記事

【読書感想】だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人

1/2
だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人 だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人

Kindle版もあります。

だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人 (集英社学芸単行本) だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人 (集英社学芸単行本)

内容紹介
「お電話ありがとうございます。○○社の△△です。ご注文ですか?」陽光溢れる、東南アジアのタイ、バンコク。高層ビルの一角にあるコールセンターでひたすら電話を受ける日本人がいる。非正規労働者、借金苦から夜逃げした者、風俗にハマって妊娠した女、LGBTの男女……。生きづらい日本を離れ、彼らが求めたのは自分の「居場所」。フィリピン在住の開高健ノンフィクション賞作家が現代日本の現実をあぶりだす問題作。

【目次】プロローグ/第一章 非正規の「居場所」/第二章 一家夜逃げ/第三章 明暗/第四章 男にハマる女たち/第五章 日陰の存在/エピローグ

 英語圏のコールセンターが、人件費が安くて英語に馴染んでいるインドやフィリピンに置かれている、というのは知っていましたし、日本語のコールセンター業務が中国などで行われている、というのも聞いたことがありました。前者はわからなくもないのだけれど、後者の場合、海外で日本語のクレーム対応までできる人を探すのは、かえって割高ではないのかと疑問だったんですよね。

 海外で働きたい(日本を出たい)日本人を、現地基準ではけっこう高めで、かつ、日本で同じ仕事に人を雇うよりも安い賃金で集めることによって、こういう海外でのコールセンター業務が成り立っているのです。この本の舞台であるタイであれば、日本より物価が安いので、この国で生活したい日本人を安く雇えるんですね。

 辺りが刻一刻と薄暗く染まりゆく2013年春先のある夕暮れ時、タイの首都バンコク中心部にある巨大ショッピングモール「ターミナル21」の屋外喫煙所は、どことなく重苦しい空気に包まれていた。

「実は私、今、妊娠しているんです」
 30代半ばの青山理沙(仮名)はたばこを手に突っ立ったまま、重い口を開いた。ついさっきまで冗談半分に話していた時の笑顔は跡形もなく消え、凍り付くような緊張感が漂っていた。最近飲酒を止めたというので、理由を尋ねたところ、そんな唐突な答えが返ってきたのだ。しかも、お腹の子供の父親は、東南アジアのある国からタイへ出稼ぎにきた買春相手の男性という。

「何を聞いても驚きませんよ」
 とあらかじめ伝えてはいたものの、彼女が発した言葉に「ほぉー」と反応したきり、内心では動揺していた。アジアで働く日本の若者たちをテーマに取材を続けていた私はこの数時間前、20代の起業家から「世界一の会社を作りたいですね!」と未来に懸ける熱い想いを聞かされていただけに、そのギャップを自分の中でうまく咀嚼できなかった。

 話を聞いていくうちに、彼女と同じ職場の一部女性たちも”男を買っている”ことが分かった。
 その職場とはコールセンターのことである。
 時給1000円を軽く超えるため、日本では高時給の仕事だと認識する向きもあるようだが、ここで言う職場は日本ではなくタイの首都バンコクだ。コールセンターは東京に本社を置く日本企業のもので、働いている日本人は日本語で電話に応対し、業務内容も日本のコールセンターとさほど変わらない。その中に、青山以外にもゴーゴーボーイに通う日本人女性が潜んでいるというのだ。

 コールセンターで働く日本人について、青山はこう説明する。
「働いている人は30代が中心で、ぱっと見はオジサンが多いです。学生の時、クラスに必ず一人か二人は変な子がいたじゃないですか? コールセンターはそれが全員集合したみたいな職場です。どこか一般常識が欠落したような人が多いですね。自分も含めてかもしれないですけど、真っ当に生きていける人っていうのが少ないんだろうなって。日本社会に適応して、出世するとか、家庭を持つとか、そういうレールに何の疑問も持たず、すいすい世の中を渡っていける人はここにいないなっていう感じがしますね。そんな環境に私も居心地の好さを感じているのかな」

 この言葉どおりに受け取るとすれば、バンコクにあるコールセンターという職場には、日本社会のメインストリームから外れた、もう若くはない大人たちが集まっているということになる。バンコクへ渡った段階で「人生の落伍者」というレッテルを貼られてしまった人たちが、一つの職場にまとまって存在しているということなのだろうか。

 そうは言うけどさ、レールに乗っているように見える人間たちだって、みんなすいすい渡っていけるわけじゃなくて、必死にレールにしがみついてるんだよ……と思いながら、僕はこの本を読んでいたのです。日本人男性が東南アジアからの出稼ぎの女性と付き合って、さんざん貢がされた挙句に、金の切れ目が縁の切れ目になってしまう事例はたくさんあるわけで。もちろん、うまくいくことだってあるので、こういう僕のイメージは偏見なのかもしれませんが。

 この本を読んでいると「一度たがが外れてしまったら、男も女も『やること』は一緒なのではないか、あるいは、男女に限らず、『そういう人』はいるのだな」という気がしてきます。その「男女平等」が喜ばしいことかどうかはさておき。現地との経済格差を利用して、「買っている」わけですし。

 でも、僕も40代になってあらためて考えてみると、いろんな常識とか羞恥心に縛られて、自分の欲望を抑えて生きても、結局何も良いことなんて無いのかもしれない、という気がしてくるのです。いい学校に入るために勉強し、いい会社に入るために就職活動をし、出世するために休みもとらずに働き、老後のために貯金し、そうこうしているうちに親の介護だ子供のお受験だのと「義務」が増え、ようやく落ち着いたと思ったら、もう自分が介護される側だった……「後でラクをするために、今、苦しんでおこう」とは言っても、墓の中でラクしてどうするんだろう……

 この本を読むと、バンコクのコールセンターには、「日本で周りとうまくやれなかった」という人たちが多く、海外で時間を守ってきちんと働き、向上心を持って勉学に励む」というタイプの人は少ないようです。電話での受け答えなので、服装はほとんど自由。勤務時間はけっこう融通が利き、残業もない。

 「生来の日本語話者であれば、マニュアルどおりにやれば特別なスキルは要らない仕事」なのですが、その一方で、この仕事を続けても、先行きが明るくなるような資格やスキルにはつながりません。現地の日本企業の駐在員たちからは「同じ日本人でも、ダメな人たち」と蔑まれることも多いそうです。

 タイには、現在約67000人の邦人が在留していて、日本からの正社員(駐在員)の平均年収は約1000万円だそうです。現地採用者の給与は駐在員の5分の1から2分の1程度。

あわせて読みたい

「海外移住」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    SNS誹謗中傷 人命を奪う自覚持て

    たかまつなな

  2. 2

    指原発言に賛辞ばかりでない背景

    文春オンライン

  3. 3

    橋下氏 同業者に甘い報道に苦言

    ABEMA TIMES

  4. 4

    新型コロナ流行で出生率に変化か

    BLOGOS編集部

  5. 5

    解除後は出社うんざりな人多数か

    かさこ

  6. 6

    情報源守る産経に太田がツッコミ

    水島宏明

  7. 7

    橋下氏が黒川氏処分への怒り代弁

    鈴木宗男

  8. 8

    危機回避で疑問視 専門家の悲哀

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

  9. 9

    SNSの中傷 今度はきゃりーに非難

    女性自身

  10. 10

    養老孟司氏 考える力身につけよ

    NEWSポストセブン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。