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混合介護を解禁することで利用者にメリットがあるばかりか、介護士の待遇改善も期待できる - 「賢人論。」第53回八代尚宏氏(前編)

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2018年度から豊島区でモデル事業が始まる「選択的介護(混合介護)」。介護サービスの規制改革や介護士の指名制度などが実現すれば、財政や介護士の待遇をめぐる問題が、大きく進展すると見られている。今回のゲスト・八代尚宏氏が委員として参加する規制改革推進会議では、重い腰を上げない厚労省とのやりとりが未だ続く見込み。“杓子定規”の制度が生む日本社会の矛盾を、八代氏が指摘した。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

「混合介護」が介護業界を救う

みんなの介護 政府は、次回2018年の改定で介護報酬を引き上げる方向で検討しているとのこと。これを機に、介護事業者は苦境から抜け出すことができるのでしょうか。

八代 介護報酬は、当初の大幅な引き下げから、現在でも介護保険がつくられたときより低い水準です。十分な収益がないので、介護事業者は必要な賃金を介護士に支払うことができない。今後、増える一方の要介護高齢者の下で、ますます人手不足は深刻になります。

みんなの介護 これからどうやって介護士の不足をまかなっていくか、というのは大問題ですね。

八代 外国人介護士を使うと言っても限界がある。社会保険料を必要なだけ引き上げると経済に悪影響が出る。豊島区では「選択的介護」と呼んでいますが、いわゆる「混合介護」の導入こそが有効な対策だと思っています。

みんなの介護 混合介護とは、介護保険内の1割負担サービス(※収入により2割)と保険外の全額負担サービスを自由に組み合わせられる仕組みのことですね。現段階では、これら2つを同時に利用することができません。

八代 今は、保険内サービスと保険外サービスを、時間等で明確に区分しなければならないことになっています。不当に料金を取る事業者が現れる恐れがある、ということが理由とされていますが、そんな悪徳事業者は例外的。十分な競争があれば、その中で淘汰されていくはずです。

みんなの介護 混合介護が認められていないことで、現場ではさまざまな不都合が生じているそうです。

八代 例えば、ヘルパーさんが高齢者の方のお宅へ行って夕飯をつくるとき、高齢者本人のご飯をつくるのは保険内なのですが、ご家族の分を一緒につくるのは駄目、と指導されています。もし、保険外サービスとして家族の分もつくるときには、一度鍋を洗ってつくり直さなければいけないという(笑)。これって莫迦げていますね。

少しの手間賃で家族の分までご飯をつくることができたら、帰ってきた家族がずいぶん助かるのに。「少し多めにご飯をつくっておいてね」とヘルパーさんに頼んでいるご家族の方もいるそうなのですが、そういうことを引き受けて良いものかどうか困るヘルパーさんも多いのだとか。

洗濯に関しても、家族の分も洗濯するときは洗濯物を別にして回し直さなければいけなかったり、デイサービスから自宅へ自動車で帰すときも、途中のスーパーで降ろすというようなことができなくて、必ず家まで送らなければならなかったり。こういう保険外サービスは「明確に区分」という原則が多くの無駄を生んでいます。


混合介護を解禁することで、利用者は多様なサービスを選択できる

みんなの介護 保険外サービスを行うなら、とにかく保険内サービスをぜんぶ完了して、完全に区別してやらなければいけない、ということになっているのが現状です。

八代 あとは、デイケアセンターに洗濯物を持ち込んでコインランドリーを使うことさえ可能かどうか不明というのが現状です。「介護保険で賄われているデイケアで介護事業者がお金儲けをしているとみなされないか」と言うのですが…、要は厚労省が何を違反だと言ってくるかわからないから、ニーズがあるのに事業者が対応できていないケースが多いということでしょう。

一人暮らしをしている認知症高齢者の方は、自宅で洗濯すると忘れてしまって、濡れた洗濯物がいつまでも洗濯機の中にある、ということも起きているそうです。ですから家で洗濯するより、デイサービスにもっていって職員に見守ってもらう方が好都合でしょう。でも、コインランドリーが置けないので、それができない。

みんなの介護 保険外と保険内を「明確に分けなさい」という厚労省の指示を徹底すると、そのような面倒な事態が起きてしまう。

八代 一方で、事業者の中には「500円サービス」と言って、介護保険サービスの終了後にペットに餌をやるとか、草むしりをするとか、15分程度でできる雑用を何でもヘルパーさんにお願いできるサービスを提供している事業者もいるそうです。今の決まりではグレーゾーンにあたるのですが、大変好評だそうです。

それに加え、厚労省のルールが曖昧なために、ある自治体では良いことが他の自治体だとNG、というローカルルールもあったりして、いろいろと厄介だそうです。混合介護を導入していくと同時に、その辺のルールも透明化していかなければいけないです。

みんなの介護 その他、混合介護のバリエーションとしては介護士の「指名料」制度なども検討されています。

八代 介護はもはや福祉ではなくサービスですから、介護士の経験や能力の差に応じて報酬が変わるような仕組みは必要ですね。これは美容師を始め普通のサービス業では当たり前の話ですが、今の介護報酬はベテランでも新人でもまったく差を設けていない。

みんなの介護 ヘルパーさんとの相性もありますよね。

八代 「この前来たヘルパーさんが良かったから、是非もう一度来てほしい」ということは多々あるでしょう。それに例えば、関西出身の高齢者は関西風の味付けで料理をつくってもらえれば嬉しいかもしれない。となると、関西風の料理がつくれるヘルパーさんへのニーズが出てくるわけです。

聞いた話なのですが、デイケアデンターで昼食時に認知症の高齢者がよく暴れ出すことがあるという。なぜ暴れるのか探ってみると、どうやら「味噌汁の味が口に合わない」ということが原因だった。そんなことが実際にあったそうです。それを「わがまま」で済ませるというのは少し酷。せめて在宅サービスで追加的なコストがかかる分は利用者の選択で負担することで、できるだけ高齢者のニーズに対応できるようにしていくべきです。

混合介護を解禁することで、利用者は多様なサービスを選択できるし、事業者はより多くの収入を得られる。すると介護士にも、待遇面で還元できるようになる。政府の役割と民間の役割を適切に組み合わせ、それによってお互いにメリットをもたらす、というのが「混合介護」という考え方なのです。

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