- 2018年01月10日 09:15
中国人が"日本の産婦人科"に殺到する理由
1/2■「銀座なら通いやすい」
銀座にレディースクリニックを開院して、まる1年がたちました。もともと、私は大阪にあるオーク住吉産婦人科で、不妊などを専門に診察をしています。オーク会は他に大阪の梅田となんばにレディースクリニックを開いている在阪のグループです。ですので、私は現在、大阪から東京まで通って、診察を行っています。平たく言うと、「東京進出」したわけです。
大阪で「銀座にクリニックを開院した」と話すと、「儲かってますな」と言われます。でも、この場所に決めたのにはある理由があるのです。ひとつは、関東から大阪のクリニックに通院されている方々の負担を減らすことです。そしてもう一つが、海外から訪れる相談者や患者に対応するため。特に近年増えているのが、中国人の方々です。中国籍の相談者のなかには、日本在住の方もいらっしゃいますが、中国から受診にいらっしゃる方のほうが圧倒的に多くなっています。
銀座にはたくさんの産婦人科があり、まさに「不妊クリニック銀座」なのです。それだけ集中する背景には、海外での知名度が高く、羽田空港からのアクセスも確立されている点があると思います。大阪のクリニックに訪れる方からも、「東京にあれば通いやすいのに」という声がとても多かったのです。
■背景にある「一人っ子政策」廃止
画像を見る「オーク銀座レディースクリニック」のエントランス
ここ数年、中国人の相談者は驚くほど増えています。大きな要因は2015年12月に、「一人っ子政策が廃止」されたことです。中国では長らく「一人っ子政策」が行われていたため、産婦人科への関心そのものが低かったように思います。ただ、中国には結婚すると女性が財産を持って嫁ぐ文化があるので、「男の子がほしい」と思う人は多く、男女の「産み分け法」について尋ねられることもありました。
「一人っ子政策」が廃止になり、中国でも不妊などの悩みを抱える女性が顕在化し、産婦人科のニーズは高まりました。それまで、中国では不妊や高齢出産など妊娠に悩む方の相談を受け付ける場所がほとんどなかったのです。現在でも女性の要望に応えられる「レディースクリニック」は圧倒的に足りません。そこで、比較的近く、医療の質が高い日本のレディースクリニックに多くの方が訪れるようになった、というわけです。
■産婦人科は「中国語ができる人を採用したい」
弊院のデータを見ると、その急増ぶりは明らかです。10年ほど前、2007年当時、新規に来院される中国人は月平均1~2人でした。それが現在は10~15人になっています。産婦人科には、継続的に相談や治療で通われる方が多いため、現在は100人ほどの中国人が弊院に通っているということになります。
あくまでも、これは私たちのクリニックという小さな世界の話で、公的な統計があるわけではありません。しかし、私の知る限り、ほかのクリニックでも中国人の来院が増えているようです。最近では、産婦人科医の仲間が集まると「中国語で対応できる人を採用したい」という話をよくします。ただし、だからといって、言葉の問題以外に、ことさらに「中国向け」の診療をしようとしているわけではありませんし、その必要もありません。ただ、医療の質を上げていくだけです。
■女性の悩みは日中同じ
日本では「爆買い」でも、中国人のマナーの悪さを指摘する報道が目立ちます。しかし、私には違和感があります。レディースクリニックを訪れる中国人の態度は、日本人とまったく変わりません。国籍は違っても、悩める女性の胸中はみな同じということだと思います。
例えば、上海からいらした李晨晨さん(36歳、仮名)。年上の旦那さんは、上海で働くビジネスパーソンで、安定した収入があるそうです。李さんからは、こんな相談を受けました。
「結婚して8年経つけれども、子供ができないんです。そもそも、結婚後1年経たずにほとんどセックスレスになっています。しかし、義母からのプレッシャーはすごくて、どこで調べたのか『妊娠しやすくなる方法』をいろいろ伝授してくれる。ですが、私にとっては負担になるだけ。主人も精液検査を受けようともせず、性交渉を試みようともせず、それなのに親戚などが集まる場所では『子供がほしい』と言っています。でも、私と本気で妊娠の話をしてくれることはありません……」
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