- 2017年12月27日 07:11
リニア談合、独禁法での起訴には重大な問題 ~全論点徹底解説~
3/3発注前の技術面での協力と「受注調整」
JR東海側がリニア工事の工法、施工計画等を具体化し、国交省の認可を得るまでの間に、スーパーゼネコン側が技術面の協力を行ったことが、実際の工事を受注・施工することとどのように関係するのか。
ここでの技術協力には、(A)複数の工事に共通するものと、(B)個別の工事に関するものの二つが考えられる。リニア工事の多くが、大深度の地下トンネルであり、その施工全般に共通して必要とされる技術が(A)、個々の工区の工事について自然条件等に対応して個別に必要となる技術を開発するというのが(B)である。
(A)については、発注前に共同して技術協力を行ったということであれば、開発された技術も各社が共有し、活用することが可能なはずであり、技術協力を行ったことが特定の企業の受注・施工に直接的に結びつくわけではない。一方、(B)については、その個別工事に関する個別の技術協力を行った企業以外の受注・施工が事実上困難ということであれば、技術協力を行った段階で受注・施工者は事実上確定していることになる。
実際の技術協力は、(A)(B)の両方が混在しているものと思われ、4社間の協議で(A)(B)の技術協力の実績が参考にされて、個別の工事の受注予定者が決定されていたものと思われる。そして、発注者のJR東海側は、技術提案と入札価格を総合的に評価する方法で「優先的に協議する相手先」を1者選定することにはなっているが、技術面で4社に全面的に依存している以上、技術提案の評価を適切に行うのは困難であり、4社間の決定を基本的には受け入れて相手先を選定し、協議をした上で発注していたものと考えられる。
このような形で、4社間で決定したとおりに受注者が決まっていたとしても、それが、ただちに「受注調整」と言えるかどうかは微妙である。4社間の協議決定が、前記の技術協力の実績を踏まえて、技術面から受注するに相応しい社を決定することを目的とするものだったとすると、それは単純な「受注調整」とは言い難い。
しかも、その決定に至るまでのプロセスが、リニアの計画段階からの様々な技術面での検討及び技術開発の結果を踏まえたものだとすると、リニア工事についての4社間の「基本合意」は、時効期間の5年よりずっと以前に成立していた可能性がある。 いずれにしても、「リニア工事に関する4社間の調整」というのは、これまで談合罪や独禁法での摘発の対象とされてきた、「入札での競争での価格下落を防止する」「工事や利益を配分する」という「一般的な談合」と性格が大きく異なることは明らかだ。
4社の受注額が均等であること
4社のリニア工事受注額は、概ね均等になっているようだ、それについて、「受注を分け合っている疑い」があるかのように報じられている(東京新聞12.12、毎日新聞12.24)。もし、この「均等受注」が、4社間の「合意」によるものなのであれば、リニア工事という「一定の取引分野における競争を実質的に制限する合意」に当たる可能性がある。
しかし、4社の受注が均等になっているのは、高度の技術を要するトンネル工事等について、施工体制上の制約によるものとも考えられる。リニア工事に投入できる技術者・作業員等の人的リソースには限界があり、JR東海側の要請に応じて、各社が、定められた工期までに施工可能な工事を受注した結果が概ね均等の受注額だったという可能性もある。
しかも、発注者のJR東海にとっても、高度な技術を要する工事であり、施工段階で何が起きるかわからない。もし、受注が1社に偏った場合、同社の技術に問題があった場合には、問題を克服して工期どおりに工事を完成させることは著しく困難となる。危険の分散という面からも、各社にほぼ均等に受注させたいというのは、発注者側の意向だったと考える余地もある。
準大手ゼネコンを「排除」したと言えるのか
「4社の受注調整で中心的な役割を果たした大成建設、大林組の幹部が工事を希望する複数の準大手ゼネコンを排除した」(朝日新聞12.23)というような報道もある。もし、4社が結託して、準大手以下のゼネコンの参入を阻んだとすれば、独禁法3条前段の「私的独占」に該当する余地がある。
しかし、スーパーゼネコン4社以外の準大手ゼネコンが、リニア工事に関してどの程度の受注・施工が可能だったのであろうか。バブル期までは、準大手ゼネコンも、技術開発にかなりの投資をしていたが、その後の建設不況で、準大手には技術開発に投資する余裕はなくなったため、現在では、スーパーゼネコン4社と準大手とは、技術開発能力、高度な施工技術という面では相当な差が生じていると言われている。準大手ゼネコンに南アルプスの地下を貫通する大深度のトンネルを施工する高度の技術力があるだろうか。
リニア工事の中には、一部準大手ゼネコンでも施工可能なものがあり、そのような工事について、スーパーゼネコン側から断念するように言われて断念した事実があったとすると、なぜ受注を断念したのかが重要となる。施工に必要な技術的要素に関して、準大手ゼネコンが、4社側の説明を受け入れて受注を断念したということであれば、それは、むしろ合理的な判断だと言えるが、JVの組合せ等で不利益に扱われることを恐れて断念したということであれば、不当な排除とされる余地もある。
また、政治家の介入などの不当な圧力によって、不当に受注を断念させられたということであれば、独禁法上も違法な参入排除に該当する可能性もあり、個別の入札の不正として、偽計業務妨害罪に該当する余地もある。
独禁法違反の刑事罰適用は相当に困難
以上述べたことを前提とすると、今回のリニア工事をめぐる問題で、不当な取引制限の犯罪として刑事罰を適用することは相当に困難だと言わざるを得ない。
第1に、入札談合についての不当な取引制限の罪の実行行為は、「一定の範囲の入札取引全体」について談合で受注予定者を決定することについての「全体的合意」である、そのような合意が、不当な取引制限の罪の公訴時効期間の5年以内に行われている場合に刑事罰適用が可能となる。リニア工事に関しては、4社間での合意内容も、単なる受注の配分という単純なものではなく、「技術協力」との関係や、新たに開発する技術との関係を考慮した話し合いが行われてきたものと思われ、それが、受注者が確定していったプロセスは単純ではない。そのような一連の行為の中から、「不当な取引制限の犯罪の実行行為」を特定することは極めて困難だと言わざるを得ない。
第2に、仮に、上記の「犯罪の実行行為」の特定ができたとしても、合意の当事者に「不当な取引制限」の罪についての犯意がなければ犯罪は成立しない。4社間の協議に加わっていた当事者は、おそらく、リニア工事の施工に必要な技術的事項や、技術開発についての各社の分担を協議していたに過ぎず、結果的に各工事の受注者が絞り込まれただけだという認識であろう。そのような認識の場合に、果たして犯意があると言えるのか。
第3に、不当な取引制限の罪には、「公共の利益に反して」という要件が含まれている。すでに述べてきたように、高度な技術を要する国家的プロジェクトとしての工事を実現するため、スーパーゼネコン4社の技術を結集し、最先端の技術開発を行うために不可欠な「調整」だった場合、それが「公共の利益に反して」行われたと言えるだろうか。
ということで、今回の事件を独禁法違反の犯罪として刑事罰の対象にすることは極めて困難だと言わざるを得ない。しかし、公取委の行政処分の対象とする余地はあり得ると考えられる。
公取委の行政処分の実務では、「合意の存在」の下で、個別物件について談合が行われていれば「不当な取引制限」を認定することとされ、犯罪の実行行為としての「合意」の特定は必要とされない。また、行政処分には刑事事件のように「犯意」は必要とされないし、「公共の利益に反して」という要件も、公取委の行政処分では「自由競争秩序に反すること」がそのまま「公共の利益に反する」と解釈されてきたので、実質的には違反を否定する要件とはなっていない。今回の事件も、そのような行政処分としての課徴金納付命令の対象とする余地はあるように思われる。
今後、検察・公取委、JR側はどう対応すべきか
以上のように、特捜部と公取委が合同で、独禁法違反の容疑で4社に捜索に入ったことで、大林組が課徴金減免申請を行ったと報じられ、独禁法違反による起訴の見通しが立っているかのように思われているが、実際には決してそうではない。
偽計業務妨害で捜索を受けた大林組は、公取委に、受注調整の事実を認める課徴金減免申請を行っていると報じられているが、単に個々の工事についての調整の事実を認めて申告しているだけで、「一定の取引分野における競争の実質的制限」も含めて違法性を認めているわけではないであろう。
これまでの捜査の展開から、リニア工事全体について独禁法違反の犯罪としての起訴は確実であるように認識されているが、捜査の現状は、それとはかなり異なっているのではないかと思われる。(「週刊文春」12月28日号で、「皆さんが報道するように捜査が進めば、東京地検特捜部の冤罪事件になるんじゃない?」との森本宏特捜部長のマスコミへのコメントが書かれているが、捜査の現状と報道とのギャップについての「本音」ではなかろうか。)
しかし、だからと言って、リニア工事に関するJR東海とスーパーゼネコン4社の対応に問題がなかったということではない。JR東海は株式を上場している民間企業であるが、リニア工事は、公共性が極めて高く、今後の日本社会にも重大な影響を与える国家的プロジェクトなのであるから、工事施工の計画、認可に至るプロセス、その間の技術開発面での企業の協力状況等について十分な情報公開を行うべきである。
高度な技術力を要する工事であることから、工事の企画・設計段階からスーパーゼネコン4社の協力が不可欠だったのであれば、4社によるコンソーシアムを結成させて、共同受注するという方法もあり得たはずなのに、なぜ、「競争入札」の形式がとられたのか。すべてが「闇」の中で、施工方法の検討、施工計画の具体化、発注等が進められていることが、今回、検察・公取委の合同捜査の対象とされるに至った根本的な原因だ。
リニア工事ほど巨大なものではないが、東京外郭環状道路の建設工事では、前述したように発注段階から透明な形で企業側の技術協力を求めるやり方がとられた。国発注ではないが、同様に公共性の高い工事であるリニア工事でも同様の方法をとるべきだったのではないか。
発注者であるJR東海には、発注にあたっての技術面で業者を評価する能力がなく、全面的にスーパーゼネコン4社に依存せざるを得ない実情を表に出しにくかったことが、不透明なやり方で発注が行われてきた背景にあるのかもしれない。しかし、そうであれば、そもそも、JR東海にそのような国家的プロジェクトを行う資格があるのだろうか、そもそもJR東海の工事を認可したことにも問題があったと言うべきではなかろうか。
そういう意味では、国家的プロジェクトであるリニア工事をめぐる「闇」に焦点を当て、スーパーゼネコンによる技術協力、それと工事施工契約との関係等について、私を含め国民に関心を持たせることになった今回の捜査には相応の意義があると言うべきである。
もっとも、マスコミ報道の方が異常に過熱した結果とは言え、大々的な強制捜査によって、ここまで大きな社会的影響を及ぼしてしまった以上、具体的な事件の立件・起訴が全くできなかったということでは、検察の責任が問われることになりかねない。独禁法違反の犯罪での起訴は困難であることを認識した上、JR東海側も被害申告をせざるを得ない個別工事における不正や、公取委の課徴金納付命令等の行政処分等を具体的成果とすることをめざして捜査を行っていくべきであろう。そのような捜査を、適正かつ公正に着実に行って事案の真相を解明していけば、これまですべて「闇の中」で行われてきた巨額のリニア工事への政治家の関わり、不正な金の流れ等の具体的事実を把握することができるかもしれない。
企業コンプライアンスの観点から
最後に、企業コンプライアンスの観点から、JR東海とスーパーゼネコン4社に求められることについて述べておきたい。
これらの当事者企業は、これまで「闇の中」で行われてきたリニア工事に関して、特捜・公取委の捜査に全面協力し、これまで各社の社内でリニア工事に関して何が行われてきたのか、真相解明に積極的に協力していくべきだ。それは、既に、課徴金減免申請を行っているとされる大林組に限ったことではない。
しかし、一方で、これまで述べてきた独禁法違反の成否に関する論点については、法的な主張を行うことを躊躇すべきではない。重要な論点が見過ごされ、誤った法適用が行われることになると、建設業界の将来や今後の日本の社会資本整備にも重大な禍根を残すことになりかねない。
JR東海にも、スーパーゼネコン4社にも、コンプライアンスの観点から、「事実解明には全面協力し、法的主張は徹底して行う」という姿勢が求められる。



