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人脈の価値と力

政府は16日、東京電力福島第1原子力発電所の事故収束に向けた工程表の第2ステップの完了を確認し、野田首相は記者会見で「原子炉が冷温停止状態に達し、発電所の事故そのものは収束に至った」と宣言した。でも住民帰還のメドも立たなければ、廃炉には最長40年必要で、本当の意味での収束には程遠い。欧州債務危機は一向に解決する様子を見せず市場は混乱している。いまや誰もが言い知れぬ不安を抱え、年金問題、増税案を論議する政府の迷走にいらだっている。

世の中は物凄いスピードで変化し、カネをザクザクと生み出すビジネスモデルや知識もあっという間に陳腐化し、個人が努力すべき方向も不明瞭な時代となっている。さらにグローバル化の波が押し寄せ、先進諸国の住民は、いつ自分の職を奪われないかと震えている。企業や国家の力は市場経済に対してあまりにも無力で、この経済大国でさえもいつ破綻するか分からない。

こうした能力主義の時代を生き延びる方法として自己啓発本やセミナーをはじめ、多くの知的サービスが世の中に溢れている。さらに個人主義を推奨し、厳しい世の中をしたたかに生き残る方法を見出し、自ら新しい「希望」を作り出すことを教授するビジネスも大量に出てきている。それに伴って人々のコミュニュケーションツールも高度化し、ツイッターやフェイスブックをはじめとするSNSも盛んだ。手軽に人脈を形成でき、後腐れなく縁を切ることができる。

日本の多くの企業は今のところ年功序列制度を採用している。周知のことかとは思うけど、一応説明しておくと、年功序列制とは、勤続年数に応じて、地位や賃金体系が設定されている明確な制度である。でも日本社会ではこのように制度化される以前から、あらゆる社会集団においても、組織に属してからの年数というものが、その組織内における個人の位置・発言権・権力行使に大きく影響している。つまり、個人としていかに集団組織と長期的に接してきたかが価値基準の大きなウェートを占めてきたのだ。

だけど時代は大きく変わり、世界的金融危機に端を発した大不況は、大企業の利益を根こそぎ奪い取り、さらに東日本大震災の影響から、東京電力という伝統ある企業までもが経営危機にさらされている。またオリンパスの損失隠し問題、欧州債務危機による多くの金融機関でのリストラのニュースなど、年功序列制度が事実上廃止されるような事態に陥るばかりか、企業の存続まで分からなくなってきている。一体この残酷な世の中で僕達はどうすればいいのだろう。

こうした社会的背景を考えて、自己啓発や個人主義に走るのもいいかもしれないけど、僕は企業組織で生き残りたいと望むならばあんまりお勧めはしない。なぜならこうした時代だからこそ、人脈や社会的繋がりが重要になってくるからだ。

僕は常々人脈の力は重要だと思っている。これから1つの企業に残ることよりも、転職という選択肢がより一層広がっていくことになるだろう。このような時に効力を発揮するのが人脈だ。はっきり言って転職の運命を決めるのは人脈で、確固としたツテがあればリクナビネクストだの、インテリジェンスだの人材紹介会社が運営する転職サイトに登録する必要はない。基本的に優れた上司や同僚がツルを一本垂らしてくれるので、必死にしがみついてもいいし、有能なヘッドハンターを紹介してもらってもいい。だからと言って異業種交流会にせっせと出席したり、SNSツールを活用して、分けも分からずコンタクトしてもあんまり意味はないだろう。そんなお手軽に作った人脈は、いざという時に全く効力を発揮しないからだ。そもそもそんな薄い関係で助けてもらおうなんていうのが虫がよすぎる話というものだ。

では本当の人脈というのは何だろう。僕は年末年始でも誕生日でもお歳暮でも何でもいいけれど、「何か物でもお金でも受け取ってくれる人」が本当の繋がりだと思っている。誤解を恐れずに言えば、仕事上の繋がりという一定の距離がある関係で、人から何かをもらって簡単に受け取るような人は、人脈という意味ではあんまり重要ではない。それは相手からのそうした行為に対して、重圧を感じないということになるわけだから、きっと困った時も同じように何も感じてくれないケースが多いと思うからだ。

僕は今まで多くの優秀な人間と接してきたけれど、総じて何かしら力になってもらった人というのは、お返しをしようとしても受け取らない人が多かった。人間社会では当たり前である贈与と返報性というルールに逸脱した行為であるけれど、自分自身に強固な力と自信がある人は、時々このような行為をするのだ。もちろん慈善活動家ではないわけだから誰に対してもというわけではないけれど。

ある程度社会的地位を確立した人には多くの利害関係者がすりよってくる。何かの会合やパーティが開催されて、特定の人が参加するだけで急激に参加人数が増えたりするのはよくある話だ。でもきっとこうした場所を通して、名刺をもらったり、連絡先を獲得してもあんまり意味はない。

結局、ある集団に帰属して生き残るために重要なことは、自分の能力を磨く事も当然だけど、何より人との接し方が重要になってくるということだ。会社のために利益を追求するのは当然だし、幸福を目指して活動するのも当たり前だ。だけど仕事上の人間関係というのはもう少し複雑で、損ばかりするようなことをしていても、ふとした所で急激に地位が上昇することもあるし、小銭をせっせと貯めて通帳残高が増えても社会的組織では転げてしまうこともある。人脈というのは時に繊細で壊れやすいけれど、時にとてつもない力を発揮して多くのモノをもたらしてくれることもある。だけどそれは計算高く活動して得られるような単純なモノではなくて、偶然の産物だ。

雇われることを止めて個人で生きていくという選択肢もいいし、社会的組織においても個人の能力を高めることだけに注視するのもいいだろう。僕は別に全体の為に活動したり、社会貢献をすれば必ず報われるなんていう気味の悪いことを主張したいわけではない。でもあんまり行き過ぎた個人主義は、きっとどこかで歪が生じて上手くいかなくなることもあるのではないかと思うのだ。だってあなたを選択したり、判断するのは機械じゃなくて人なんだから。


参考文献
人脈を「作る」のはやめたほうがいい リベラル日誌
タテ社会の人間関係 画像を見る
忠誠と反逆 画像を見る

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