバル社会に入ってきて欲しいなんてことをメディアも政治家ものたまっているけれど、それを新体制に望むのは木に縁りて魚を求むみたいな話だろうとしか思えない。ますます、情報遮断度を高めるしか生きる道はないのが北の現実なのだから。つらいなあ。いかに情報が社会を規定するかってことが国家レベルで証明されているってことです。
北からも南からも跨いだあの南北境界線の10センチほどの白いラインが消える日は一体、いつくるのだろうか。