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中国人が"日本の産婦人科"に殺到する理由

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■「一人の女性として扱われない」

「性交渉はなくなっているけれど、子供がほしい」という方は、日本でも数多くいます。他にも、夫婦の性の関係や不妊への悩み、シングルマザーになることの不安など、悩みは日本人と同じ。もちろん生殖器の疾病など、抱えている病気も、日中で同じです。年齢も、平均すると35歳前後。日本人の相談者と共通しています。

ただひとつ違う点は、中国の方からは、産科事情の遅れについての嘆きを聞くことが度々あるということです。上海在住の陳東華さん(40歳、仮名)は、「中国の産婦人科では、ひとりの人として、女性として扱われない」というのです。陳さんが、昨年、月経痛で診察を受けたところ、子宮筋腫が見つかりました。心配になり、「妊娠に影響しませんか?」と男性医師に尋ねたところ「その年では子宮は要らない、取ったほうがいいよ」と、冷たく言われたそうです。

中国ではこのように男性医師が、女性を傷つけるような失礼な言葉を投げかけることが、よくあるようです。日本でもかつては、高圧的な医師が女性を傷つけることがありました。そうした被害を受け、精神的に傷ついた女性を受け入れるのも、私たちの役目でした。まだ日本にもひどい医師はいるかもしれませんが、いまレディースクリニックが日本各地に広がっているのは、かつてそうした状況があったからです。つまり中国はまだその歴史を経ていないということでしょう。

もちろん、中国にも、女性の悩みに誠実に向き合う医師はいるでしょう。ただ、その数はじゅうぶんではないようです。医療の質も、全体のレベルとしてはまだ発展途上と言えるのかもしれません。

日本のレディースクリニックのなかには、そのような状況を見て、中国に進出しているところも出てきています。そうした動きは今後も増えていくかもしれません。

しかし、誤解されたくはないのですが、私はただ「日本の産婦人科はすごい」と言いたいわけではないのです。すでに医療の質という観点から見れば、日本は「技術」の高さにおいて最先端ではありません。特に、私たちが関わる高度生殖医療と言われる領域で、それは顕著に表れています。

■日本の医療技術は後れをとっていく

研究の規模の問題・資本力の問題や、日本の医師や研究者が、技術の研鑽や勉強に費やせる環境が世界に比べて劣っていることなど、さまざまな背景があります。

さらに「倫理的な問題についての議論が不十分だ」という理由で研究が進まないという事例もあります。「どこまで遺伝子解析・操作が許されるのか」「新たな技術は自然な人の生殖といえるのか」。もちろん、そうした議論は必要です。しかし、日本で「議論を重ねている」と言っても、この数年間でどれだけ進展があったでしょうか。その間にも、世界では研究がどんどん進んでいるのです。

この10年の間に、中国は遺伝子解析の分野において世界でトップクラスの先進国になっています。今年3月、中国の研究所が「ゲノム編集」の技術を、人の正常な受精卵に対して使い、病気の原因となる遺伝子の修復に成功したことがニュースになりました。また、北京に本社があるBGIは、遺伝子解析の分野で世界トップレベルの研究を行っています。

最先端の医療技術という意味では、もはや中国のほうがはるか先を行っているのです。なかには倫理面で疑問を抱かざるをえない技術もあります。実際に、日本では、「倫理的な問題」で行うことができない技術が多い。ただ、日本とは倫理観そのものが異なっているという事情も考えなければいけません。純粋な「技術」の面で、日本が追いつけるかというと、悲観的にならざるをえません。そして、先端医療の裾野は、中国でどんどん広がっていくでしょう。

■産科医療の将来像とは

訪日する中国の方に話を聞くと、日本のいいところは、「静かなところ、清潔なところ、安全なところ」と口をそろえます。そして、どこにいってもサービスが優れているとも言います。日本の医療に求められるのも、同じような「安心感」だと思います。最先端のものは、医療だけでなく、経済や産業も、すでに中国にあるわけですから、そう答えるのは理解できます。

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「オーク銀座レディースクリニック」の培養室


これからも、日本のレディースクリニックは女性の安心――技術面だけではなく、精神の安心を含めて――を大事にしていくでしょう。それが中国の女性にも受け容れられ、日本のクリニックの来院者を増やし、もしかすると将来的には中国で「日本流の産婦人科医院」が次々と開院することになるかもしれません。対して、高度な生殖医療を受けたい場合に、日本人が中国の病院を訪ねることもあるでしょう。両国が「得意なこと」ですみ分けていく。そんな未来が訪れるかもしれません。

医療技術も、人の移動も、どんどん国境はなくなり、グローバルになっています。いまの日本的なレディースクリニックの「安心」と、中国の医療技術の「先進性」を、どのようにミックスすればいいのか。議論を重ねるだけでなく、女性の具体的な悩みに応えていくことが、必要ではないでしょうか。

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田口早桐(たぐち・さぎり)
産婦人科医、生殖医療専門医。1965年大阪市生まれ。1990年川崎医科大学卒業後、兵庫医科大学大学院にて、抗精子抗体による不妊症について研究。兵庫医科大学病院、府中病院を経て、大阪・東京で展開する医療法人オーク会にて不妊治療を専門に診療にあたっている。自らも体外受精で子どもを授かった経験を持つ。著書に『ポジティブ妊活7つのルール』『やっぱり子どもがほしい! 産婦人科医の不妊治療体験記』。

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(産婦人科医、生殖医療専門医 田口 早桐 写真=iStock.com)

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