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日馬富士暴行事件をめぐる週刊誌とテレビの報道はなぜこんなに違うのか

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 さて、『週刊新潮』12月7日号の記事は、その段階で敢えて「背景に八百長問題あり」という指摘を行ったという点ではタブーに踏み込んだと言えるのだが、案の定、相撲協会の反発にあった。だから、もしかするとて、その後の展開はないまま終わってしまうのではないかと思われたのだが、そうはならなかった。翌週号で『週刊文春』が参戦したからだ。1誌だけで孤立無援なのと、複数のメディアが競合するのとでは、報道する側の心理は全く違う。

 12月7日発売の『週刊文春』12月14日号は「貴乃花VS白鵬『八百長』の真実」という特集記事を大きくぶちあげた。「八百長」と敢えて見出しに謳ったところに同誌の覚悟が感じられる。

八百長問題は野球賭博問題によって2011年に社会問題化し、疑いのある力士が処分されたのだが、その中にモンゴル力士が多かった。今回、『週刊文春』は、当時、反発したモンゴル力士たちが次の場所をボイコットしかねない事態に至っていたことなどを報じ、そうした経緯が今回の事件にも影を落としていると指摘している。白鵬については、2007年、『週刊現代』が展開した八百長疑惑キャンペーンでも触れられていたが、相撲協会が起こした裁判でもその部分は審理がなされておらず、白鵬についての疑惑はまだ晴れていないというのが『週刊文春』の指摘だ。

 ちなみにその12月14日号の特集記事の中で、同誌は今回の騒動について「本当に悪いのは誰だ?」という読者アンケートの結果を公表している。1位が白鵬で36%、2位が日馬富士28%、3位が貴乃花親方15%。なかなか興味深い結果だ。

 その翌週の12月21日号で『週刊文春』『週刊新潮』がどういう記事を載せたかは前述した通りだ。同時にこの段階になると、『FLASH』なども12月26日号で「すべてはここから始まった!大混乱『日馬富士暴行障害事件』勃発の原点」と謳って「貴乃花、本誌だけに語っていた『八百長撲滅』その肉声」という記事を掲げている。暴行事件のおおもとは八百長問題だという指摘だ。

 また12月28日号でも『週刊文春』が「貴乃花vs白鵬・相撲協会 本誌しか書けない全真相」、『週刊新潮』が「『貴乃花』『白鵬』最後の死闘」と、見出しは前号より中立風だが、相撲協会批判を強めている。『週刊新潮』は「貴乃花を突き落とす『検察』『読売新聞』」という中見出しを掲げ、相撲協会で今回の事件への対応を担っている高野利雄・危機管理委員長を通じた検察人脈と、高野氏が読売グループとパイプを持っていることから、読売新聞も「貴乃花を突き落とす」側に回っているのではと分析している。但し、これも鳥取地検の検事も読売側も否定しているから真相はわからない。

 週刊誌の報道と新聞・テレビの報道がこんなふうに乖離している現実については、青木理さんも『週刊現代』12月30日号のコラムで指摘している。新聞・テレビの報道が「見事なまでにほぼ全員が相撲協会寄り」というのだ。

 週刊誌は貴乃花親方寄り、ワイドショーやスポーツ紙は相撲協会寄りというこの構図、八百長問題というタブーに関わるがゆえなのだが、最近の週刊誌の報道を読んでいると、貴乃花親方周辺の情報源を得ていることも窺える。これだけ週刊誌がキャンペーンを張っていれば、貴乃花親方の関係者は当然、週刊誌の取材に応じて情報を提供していこうという気持ちになるに違いない。一方で、相撲協会も「貴乃花親方の頑なな態度」という絵柄を意識的に報道陣に公開している感がある。ある意味でこれは、相撲協会と貴乃花親方の情報戦と言ってもよいかもしれない。

 ただ、この騒動を、週刊誌を通じて見ている人は貴乃花親方寄り、テレビで見ている人は協会寄りとなっているというこの状況は決して良いことではない。もう少し工夫ができないかと思う。特に貴乃花親方を追っかけ、マイクを突きつけるだけのテレビの報道は考え直したほうがよい。

 月刊『創』では報道被害にあった側の声をよく取り上げるのだが、かつて若貴の母親、藤田憲子さんが二子山部屋の女将だった時には、彼女の証言を何度か誌面化した。その頃、憲子さんがよく言っていたのだが、部屋を出た途端にフラッシュをたかれ、マイクを突きつけられるという状況で、自分の思いを語ることなどできるはずがないじゃないですか、というのだ。常識的に考えればこれは当然の感覚であって、大勢が寄ってたかってマイクをつきつけるという「集団的過熱取材」は真相解明にはほど遠いというのをテレビ制作者はいい加減考えるべきではないだろうか。

※Yahoo!ニュースからの転載

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