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またしても政争に矮小化された 沖縄の基地問題 - どん・わんたろう

 大臣が辞めるかどうかってことも確かに大事だけれど、政争に矮小化させてしまうと、本当に大事なことが見えなくなってしまう。国会やマスコミの対応は、いつもそうだ。意図的にやっているとしか思えない。

 沖縄防衛局長の沖縄侮辱発言に端を発し、一川保夫・防衛相が辞任するかどうかをめぐる騒動は、問責決議の可決~辞任拒否・国会閉会で当面は鎮静化しそうだ。でも、ここで何より問題なのは、沖縄の基地をどうするかという本質の議論が、いつもの如くうやむやにされてしまったことである。きっかけが何であれ、改めて沖縄と、基地と、安保と、じっくり向き合う良い機会だったのに、政治家も行政もマスコミも、この体たらく。怒りと虚脱感が入り混じった感情を抱いている。

 米軍普天間基地がどれほど危険な状況なのか。辺野古への県内移設しか方法はないのか。今月上旬、普天間基地が立地する沖縄県宜野湾市の前市長、伊波洋一さんの講演会が東京で開かれ、そのあたりの事情を詳しく聞くことができた。個人的に今年は原発問題に翻弄され、基地問題をしっかり取り上げきれなかったという反省もあるので、話の内容を紹介しながら考えてみたい。

 そもそも普天間基地はどんな経緯で造られたのだろう。

 宜野湾市一帯は沖縄戦の激戦地となり、ほとんどの地域で壊滅的な戦災被害を受けた。焼失を免れた地区には民間人収容所が設けられ、住民は入所させられた。その隙に米軍は4つの集落を接収し、1945年6月から7月にかけて建設したのが普天間基地である。日本本土への爆撃戦を見据えた基地だった。

 話が横道にそれるが、最近、「(普天間)基地ができたとき、まわりにほとんど住宅はない」「現在の住民のほとんどは、基地ができた後に引っ越してきた人々なのだから、危険だと思うなら引っ越せばいい」などと平気でブログに書いた著名な方がいるが、暴論である。戦争で焼けてしまったのだから、住宅があるわけがない。沖縄本島という決して広くはない島で、生活に適した場所は限られているので(現在も宜野湾市域の3分の1が基地である)、土地を収奪された人々は収容所から戻って、基地に張り付いて暮らさざるを得なかったのだ。

 で、現在も続く普天間基地の危険は、隣接する沖縄国際大学構内への米軍ヘリコプター墜落事故(2004年)が如実に示した。1996年の日米合意では「5~7年以内に全面返還」とされていたにもかかわらず、2001年の9.11同時多発テロで訓練は激化。今も市街地を周回するコースで、常駐する約50機を中心に年間2万回を超える騒音をまき散らしながら飛行訓練をしている。来夏にも、さらに危険でうるさいとされる垂直離着陸機MV22「オスプレイ」が配備される予定だ。

 伊波さんは、特に2つの安全上の問題点を指摘した。

 一つは、日本の航空法上の「飛行場」ではないということ。2年ほど前まで、普天間基地の着陸帯から660メートルのところに、高さ37メートルの民間の鉄塔が建っていた。日本政府は「航空法に規定する建造物の高さ制限を踏まえると、周辺住民や航空機の飛行の安全が損なわれるおそれがある」と認めながら、「安全上の規制はなく、鉄塔は適法に建っている」と説明していたそうだ。伊波さんは「国としての安全管理が全くなされていない」と批判していた。

 もう一つ。米国内外すべての飛行場に適用されるはずの米軍の安全基準についても、日本政府は「米軍の基準に過ぎず関知しない」と無視を決め込んでいるという。「日米の関連法令のうち、より厳しい基準を選択する」との日米合意があるにもかかわらず、である。

 たとえば、滑走路の両端から各900メートルは「利用禁止区域(クリアゾーン)」のはずだが、普天間の場合、そのエリアは基地の外で、住宅800戸(住民3600人)や小学校、保育所、児童館がある。米軍が、野生生物を保護するためとの名目で低空飛行や夜間飛行を禁止するケースもあるというのに、普天間(というか日本)ではおかまいなしだ。

 アメリカの政治家に普天間基地の航空写真を見せると、「この飛行場は、ここにあるべきではない」と驚かれるそうだ。伊波さんは「日本の空は米軍のもの。どこでも飛べる」と皮肉交じりに話していた。

 そんな普天間基地をどうすればいいのか。「どこであれ早く移した方がいい」との考え方も成り立つかもしれないが、伊波さんはアジア・太平洋地域の情勢をもとに、普天間を中心に駐留する米海兵隊がそもそも「沖縄にいる必要がない」ことを強調していた。

 海兵隊は遠征する部隊なので、沖縄は展開基地の一つであり、日本のためにいるのではなく海外のための訓練をしているのだという。普天間のヘリ部隊が一緒に行動する沖縄駐留の第31海兵遠征部隊が沖縄で訓練するのは、おおむね年の半分ほどとされる。たとえば2009年をみると、かなりの期間、タイ、韓国、フィリピン、豪州、台湾などへ訓練や災害支援で赴いている。それに、出撃の際に沖縄海兵隊の兵士やヘリコプターを輸送する強襲揚陸艦は長崎県・佐世保基地から来るのだから、地の利があるとも言えないのだ。

 鳩山さんという元首相が海兵隊の沖縄駐留の根拠として持ち出したのが「抑止力」だった。しかし、米軍再編の一環で、沖縄の海兵隊のかなりを占める8000人が2014年までにグアムに移転することになっている。2009年に結ばれた日米協定には「グアムが海兵隊部隊の前方での駐留のために重要であって、その駐留がアジア太平洋地域における抑止力を強化するものであると両政府が認識している」とのくだりがあるという。グアムに移ったって、この地域の抑止力を十分に担保できると、アメリカもみているわけだ。

 また、中国が攻めて来たらどうする、という反論は常に受けるところである。伊波さんは「米軍にとって沖縄は中国から距離的に近すぎるため、有事の際に基地がミサイル攻撃を受ける可能性が高く、軍事拠点としての価値はなくなりつつある」との米国内での見方を紹介していた。今や日中の貿易額が年間25兆円に上ることにも触れ、中国が沖縄を攻撃しても日中両国にとってメリットがあるのか、との問題提起もしていた。

 それでも、日本で「中国脅威論」や「辺野古移設論」が跋扈するのは、新しい基地が欲しいアメリカに煽られているだけ、との見方を示し、アメリカべったりの論調を展開する本土マスコミの責任にも言及していた。

 ところで、ここに来て朝日新聞は、アメリカのアマコスト・元駐日大使、ナイ・元国防次官補とのインタビュー記事(12月8日付朝刊、10日付朝刊)を相次いで掲載。沖縄の海兵隊について、アマコスト氏は「長期駐留の必要性に疑問を感じている」、ナイ氏は「一部をオーストラリアなどに移す選択肢もあり得る」と語っている。アマコスト氏の見解が自衛隊の強化とセットであることを差し引いても、知日派の両氏が沖縄に駐留する海兵隊の移転・削減を認めた意味は大きいだろう。耳を傾けなければなるまい。

 米議会上下両院の軍事委員会が、在沖縄海兵隊のグアム移転関連費用を2012会計年度予算から全額削除する、というニュースも入ってきた。上院軍事委員会は、普天間を米空軍嘉手納基地に統合するよう提唱している。沖縄県内への移設になり、それが良いかどうかは別として、現在の計画を見直すきっかけにはなりそうだ。

 ついでながら、普天間の移設先として「最低でも県外」と公約した鳩山・元首相も最近、改めて「辺野古以外が決してないとは思っていない」と語ったそうだ(朝日新聞・12月6日付朝刊)。政界では「何を今さら」と批判が強いようだが、意味深長だと思う。少しでも本気なのならば、今からでもきちんと責任を果たすべく行動を見せてくれることに期待する。

 日本国内で「不祥事」が続き、沖縄の怒りに油を注いでも、政府は年内に辺野古移設の環境影響評価書を提出する方針を変えていない。沖縄県知事、名護市長がはっきりと反対を唱えている状況で、県民の理解を得ることなんて到底できないとわかりきっているのに、いつまで「辺野古移設」にこだわり続けるのだろう。普天間基地の撤去を前提に、辺野古移設や海兵隊駐留が本当に必要なのか、沖縄の基地負担をどう減らしていくのか、さらには日米安保と米軍基地のあり方について、今こそきちんと考え直すべきだと思う。

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