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なぜ介護ヘルパーは汚い窓を拭かないのか

(ライター 相沢 光一 写真=iStock.com)

体が不自由な老親の生活援助をしてくれる「ホームヘルパー」。だが、そのサービス内容には“縛り”があることをご存じだろうか。部屋の掃除はするが、窓ふきはしない。食料品はスーパーで買ってくれるが、酒・タバコは買わない。介護現場での対応について、2人のケアマネージャーに聞いた――。

■食料品は買ってくれるが、酒・タバコは買ってくれない

介護保険が適用されるホームヘルパー(訪問介護員)のサービスには「身体介護」と「生活援助」の2種類があります。

いつも介護現場で起きていることを報告してくれるケアマネージャーの男性Iさん(首都圏で10数年の経験)、女性Yさん(同)。ケアマネは要介護者やその家族の状況に応じて、ホームヘルパーを派遣する司令塔的な仕事をしています。生活援助に関するさまざまな事例にも詳しいこの2人は、生活援助に関して世の中であまり知られていない事実があると言います。

生活援助とは、独居の要介護者、もしくは別居している家族(子ども)が週末だけ介護に来る要介護者の中で、体が不自由だったり認知症の症状があったりして日常の家事ができない人を、ヘルパーがサポートするサービスです。

▼「ここまではできる」「ここから先はできない」という線引き

援助の内容は、掃除・ゴミ出し、洗濯、調理、ベッドメーク、衣類の整理、買い物などがありますが、「ここまではできる」、「ここから先はできない」という厳格な線引きがされているのです。たとえば買い物です。

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*写真はイメージです(写真=iStock.com/egadolfo)

「ヘルパーのサービスにはこんな決まりがあるんです。“日常生活を営むために最低限必要な品物の購入で、かつ日常生活の行われる地域内の近隣の店舗等で購入する場合に限られる”という。つまり、日常生活に必要と思われないものや嗜好品、趣味に関係するものは買ってはいけません。食料品やトイレットペーパーなどの生活必需品は問題ないんですが、酒やタバコは嗜好品だから買うことはできません」(Iさん)

「酒が生きがいなんだ、飲めなきゃ死んだほうがましだ」「寝酒を飲まないと眠れないから」などと訴える人もいるそうですが、ダメなものはダメと断るそうです。

また、手芸が得意な女性から「体は動けなくなっちゃったけど、手は動くから孫にマフラーを編んであげたいの。毛糸を買ってきて」と頼まれても買いに行くことはできないそうです。

「人情としては買ってきてあげたいところですが、残念ながらこれもダメなんです。毛糸は日常生活に必要とはいえませんし、趣味の範疇に入るからです」(Iさん)

■窓ふきや換気扇の掃除は大掃除の範疇だからダメ

買い物に関しては、買う店を選ぶこともできないそうです。

「食料品を買うスーパーも家から一番近いところしか行けません。たとえばAとBという2軒のスーパーが家からほぼ同じ距離にあった場合は、好きなほうを指定してもらっても構いません。しかし、Bのほうが明らかに遠い場合はAにしか行けないんです。利用者さんが生活援助を受ける以前、“Bのほうが魚の鮮度がいい、惣菜がおいしい”といった理由でBに通っていたとしても応じられません」(Iさん)

また、薬は医師に処方してもらったものに限り買うことができますが、ドラッグストアで売られている市販の薬は買えないといいます。たとえば、毎食後、服用するのを習慣にしていた胃薬も買えないそうです。

掃除にも、いろいろな縛りがあります。

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*写真はイメージです(写真=iStock.com/FotoDuets)

掃除できるのは要介護者が使う部屋だけ。窓ふきや換気扇の掃除は日常生活に必要ではなく、大掃除の範疇に入るからダメなのだそうです。同じように、庭の落ち葉を掃いたり、庭木の手入れをしたりするのも不可とのこと。

「必要最小限のところしか手をつけられないですから、家がだんだん荒れた感じになってくるんです。お元気な頃、きれい好きだった方の場合は見ていて気の毒になります。私は昔、ヘルパーをしていたんですが、窓が汚れたままになっているのを悲しそうに見ている方がいましてね。床をモップでふく動作の流れで窓をふいたことがあります」(Yさん)

▼手すりの設置に「制限」がある自治体もある

ホームヘルパーは「規則」と「利用者の気持ち」との板ばさみの中で仕事をしているようです。

続いてYさんは「これは管轄の自治体によっても判断が異なるので、そういうものなんだと思われると困りますが」と前置きしたうえで、最近あったエピソードを語ってくれました。

「利用者さんの体が不自由な場合、介護保険を利用して生活動線に手すりを設置することができます。かつて私が担当した80代の女性は、『トイレまで』『食事をするテーブルまで』、それと、先立たれたご主人とご両親のお位牌がある『仏壇まで』の3カ所に手すりをつける申請をしました。すると、『トイレまで』と『食事のテーブルまで』は許可が下りたのですが、『仏壇まで』は却下されました。規則ではお墓参りの付き添いといった宗教的行為はサービス対象外になっていて、それが適用されたのでしょう。でも、その方は毎朝お仏壇に手を合わせるのを習慣にしており、手すりをつけられないと聞いた時はしょんぼりしておられた。その姿を見た時はなんとかならないものか、と思いました」

■「安く働いてくれる家政婦さん」扱いする人々

介護保険の目的は、自立した日常生活を営むことができるよう必要なサービスを行うことですが、Yさんの話を聞くと、ただでさえ弱っている要介護者の心の支えを失わせてしまいますます自立した生活を遠ざけてしまうのではないかと感じます。

とはいえ、制度や規則をつくる側から見れば、「ここまではできるが、ここから先はできない」という明確な線引きをしておかなければ収拾がつかなくなるというのもわかります。

東京・世田谷区のウェブページには、生活援助でできないサービスが細かく記されています。

●利用者以外のための洗濯、調理、買物、布団干し来客の応接(お茶、食事の手配等)
●主として利用者が使用する居室等以外の掃除
●単なる見守り(留守番)や話のみの相手
●草むしり・花木の水やり、植木の剪定等の園芸
●犬の散歩などペットの世話
●家具・電気器具等の移動、修繕、模様替え
●大掃除、窓のガラス磨き、床のワックスがけ
●室内外家屋の修理、ペンキ塗り
●正月、節句等のために日常より特別な手間をかけて行う調理など

▼自分でできるのにラクをしたいからヘルパーを使う

前出Iさんによれば「自分でできるのに、ラクをしたいからヘルパーを使おうという人がいる。安く働いてくれる家政婦さんだと思っているんです」とのこと。そういうことを許していては、ただでさえ厳しい社会福祉財源がさらにひっ迫することは目に見えています。生活援助の“拡大解釈”を防ぐためには、厳しいと感じるくらいの明確な線引きをするのも仕方がないのかもしれません。

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*写真はイメージです(写真=iStock.com/Saklakova)

介護保険でのサービスを受けることは難しくても、自費を投じれば望みはかないます。家政婦さんに依頼すれば、窓もふいてくれますし、酒やタバコも買ってきてくれる。庭の手入れは植木屋さん、換気扇の掃除は専門の業者、手すりもリフォーム会社に頼めばつけてもらえます。ただ、すべてを自費で賄っていたら年金では足りなくなりますし、貯金も減っていくでしょう。

厚生労働省は生活援助サービスに対して、さらに厳しい方向への見直しを図るといわれています。要介護になったら、元気だった頃は当たり前だった趣味も嗜好品も快適な生活も、かなり制限されることは覚悟したほうがよさそうです。

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