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緊迫化する中東情勢

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12月6日、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認定

トランプ米大統領は12月6日、エルサレムをイスラエルの首都として公式に認め、米国大使館を現在のテルアビブからエルサレムへ移転する準備に着手するよう指示したと発表した。移転時期は明示されていない。大使館移転に反対していたティラーソン米国務長官は12月7日、「エルサレムの地位を決定付けるものではない」とし、「急いで実施するわけではない」と述べた。匿名の米政府高官は数年かかるとの見通しを示している。

 エルサレムへの大使館移転については、米議会がエルサレムへの大使館移転法を1995年に制定している。ただ、同法は大統領が半年おきに移転を延期できる条項があり、歴代米大統領(ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ)は同法の執行延期を繰り返してきた。エネルギー資源として重要な地位を占める中東産油国・アラブ諸国との関係や中東地域での政治的軍事的混乱を恐れたからだ。

 トランプ大統領も昨年の米大統領選挙の際、上記の歴代米大統領と同様、エルサレムへの大使館移転を選挙公約に掲げてきた。そのトランプ大統領も今年6月5日は移転を半年先送りする文書に署名し、その期限が12月4日に到来していた。歴代米大統領はエルサレムへの大使館移転を選挙公約に掲げたものの、誰も実行しなかった。しかし、トランプ大統領は歴代大統領と異なり、有言実行するということである。トランプ大統領は12月6日の声明で「過去20年以上も法の執行を延期し続けてきたにもかかわらず、恒久的な和平に近づいていない。だから、新しいアプローチを始める」と語った。

 歴代の米大統領が先送りしてきたエルサレムへの大使館移転をトランプ大統領が決定したことにより、世界中に大きな波紋が広がっている。世界的に極めて重大な影響が出てくるだろう。以下、エルサレムの首都認定・大使館移転問題が決断された背景と今後予想される世界的な影響を列挙し、さらには米国の秘められた狙いについて考察する。

エルサレムの首都認定・大使館移転問題が決断された背景

まず、エルサレムの首都認定・大使館移転問題が決断された背景について列挙する。

(1)選挙公約の有言実行 … トランプ大統領は2018年までにエルサレムへの大使館移転を決断すると選挙公約に掲げてきた。歴代米大統領がなし得なかったことをトランプ大統領が有言実行することにより、歴史に名を残すことになる。あくなき上昇指向を持つと見られるトランプ大統領にとって、歴史に名を残すことはたまらない魅力だろう。

(2)破壊と創造 … 本論2月22日号「トランプ米大統領が構築する世界」で指摘したように、トランプ大統領は世界の現体制・国際秩序の破壊と新たな体制・秩序の構築を目指している。破壊と創造である。中東和平のための「新アプローチ」は、トランプ大統領が就任演説で「この先何年もの米国と世界の道筋を決める」とした宣言に沿うものだろう。

(3)ロシアゲートからの関心そらし … トランプ政権とロシアとの不透明な関係を巡る疑惑、いわゆるロシアゲートからの米国民の関心をそらす狙いがあるだろう。今年1月のトランプ米政権発足時、大統領補佐官(国家安全保障担当)に就任したマイケル・フリン氏が、ロシア疑惑に関して12月1日に訴追された。

 フリン氏は、司法取引に応じ、ロシアとの接触はトランプ政権移行チームの指示だったと証言した。ロシアとの接触について、トランプ氏の娘婿クシュナー大統領上級顧問らの指示だと説明したとみられている。トランプ大統領にとって、クシュナー氏は、いまや「事実上の首席外交官」(英フィナンシャル・タイムズ紙)である。トランプ政権を維持するうえで最重要人物と言え、是が非でも守らなければならない人物であろう。

(4)権力闘争の結果 … トランプ政権は、発足時から政権内で凄まじい権力闘争が行われてきたようだ。このことは、トランプ政権発足時の重要閣僚・重要幹部が相次いで解任されたり、辞職するという異常事態に如実にあらわれている。例を挙げると、上記のマイケル・フリン氏は2月に辞任し、コミー米連邦捜査局(FBI)長官が5月に解任され、スパイサー大統領報道官が7月に辞任した。8月にはプリーバス首席補佐官とスカラムチ広報部長が解任され、バノン主席戦略官が辞任した。

 9月にはプライス厚生長官が辞任し、オマロサ大統領補佐官(渉外担当)も2018年1月に辞任する予定だ。ティラーソン国務長官やコーン国家経済会議(NEC)委員長にも退任の観測が出ている。大統領選でトランプ陣営を支えてきた中心人物であるバノン氏は辞任後、「我々が選挙で勝ち得たトランプ政権は終わった」と述べた。権力闘争に勝ち残った最有力者はクシュナー氏である。ユダヤ人クシュナー氏は、トランプ大統領がエルサレムの首都認定・大使館移転問題を決断するにあたり、大きな影響力を行使したと報道されている。

(5)2018年11月の中間選挙を見据えた布石 …トランプ政権は、白人中産階級のほか、ユダヤ人勢力やキリスト教原理主義者などに支えられて勝利した。米国のユダヤ人は約600万人と米国人口の2%でしかないが、大きな影響力を持つ。ユダヤ人は、金融界や法曹界、実業界、さらには映画界、音楽界など広範な分野に多くの著名人がいる。

 例を挙げると、グリーンスパン氏、バーナンキ氏、イエレン氏といった歴代の米連邦準備制度理事会(FRB)議長、フィッシャー前副議長、クリントン政権で財務長官を務めたサマーズ氏、経済学者のスティグリッツ教授、フェイスブックのCEOザッカーバーグ氏、映画監督のスピルバーグ氏など枚挙にいとまがない。巨額の資金を拠出できる大富豪も多い。潤沢な資金と組織力に裏打ちされ、国内外に強固なネットワークを持つユダヤ人勢力は、米国政界の最大勢力の一つである。米国外に広げても、欧州ロスチャイルド財閥をはじめ、世界中に強力な基盤を築いている。

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