- 2017年12月30日 13:58
【書評】2017年私の10冊 そして、出版業界の行方
1/2著者デビューする前から、毎年、この時期になると、その年、印象に残った本を10冊紹介している。その年に刊行された本で、趣味で読んだ本(だから、労働分野の本や、書評の寄稿を依頼された本は入らない)の中から、順番を付けずに選ぶというルールでやっている。私の今年の10冊をご紹介するとともに、出版業界の振り返り的なことを書くことにしよう。
私の今年の10冊はこちら。
『大学改革という病』(山口裕之 明石書店)
『自民党』(中北浩爾 中央公論新社)
『裸足で逃げる』(上間陽子 太田出版)
『大人のための社会科』(井手 英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作 有斐閣)
『現代ニッポン論壇事情』(北田暁大・栗原裕一郎・後藤和智 イースト・プレス)
『芸人式新聞の読み方』(プチ鹿島 幻冬舎)
『文庫解説ワンダーランド』(斎藤美奈子 岩波書店)
『1984年のUWF』(柳澤健 文藝春秋)
『1984年の歌謡曲』(スージー鈴木 イースト・プレス)
『キッズファイアードットコム』(海猫沢めろん 講談社)
「大学改革」という病――学問の自由・財政基盤・競争主義から検証する [単行本(ソフトカバー)]山口 裕之明石書店2017-07-25
『大学改革という病』(山口裕之 明石書店)は、「よくぞ言ってくれた」という内容。タイトルどおり、大学改革の矛盾を実に痛快かつ、丁寧に、重厚な文体で論じている。産学連携という茶番、2000年以降のノーベル賞受賞は日本が2位(大学改革前の業績が評価されている)、世界大学ランキングの裏側、独立行政法人化という名の公務員リストラ、「社会的要請」という名の産業界の要請など、筆は冴え渡っている。大学の歴史に関する章も読み応えがある。大学を論じる際に、必ず手にとるべき1冊だろう。
なお、著者の山口裕之氏とは、下北沢B&Bにて対談を行っている。これが大学教職員クラスタに大好評だったので、よろしければこちらのまとめ記事も読んで頂きたい。
大学教育への幻想〜大学を変えたら社会も変わるか?http://logmi.jp/series/%e5%a4%a7%e5%ad%a6%e6%95%99%e8%82%b2%e3%81%b8%e3%81%ae%e5%b9%bb%e6%83%b3%e3%80%9c%e5%a4%a7%e5%ad%a6%e3%82%92%e5%a4%89%e3%81%88%e3%81%9f%e3%82%89%e7%a4%be%e4%bc%9a%e3%82%82%e5%a4%89%e3%82%8f%e3%82%8b
自民党―「一強」の実像 (中公新書) [新書]中北 浩爾中央公論新社2017-04-19
2017年は中公新書の時代だった。『応仁の乱』(呉座勇一)や『定年後』(楠木新)などベストセラーが多数生まれた。
言葉を選ばず言うならば「今どき、中公新書がベストセラーになるとは」と思った方も多いのではないだろうか。ただ、妥協せずに長い時間をかけて著者に書いてもらえる体制になっていること、旧作の売上が多く基盤が安定していることなど、よい本を作りやすい状態を守り続けていることなどから良い本ができるのは当然で。それが今どき本を買って読む人に合っているということだろう。あくまで推測ではあるが、話題になった本を探しに中公新書の棚に寄り、お目当ての本以外のものも一緒に買ってしまうという方もいたのではないか。
前出のベストセラーの他、傑作がいくつもあったが、私は『自民党』(中北浩爾)を推すことにする。「安倍一強」「自民一強」と呼ばれる昨今だが、その「一強」の虚実を明らかにした1冊だ。関係者へのインタビューや数量的なデータから、派閥、総裁選挙、ポスト配分、政策決定プロセス、国政選挙、友好団体、地方組織、個人後援会、理念など多様な視覚から包括的に分析している。各項目の検証が丁寧かつわかりやすく、自民党がいかに変容してきたかがよく分かる。
個人的には小泉純一郎と安倍晋三の比較、宗教団体との関係の変化、2009年に国政において野党になってからも地方議会での強さが復活の基盤になったこと、インターネットの活用などの話、右傾化の理由などが勉強になった。
野党から与党へと復活してから5年が経ったが、その特異な強さと、脆さを解像度高く捉え、鮮やかに描きだしている。先日の衆議院選でも大勝利をおさめたが、今後、改憲を目指す中で、その強さが脆さに変わりそうな予感をこの本からも感じてしまった。
裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書) [単行本]上間陽子太田出版2017-02-01
様々な方が今年のベストとして取り上げていて、一瞬、やめようかと思ってしまったが、これは取り上げざるを得ない。「小説だと思いたかった」というのが、率直な感想である。シングルマザー、DV、妊娠、中絶、離婚、レイプ、援助交際、キャバクラなどの言葉がひたすら並ぶ。まるで村上龍の初期作品かと思ってしまった。
しかし、これは著者による聞き取り調査の積み重ねによるものであり、紛れもない事実だ。これが沖縄の、我が国の現実だ。貧困、暴力はいま、そこにある問題だ。政治家たちに読ませてやりたい。
大人のための社会科 — 未来を語るために [単行本(ソフトカバー)]井手 英策有斐閣2017-09-01
『大人のための社会科』(井手 英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作 有斐閣)は、タイトルどおり、気鋭の学者たちによる大人のための教科書だ。誰にでも読めるような配慮なのか、文体は実に柔らかいが、一つひとつの文章がいちいち重い。会社と社会というシステムに取り込まれてしまった大人たちに、知的刺激と、社会科学的なモノの見方を教えてくれる本である。
なんでも、有斐閣の創業140周年記念出版だそうで。知の扉を開く同社らしい本だ。そして、難しいことを民間人にも分かるように、しかも社会的使命を抱きつつ(と私は解釈した)、書ききった著者たちは偉大だ。



