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キャラクターへの感情移入における、性別の壁/年齢の壁

オタク界隈で、まともな大人がまともに描かれるようになった - シロクマの屑籠



ところで、キャラクターへの感情移入に際して、性別の壁と年齢の壁、どちらのほうが越えやすいんだろうか。ちょっと考えてみたくなったので、書いてみる。

「性別の壁」を越えた感情移入

性別の壁を越えて感情移入をすることは、実際にはそれほど難しくない。古来、この国ではジェンダーの曖昧な作品が時々生まれてきたが、近年はジェンダー的境界が曖昧になっていることもあってか、異性であることが感情移入の妨げになりにくくなっていると思う。

ことオタク界隈では、ここで書いたように、異性のキャラクターを感情移入に用いる様式が、男性側/女性側双方で発達し続けてきた。異性キャラクターを介した感情移入は、自分自身のジェンダーを回避できるというメリットがあり、自分自身のジェンダーに否定的な人が生き生きとした感情移入を楽しむには適している。こうした異性への感情移入のメリットは、当初こそ、少数の“おたく”だけにニーズがあったのかもしれないが、今では男性側/女性側ともに、異性のキャラクターへの感情移入はニッチというより、相応にメジャーな位置を占めている。

このように、性別の壁を越えたキャラクターへの感情移入は、現今のオタク界隈では易々と行われており、それを前提にしたコンテンツやキャラクターも珍しくない。オタク界隈の男性側/女性側それぞれの異性キャラクターを介した感情移入が普及したのは、おそらく、ジェンダー忌避の強い人が急増したというより、自分のジェンダーをカジュアルに/一時的に手放す身軽さがそれなりにウケている、ということなのだろう。ライトノベルにありがちな、ハーレム的な構図で美少女所有願望をしっかり押さえつつ、性別の壁を越えやすい美少女キャラクターを配置した作品などは、そうしたカジュアルなニーズによく適っているように見える。

なお、念のため断っておく:ここでいう「性別の壁を越える」とは、「感情移入の対象となるキャラクターが自分の性別と違っていてもOK」ということを指すだけであって、現実異性の心情が分かるようになる事とは別の話だ。例えばライトノベルのヒロインのなかには、“身体以外はまるきり男性なヒロイン”“心に脛毛が生えているヒロイン”等が出てくるが、ああいうヒロイン達に感情移入できるからと言って、その年頃の女心が理解できているわけではない。むしろ現実異性への無理解と無視が先行しているほうが、異性キャラクターへの感情移入をかえってやりやすいぐらいかもしれない。先の例で言うなら、“身体以外はまるきり男性なヒロイン”“心に脛毛が生えているヒロイン”等であることが気にならない程度に女子を知らない(知りたくもない)ぐらいのほうが、感情移入に差し障らないのではないか、というわけだ。

「年齢の壁」を越えた感情移入

では、年齢の壁を越えた感情移入の場合はどうなのか。

そういうこともあるだろう。ただしこの場合も、歳の違うキャラクターへの感情移入が出来ていることと、歳の違う世代の心情が理解できていることは、イコールではない。例えば『ドラゴンボール』の悟空に小学生が感情移入できているからといって、その小学生が子持ち世代の心情を理解しているわけではあるまい。むしろ逆で、悟空というキャラクターが壮年世代離れしていて、むしろ子どもっぽさが勝っているからこそ、子ども世代にも感情移入しやすいだけだ。

また、幼稚園児が『プリキュア』のヒロイン達に感情移入している場合も、お姉さんへの憧れによって同一化が起こっているのであって、思春期の女心を知っているわけではない。

そして、上記のような特徴を伴っていない壮年期キャラクターの場合、年齢の壁を超えた感情移入は難しくなる。『花咲くいろは』の皐月や『うさぎドロップ』の大吉に感情移入するにも、『秒速5センチメートル』第三章の自己憐憫に耽溺するにも、それ相応の人生経験が必要で、中高生には難しいところである*1

ところが、幼稚園児にとっての『プリキュア』のような、壮年世代への同一化願望を介して感情移入を促すような、思春期男女にとって憧れになりそうな壮年キャラクターが人気を博しているかというと、そんなに人気を博しているようには見えない。オタク界隈において、性別の壁を越えるノウハウとキャラクターが普及しているのに比べれば、そういった壮年キャラクターを商品化/消費するためのノウハウは蓄積されていないように見える*2。オジサンオバサンが自己投影するための思春期キャラクターならば嫌というほど存在するにも関わらず、である。

なぜ、壮年期のまともな大人に対する感情移入が発展しないのか?

性別の壁を越える場合には、ジェンダーの束縛からの自由という特典がついてくるけれども、世代の壁を越えてもそういう特典がついてこないからかもしれない*3。しかしそれ以上に、オタク界隈はもとより、社会全体に蔓延している思春期至上主義な社会病理があればこそ、思春期を越えた世代のライフスタイルへの感情移入-需要が乏しいのではないかと私は勘ぐっている。

思春期を終えてからのライフスタイルに、憧れよりも不安、楽しみよりも苦しみを見出す人のほうが多い世の中では、憧れになるような壮年期キャラクターへの同一化が流行らないのは当然というもの。せいぜい、「児童期や思春期の面影をやたらと残したオッサンオバサン」や「壮年期を受け入れきれずに持て余しているオッサンオバサン」に幾ばくかの需要が生じる程度だろうか。

もし今後も、壮年期を忌避し思春期を礼賛するメンタリティが界隈を席巻し続けるなら、感情移入の世代先は、もっぱら思春期の年頃/思春期心性のキャラクターに集中し続けるのは仕方あるまい。今後、(まともな大人の)壮年キャラクターが思春期世代をも魅了するのか?それともやっぱり駄目なのか?注視してみようと思う。

*1:逆に、人生経験の豊富な壮年~老年世代であれば思春期キャラクターに感情移入できるかと言ったら、そうとも限らない。戦中育ちの人が現代の学園モノのキャラクターに感情移入することが困難なように、体験した思春期の内実と、キャラクターの思春期とが大きく異なっている場合には、感情移入はやはり困難になる。

*2:ただし、国内の、とりわけオタク界隈において、という話。

*3:昔だったら「早く一人前になりたいけれどなれない自分」という、世代の足枷から心を解き放つという特典が大きな意味をもっていたかもしれない。だが今日、思春期を早く終わらせて壮年期のライフスタイルに憧れたいという若者はあまりいない。

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