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制度によって“黙らされている”当事者たちが楽に生きられるよう、社会システムそのものにも手を入れていかなければ - 「賢人論。」第51回田中俊英氏(後編)

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賢人論。今回のゲストは「officeドーナツトーク」で子ども・若者支援に取り組む田中俊英氏。高校で生徒たちの居場所を提供する「となりカフェ」など、ユニークな事業で社会問題の解決に励んでいる。制度によって“黙らされている”問題の当事者たちを再発見し、彼らが生きやすい社会づくりに努めていかなければならないと田中氏は語る。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

都合のいい線引きに身を委ね、問題を見ないふりする人が多い

みんなの介護 中編「“虐待の連鎖”を防ぐためには、保護者支援が欠かせない。特に要対協の対象から外れた未熟な親たちのケアは最重要」では、児童虐待とその後遺症としてのPTSDについて深刻な現状を伺いました。

田中 一言に虐待と言っても、“殴る”“蹴る”だけでなくいろいろなケースがある。割合としていちばん多いのは、心理的虐待だそうですね。つまり、言葉の暴力。当事者からしてみたら、単に説教・しつけをしているだけのつもりだったり、あるいは自分が親から言われてきた暴言を単にそのまま子どもに言っているだけなんですけれども、当事者からしたらトラウマになってしまう。これがいわゆる“虐待の連鎖”です。

あとは、“面前DV”も多いようですね。夫婦喧嘩を目の前で見ていた子どもも心的外傷が残って、ときには軽度の知的障害を引き起こしてしまったりするんです。浜松医科大学の杉山登志郎先生は「第四の発達障害」という概念を提唱されていました。

第1の発達障害は精神遅滞などの古典的発達障害と呼ばれるもの、第2は自閉症と高機能広汎性発達障害、第3はADHD(注意欠陥多動性障害)やLD(学習障害)、そして第4が、虐待による軽度の知的障害である、と先生は書かれています。そういった領域に最近、ようやく光が当てられ、“パンドラの箱”が開けられつつある、というのが今ですね。

みんなの介護 最近よく議題に上がる「どこからが“うつ病”でどこからが“甘え”か?」というテーマと同様、新たな潜在的当時者が発見されるというということは、問題の再定義が迫られるということでもありますね。

田中 例えば、累犯障がい者(※知的障害や精神障害によって、犯罪を繰り返してしまう人)たちはどうするのか、という問題。そこまで踏み込み、考慮できる余裕が今の日本社会にはあるのか?と言うと疑問です。「どこまでを障害とし、どこからを当為者とするか」というのはまさに哲学の問題で、非常に難しいところなので。

人々は普通その複雑な問題に直面したくないから、「児童虐待の問題は18歳まで」などという風に法律で決めて、その線引きに判断を委ねている方が楽なんです。本当の問題を見なくて済むから。「私の施設は対象が18歳までだから」とか「幼児だけが対象だから」と言って平気で開き直る人が多い。

その人たちの気持ちも、確かによくわかります。そういう風に割り切らないと、どこまで首を突っ込んでいいかわからなくなってしまって、キリがない。でも、そうやって自分たちに都合よく線引をしている限りは、潜在的当事者たちを救うことはできません。


16万人のニートが“ないこと”にされている

田中 特に性的虐待には、まだ制度が掬いきれていない人たちが多いです。身近な他者によって性的暴力を受けたことでPTSDを抱き、社会生活が営めなくなったのだけれども、その過去を語ること自体が彼らの心を抉ることになってしまう。“当事者は語ることができない”というのが、この問題の難しいところなんです。

みんなの介護 となると、彼らに対してはどういったケアをすればいいのでしょうか。

田中 ケースバイケースですが、本人が蓋をしている記憶にどこまで踏み込んでいくか、ぎりぎりの決断が迫られます。カウンセリングだけでは弱いですよね。制度によって“黙らされている”当事者“たちがもっと楽に生きられるように、社会システム全体にも手を入れていかなければいかないですね。

みんなの介護 社会を変えていく、というと、どういった手段があるのでしょうか?

田中 私は編集者の仕事を通じて“発信”することの重要性を学びました。歳を取るごとに、ますますそれは痛感してきています。こういうインタビューももちろんですし、Facebookやブログなどを通じて、自分の取り組みや気付きを積極的に発信するようにしています。

今は特に時代の変革期で、先ほども申し上げたように、「ニート」の定義ひとつとっても変わりつつある。少し前までは34歳までとされていたのが、最近ではサポートステーションの支援対象が39歳まで引き上げられました。

それから、制度が見えなくしてしまっているところへもアプローチしていきたい。5年前まで引きこもりの数が70万人だったのが、最近54万人になりました。見かけ上は、ニートの数が減ったように見えますが、実際はそうでない。

40歳以上のニート16万人が「39歳まで」という定義の外に漏れてしまい、カウントされないだけなんです。問題を深く知らない人には、単純にニート問題が解決しつつあると思われがち。むしろ、「ニートの高齢化」という、より深刻な問題に変化しているだけなんですよ。そういう、外からは見えづらい問題についてしっかり伝えていくことが必要だと思います。

マイノリティーを救うための制度、そこからさえ漏れてしまった彼らこそが、最大のマイノリティーである、と言えると思います。そういう意味で、私たちは行動指針として“潜在的課題への取り組み”ということも掲げています。我々の社会生活を安定させるために、“ないこと”にされている人たちがいる。しかもそれをしているのは、マジョリティーである我々なんですよ、ということに気付いてほしい。

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