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東大の「ギャップイヤー制度」導入に期待する(前編)

【資料】PDF:1P:ギャップイヤーの4層構造、2P:産官学民の動向.pdf

注目を集める東大の秋入学とセットで検討されているギャップイヤー

 東大が「秋入学」とセットして「ギャップイヤー導入」を検討している。当初の予定では12月に副学長を座長とする作業グループが中間報告を出すとしていたが、現在まで正式の発表は伝わってこない。いずれにせよ、近々何らかの方向性が示されるはずだ。入試時期は変えない前提なので、入学期の4月から秋の入学式までの「半年猶予(空白)期間」が生まれるが、それをどう活用するかが、NHKの朝のテレビ番組の討論になるなど(JGAPも資料提供し協力)、識者はもとより多くの人の関心を集めている。
 そこで、本稿では先進国で主流の「秋入学」そのものの是非より、セットとして検討されているこの「ギャップイヤー」を焦点に当て、その社会的意義や可能性について考えたい。



そもそも「ギャップイヤー」って何?

 日本ではまだまだ馴染みがないが、ギャップイヤーはもともと1960年代に英国ではぐくまれた"慣習"として知られている。大学入学前の1年前後を親元離れ、「インターン・ボランティア・(課外の)国内外留学」等の"就業・社会体験"をし、島国であるため視野を広くすることが目的だった。現在では英国の大学生が2割近く利用するとされ、カナダ・オーストラリア等の英国圏で認知され、今や先進国の多くで広まっている。米国のハーバード大・MITなども積極的に推奨したり、プリンストン大では学内制度としてGap Yearではなく"洒落っ気"で「Bridge Yearプログラム」という名称で、入学許可新入学生が指定の開発途上国で1年間のミッションを持ったボランティアを経験でき、大学側が渡航費や滞在費をの面倒をみている。米国大学三千校の学生が、人数は把握しづらいが自主的にギャップイヤーを利用しているとの報道もある。



 2004年に、英国・教育技能省(現・教育省)がロンドン大に委託して、人気で広まっているギャップイヤーの実態調査を行なっているが、大学入学前に限らず、学部内や卒業後でもよいと概念は広がっていて、期間も1年に限らず、「3ヶ月から2年」という認識だと規定している。英国では一種の旅行損害保険のようなものであるが、40歳まで利用できる「ギャップイヤー保険」や、新聞に「ギャップイヤー」欄を設けている社があり、学生のボランティア活躍などを伝えている。

ギャップイヤーは"慣習"から"サイエンス"や"高等教育機関の社会人育成装置"へ

 ギャップイヤー(以下GY)の効用は、日本の文科省も調べていて、サイト内に英国の各種データも日本語にして掲出されている。①GY経験者は、中退率が通常20%もあるのに、3%と問題意識が高まり低い(バーンアウトの防止作用有) ②大学入学後、復帰後の就学力の向上 ③就業力・職業観の向上があげられる。このような定性的な研究だけでなく、私が調べたところでは、昨年2010年に豪・シドニー大のアンドリュー・マーティン教授が、高校生2500人の追跡調査を行い、統計的にGYの効用を証明して、世界教育心理学会の査読論文で発表している。それは、GY経験者が非GY経験者より、「就学後のモチベーションが高く、企画力・忍耐力・時間管理力・適応能力が高い」ということを立証している。この論文により、英語圏ではさらにギャップイヤーに対するポジティブな評価が定まってくると予想できる。

 つまり、今やGYは"慣習"から"サイエンス"もしくは"高等教育機関の社会人人材育成装置"になっている。それを裏付けるように、今年1月に英国250社調査では、驚くべきことに60%の経営者が「新卒採用において、学位よりGY経験は同等かそれ以上に重視している」(注1)と回答している。

日本でも、既にギャップイヤーを意識し、国内外に飛び立っているイノベーティブな学生が存在している

 実は、日本でも国際教養大(秋田)では東大と近い形で半年GY制度として存在するし、既にGYを意識して自主的に休学や早期に卒業の単位取得などして国内外に旅立っている大学生も多数いる。「PDF:GYの4層構造図(P1)」では第3層に相当するが、JGAPの公式ウェブにはそういうイノベーティブな学生や院生が「なぜGYを取得しているか」や「GY体験から学んだこと」等を寄稿してくれている。例えば、東大の文系3年生が休学して滋賀県で親元離れて農業ボランティアをしていたり、理系の大阪府立大大学院修士課程2年生がドイツでIT系企業に1年インターンしている例など、枚挙に暇がない。これからも続々、新たな"現役GY経験者"がそこから得たアウトカムを発信してくれることだろう。

 つまり、東大が「制度」として検討しているGYは、取り立てて突飛なことではないということをまず理解する必要がある。私は、日本でも既にその「下地」はできていると観ている。「産官学民」の捉え方でいえば、論点は「新卒一括採用」などをしている産業界がGYに対し有為な人材と評価していくか「通年採用」化を進行させるか、関連する文科省・経産省・厚労省などの官庁や政府が「資格試験」や「採用時期」の柔軟性などのサポートをするか、そしてそれぞれの大学がGY制度自体を創設するか休学管理費等の減免で取得しやすくするか、最後に「民」として、学生自体がGYを志向するか、保護者や社会一般も支援するかである。後編であるべき姿を提起するが、どのセクターも概ね理解があると観ていて、東大にとっては決断の一大チャンスであろうし、また支える必要性を感じている。(PDF:産官学民の動向P2参照)。

東大の国際化と多様性へのチャレンジとしてのギャップイヤー制度確立を応援し、日本の高等教育の在り方を変えよう!

 東大・濱田純一総長は、GYに対し、9月1日付朝日新聞紙上で、「バックパッカーになって海外に放浪してもいいし、ボランティアやインターンでもいい。大学として、半年の過ごし方のメニューを提示することも必要」とコメントし、10月9日付の讀賣新聞紙上では「大学だけでなく、企業・NPO・国などが関わり、質の高いメニューを用意したい」と述べている。



 このメニューとは、「GYの4層構造図」の第1層にあるプリンストン大の「大学側提示型」を意味している。また、国際教養大学のように、入学許可学生が大学側にいわばGYという"半年研修プラン"をプレゼンして進める第2層との併存を検討している可能性もある。濱田総長は「文藝春秋11月号」で、「多様性は教育における本質のはずが、東大入学者の首都圏出身者は6割、中高一貫型私立校出身者に至っては5割超」と憂いている。これに関連し、GYについて、「各企業が我先にと採用活動を前倒しし、学生の修学期間が短くなっている問題も何とかしたいが、人生の節目でいわばショックを受ける体験がなければ、変化していく時代に柔軟に対応する能力は身につかない。豊かな知識をベースに入学前や卒業後の社会活動を通して鍛え抜かれた学生は、一味違い、企業や社会が求めるニーズに正面から応えるタフさと幅の広を備えた優秀な学生に育つことは間違いない」と主張している。

  濱田総長はリスクを取り、東大の国際化と多様性へのチャレンジとしてギャップイヤー制度確立を目指している。そして、日本の高等教育の在り方自体を変革しようとしている。私はこの試みに全面的に賛同したい。(後編に続く)

(出所)2011年1月英国250社新卒採用調査http://www.realwire.com/releases/60-Of-Managers-Believe-Gap-Years-Are-Equally-As-Important-As-Or-More-Important-Than-Degrees-When-Looking-For-New-Recruits

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