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重監房、特別法廷は何だったのか?

1月28日は「世界ハンセン病の日」。今年も1月30日にインド・ニューデリーで、ハンセン病患者・家族に対する偏見・差別の撤廃を訴えるグローバルアピールが日本財団と「障害者インターナショナル」(DPI)の連名で発表される。これを機会に我国の「重監房」(特別病室)と「特別法廷」(隔離法廷)について、あらためて記しておきたいと思う。特別法廷に関しては最高裁が16年、最高検が昨年、謝罪した経過があり、やや時期外れの感はあるが、歴史的な負の遺産として長く語り継ぐ必要があると考えるからだ。

重監房は1938年、群馬県草津町の国立療養所栗生楽泉園の敷地内に作られた。強制隔離や結婚する場合の優生手術(避妊手術)など“ハンセン病絶滅政策”がとられる中、全国13ヵ所の療養所に逃亡や反抗を罰する「監房」が整備され、重監房には、とりわけ反抗的な入監者が全国から集められた。

「療養所の秩序を保つ」を名目に「特別病室」の名を付しているが、現実には患者を重罰に処すための懲罰施設。標高1000メートルを超す草津の郊外に4畳半ほどの独房が8つあった。1947年に閉鎖されるまで9年間に93人が収監され23人が在監中、または出て間なく死亡している。

2014年に開所した重監房資料館内に原寸大の重監房2室が設けられ、昨年10月に訪問した際、小さな入り口から中をのぞくと、板敷きの間には小さな明り取り、逃亡防止のためか浅く掘られたトイレの穴しか見当たらず、収監者はここで薄い布団1枚で寝起きした。真冬の温度はマイナス20度にも達したといわれ、「患者懲戒検束規定」で「監禁期間は最長2ヵ月」とされたものの500日以上、留め置かれた収監者もいた。

国会でも問題となり、厚生省(当時)が使用中止にした後、解体され、跡地には1982年に建立された「重監房跡」の石碑がある。

後を追うように1948年から始まったのが特別法廷。下級裁判所からの臨時法廷使用の上申を最高裁が認可する形で1972年までに95件の裁判がハンセン病療養所や刑事収容施設で行われた。撤回が1件あるが、実質的な認可率は100%。1952年、熊本県内で発生した殺人事件(菊池事件)の裁判も国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園などに設置された特別法廷で行われた。

九州弁護士連合会の「ハンセン病『特別法廷』と司法の責任に関する決議」は特別法廷の模様を「消毒液の臭いが立ち込め、裁判官、検察官、弁護人はいずれも予防衣と呼ばれる白衣を着用し、長靴を履き、手袋を付けた上で調書や証拠物を火箸等で取り扱った」と記している。

事件は翌年に死刑判決が確定、第3次再審の請求が棄却となった1962年に死刑が執行されており、どこまで厳正な証拠調べなどが行われたか疑問が残る。最初から「有罪ありき」の特殊な裁判だった気さえする。開廷の告示を掲示したとされているが、強制隔離政策に伴う偏見・差別の中、裁判の公正を図るための公開の原則(憲法82条)などが本当に担保されたのかも疑わしい。

ハンセン病患者の強制隔離政策は1996年の「らい予防法」廃止まで90年間続いた。2年後、熊本地裁に「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」が提起され2001年5月に原告側勝訴の判決が出され国と国会は謝罪した。最高裁は全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)などが出した「特別法廷設置の検証要請」を受け事務総局に調査委員会を設置、その報告書に基づき2016年4月にようやく「偏見・差別を助長し、人格と尊厳を傷付けた」として謝罪した。

最高検察庁も翌年、特別法廷に関与した責任を認め謝罪したが、全療協が菊池事件について求めた再審請求は見送り、元患者(回復者)6人が昨年9月、検察が再審請求をしないことで精神的苦痛を受けたとして国家賠償請求訴訟を熊本地裁に起こしている。

以上が経過の概略で、本来の請求者である遺族が再審請求を行うのが難しい状況にあるとされ、起訴した検察が自ら行うよう求めている。困難な訴訟になると思われるが、特別法廷の特殊な経過からすれば、司法にも柔軟な対応を求めたい。

例えば最高裁は、治療薬の普及でハンセン病が治る病気となった1960年以降の特別法廷は裁判所法に反する、としているが、それではそれ以前の特別法廷の認可やその運用に問題がなかったのかー。特別法廷で審理された95件中26件は菊池医療刑務所で行われており、特別法廷の実態を後世に伝える意味でも、密度の濃い審理が期待される。

ハンセン病は1980年代初頭の治療薬の開発で「治る病気」となり、日本財団、次いでノバルティス財団の協力により世界で無料配布され、最盛期、世界で1000万人を超えるとされた患者は大幅に減少している。それでも2016年には世界で21万5000人の新たな患者が発生しているほか、患者・回復者に対する偏見・差別は依然、深刻。そうした実態を改善するためにも我国のハンセン病対策の歴史は詳細に残される必要がある。

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