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フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか、ダニエル・ピンク(著)、池村千秋(訳)

フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか、ダニエル・ピンク(著)、池村千秋(訳)

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(Free Agent Nation: The Future of Working for Yourself, Daniel H. Pink画像を見る)

久しぶりに大ヒットの本に出会った。最近、僕の周りで会社を辞めて独立する人がちらほら出てきて、その人たちがすすめていたのが本書だった。大企業のサラリーマン―つまり社畜―というのはどんどん時代遅れになり、これからは個人が組織に縛られることなく働く時代になる、というよくあるテーマを扱った本だが、評判がよかったので買ってみた。そして、後悔した。なぜこの本をもっとはやく読んでおかなかったんだ、と。テーマ、飽きさせない文章、しっかりとしたデータとその分析。全てにおいて一級品である。

10年も前にアメリカで書かれた本だが、今の日本にそのまま当てはまり、おどろくほど新しい。逆にいえば、それほどよくできた本であるゆえに、社畜としての人生を有意義に過ごしている人は読まないほうが身のためかもしれない。「有給休暇は仕事という刑務所からの仮釈放」「成功したといえるのは、朝起きて、自分のやりたいことをやれる人だ」など、社畜には刺激的なフレーズが並ぶ。なるほど、この本を読んでから社畜を辞める決心をした人が多数いることもうなづける。

著者のダニエル・ピンクは、アル・ゴア副大統領の主席スピーチライターとしてホワイトハウスに勤務し、必要とあればいつでもポケットベル(今ならブラックベリーか?)で呼びだされる社畜であった。週末にポケベルがなり、誇らしげな顔をして「ごめん、ホワイハウスから呼び出されちゃって」などといい、ディナーの約束をドタキャンしたりすることにステータスを感じていた誰よりも立派な社畜であった。しかしあまりの激務に、ホワイトハウスで嘔吐したことがきっかけで辞表を提出し、フリーランスになったのだ。ピンク氏は、膨大なインタビューにもとづき、フリーになりどこの組織にも社畜としては属さない新しい個人の働き方を様々な角度から論じている。このように個人が社畜にならずに働くことができるようになったのは、インターネット関連技術などのITの発達によるところが大きい。

しかしながら、僕はそれでも社畜の素晴らしさを擁護したいし、このようなフリーランスは日本では今後も一部の職種のみに見られるマイノリティーに過ぎないと思える。確かにITにより、技術的には多くの知的職業が社畜である必要がなくなった。むしろ「理論的には」社畜であることのほうがマイナスであることが多い。しかしそれは人間という動物の習性を理解していない一方的な見方に過ぎないのだ。結論からいうと、社畜は個人を働かせる、という点でなんとも経済効率がいいのである。

サーカスの動物は、尻の穴に電極を突っ込まれ、上手く芸ができなければ電気ショックを与えられる。そしてうまく芸ができれば美味しい餌を与えられる。たとえは悪いが、人間も同じだ。広々とした牧場に動物を放したとして、そんな動物が自発的に芸を覚えるだろうか? 「自由」「自分らしさ」「責任」「自分なりの成功」。こういったフリーランスのスローガンは、社畜として成功できなかった落伍者を慰めるための虚構に過ぎない。日本においては、立派な学校に入るために幼少期から厳しい訓練を受ける。立派な学校に入るのはもちろん立派な社畜になるためだ。各種の調査が雄弁に物語るように、日本では、親も先生も本人も、みなが立派な社畜になることを心から望んでいるのだ。このような世の中にあって、フリーランスというのは社畜になれなかった負け犬に過ぎないのだ。

外資系企業でも、新入りは尻の穴に電極を突っ込まれ、蛍光灯がランランと輝くエアコンが効き過ぎた檻の中で、通常は1日12時間〜18時間ほど働かされる。上官のいうことには絶対服従で、あらゆる倒錯したセックスを強要されるのだ。最初は苦痛でしかたがないのだが、ある瞬間からそれが快感に変わる。ご主人様の命令を待ちわびるようになる。電極からの刺激に飢えるようになる。1日12時間がやっとだったのが、18時間ぐらいならぶっ通しでプレイできるようになるのだ。マゾヒスティックな快感に身をゆだね、上官からのあらゆる変態セックスの要求を従順にこなしていけば、やがてアソシエイトはヴァイスプレジデントへ、そしてヴァイスプレジデントはディレクターへと昇進していく。ディレクターぐらいになると、今度はサディスティックな快感に目覚めることになる。何も知らないアソシエイトの尻の穴に極太の電気棒を突っ込み、ありとあらゆる虐待が許される。その内容はとてもこのような一般向けのブログには書けないが、そこは読者のご想像にお任せするとしよう。

要するには、仕事というのは恐怖と欲望、とりわけ恐怖により突き動かされてするものであって、そういったものを否定するフリーランスという生き方は、最初から負けが決まっているのだ。それは罰を与えずに動物に芸を仕込むようなものだからだ。社畜を辞めたら飢えて死んでしまうという死の恐怖に突き動かされている人間に、「自分のやりたい仕事だけをやりたい」「金よりも重要なものがある」「上司を自分で選べないのはうんざりだ」などという甘っちょろいことをいってるフリーランスの人間が敵うはずがないのだ。だから今後もどれだけテクノロジーが進歩し、ほとんどの知的職業が大きな組織に属さなくても技術的にはできるようになったとしても、社畜という労働形態は依然として圧倒的な主流であり続け、フリーランスという労働形態は虐げられる永遠のマイノリティーだ。社会、あるいは国家という幻想が、何より社畜という労働形態を切望しているのだから。

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