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リニア談合、独禁法での起訴には重大な問題 ~全論点徹底解説~

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「不当な取引制限の犯罪」とは

リニア工事でのゼネコン4社の「受注調整」「合意」等に対して立件されようとしているのは「独禁法違反の犯罪」である。独禁法は、「公正かつ自由な競争の促進」を目的とする法律であり(1条)、それを阻害する行為が違反行為とされる。その典型である「不当な取引制限(3条後段)」については「悪質・重大な事案を刑事罰適用の対象とする」というのが公取委の告発方針だ。

「不当な取引制限」というのは、事業者が、「共同行為」によって、「相互に事業活動を拘束し」、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことである。事業者間の共同行為(相互に意思を連絡すること)によって、本来各事業者の判断で自由に行われるべき事業活動が相互に拘束され、「一定の市場の競争制限が生じること」に違法行為の本質がある。

例えば、「価格(引き上げ)カルテル」だ。A製品について、シェア合計80%のX、Y、Z社が、国内のA製品の販売価格を一斉に10%引き上げる合意をして、実際に一斉値上げをした場合、「A製品の販売分野」という「一定の取引分野における競争」が実質的に制限されることになる。

この場合、「A製品引き上げの合意」が「共同行為」であり、それに基づいて「各社がA製品の値上げを一斉に通告すること」が、その「実施行為」になる。それだけで違反は成立するのであり、取引先に値上げが受け入れられるかどうかは問わないし、「価格の上昇」は、その「結果」に過ぎない。

入札談合は、なぜ「独禁法違反の犯罪」となるのか

入札談合が「不当な取引制限」に該当するとされるのも、「価格カルテル」と同様に、「一定の取引分野における競争」を制限する「合意」が行われることに本質がある。そこで違法とされるのは、個々の談合ではなく、「一定の範囲の入札取引」について「談合で受注者を決める」という「合意」だ。

例えば、全国のダム工事全体について建設業者が恒常的に談合受注を行っているという場合、(1)全国で行われる工事全体について、「話し合いによって受注者を決定する合意」が行われ(「共同行為」)、(2) その合意に基づき、実際に個別の入札で談合によって受注予定者が決定され、入札参加者が受注予定者の受注に協力すること(「実施行為」)で、違反が成立する。

「一定の取引分野における競争を制限」という要件を充たすためには、「一定の拡がりを持った入札取引全体」についての合意が必要で、個別の入札での談合の事実だけでは「拡がり」がないので「不当な取引制限」には当たらないというのが従来の実務の考え方だ。刑法の「談合罪」が、一定の目的(「公正なる価格を害する目的」等)を持って行われる「個別入札での談合」だけで犯罪に該当するのとは異なる。

過去に多くの入札談合が独禁法違反として摘発されてきたが、その多くは「最低価格入札者が自動的に落札する」という単純な方式の入札での談合だった。入札参加者間で受注予定者を決め、他の入札者が予定者より高い価格で入札すれば、発注者側の意向とは関係なく、予定者が落札することになる。価格カルテルのように、取引の相手方が値上げに応じなくても、「事業者間の合意」の通りに落札者が決まる。事業者間の合意によって確実に競争の実質的制限が生じることが「最低価格自動落札方式」での入札談合の特徴だと言える。

入札談合の独禁法違反の「犯罪の実行行為」

問題は、上記の(1)「共同行為」と(2)「実施行為」がどのような事実と証拠で認定されるかだ。公取委の「行政処分」では、(1)の合意が、いつ誰と誰の間で成立したかを特定することは必ずしも必要ではなく、事業者間に「存在」していることだけで違反が認定される。通常は、「(2)の個別の入札での談合が繰り返されていることから、『合意』が存在している」と認定される。

しかし、刑事罰の適用に関して、「不当な取引制限」を「犯罪」として捉える場合には、行政処分における違反行為のとらえ方とは異なり、「犯罪の実行行為の特定」が必要とされる。

「価格(引き上げ)カルテル」の刑事事件では、一定の取引分野における競争を実質的に制限する「価格引き上げの合意」が犯罪の実行行為とされる。「合意成立で犯罪が既遂になる」というのが判例であり、独禁法違反の入札談合でも同様に考えられてきた。つまり、「一定の範囲の入札取引全体」について談合で受注予定者を決定する「全体的合意」が不当な取引制限の「犯罪の実行行為」とされてきた。不当な取引制限の罪の公訴時効期間が5年なので、その「合意」は5年前以降に行われたものでなければ処罰の対象とならない。

少なくとも、2006年の大手ゼネコンの「談合決別宣言」以前は、日本の公共調達全体に談合が蔓延し、「非公式システム」として機能していた。このような業界の慣行として長期間にわたって継続的に行われている談合については、「全体的合意」を具体的に特定することが困難だった。一方、個別の入札での談合行為は、それだけでは「一定の取引分野における競争の実質的制限」の要件を欠くので、「不当な取引制限の犯罪」は成立しないということになる。それが、かつてゼネコン談合に対する独禁法違反の刑事罰の適用を妨げてきた最大の要因だった。

それが典型的に表れたのが、大手ゼネコン間の談合事件である「埼玉土曜会事件」だった(私が公取委出向検事として関わったこの事件での告発断念に至る経緯については、前掲【告発の正義】で詳述している)。

今回の独禁法違反の容疑は、「ゼネコン4社が東京名古屋間のリニア工事全てについて受注調整を行っていた」というものだが、問題は、犯罪の実行行為としての「合意」をどのように捉えるかだ。公取委の「行政処分」であれば、個別入札での調整が行われていることで、4社間に「合意」が存在し、合意に基づいて談合が行われている、として違反が認定されることになるだろう。

しかし、不当な取引制限の「犯罪」ととらえるためには、何らかの形でリニア工事全体についての「合意」の日時・場所・行為者が特定されなければならない。例えば、全区間の工事について4社の担当者が一同に会して協議し、全部の工事の各社への割り振りが決定されたということであれば、それはリニア工事全体という「一定の取引分野における競争」を実質的に制限する合意と言えるだろう。そのような合意が、5年前以降に行われていれば「犯罪の実行行為の特定」は問題ないことになる。

しかし、すべてのリニア工事について「話し合いで受注予定者を決定すること」について、5年以上前の合意或いは暗黙の了解があり、個別工事の発注の際に、そのような合意又は了解に基づいて4社間の話し合いで受注予定者が決定されていたに過ぎないということであれば、かつてのゼネコン談合のように、不当な取引制限の犯罪の実行行為としての「合意」の特定が困難ということになる。

高度な建設工事における「価格」と「技術」の関係

独禁法違反については、その違反行為によって競争がどのように制限されたかが明らかにされなければならない。既に述べたように、不当な取引制限という独禁法違反行為は、市場での競争を制限することに本質があるが、そこでの「競争の構造」には様々なものがある。一般的な商品の販売であれば、競争はもっぱら「価格」によって行われる。「同じ物であれば、少しでも安く買いたい」というのが取引先・消費者の意向だからである。

しかし、契約後に、工事が施工されて目的物が完成する建設工事の場合、価格だけではなく工事によって出来上がる目的物の品質が重要な要素となる。建売住宅の建設のように規格化された単純な工事であれば、業者の施工能力に問題がない限り品質に特に差はなく、競争はもっぱら価格によって行われる。しかし、工事が技術的に高度なものであればあるほど、取引の相手方の選択において「価格」だけでなく業者の「技術」や工事の「品質」が重要な要素となる。この場合は、業者側に「技術提案」を求め、技術提案の内容と価格の総合評価によって取引先を選択するという方法がとられることが多い。

高度な技術を要する工事では、施工に必要な技術開発を受注業者側に求めることになる。技術開発が発注後に行われるのであれば、その「技術」を開発する能力を評価して業者を選定することになる。

リニアのような鉄道建設工事がまさにそうであるように、施工方法や用いる工法等を具体化し、監督官庁の認可を受けなければならない場合は発注者が認可申請を行う前に、相応の技術的対応が必要となるが、それは受注業者側に全面的に依存せざるを得ない。その場合に問題になるのは、発注前の技術面の協力を、工事の発注先の選定においてどのように考慮し、反映させるかである。

受注業者側が発注者側の要請に応じて多額のコストをかけて技術協力を行った場合、何らかの形でそのコストが回収できなければ協力を行う業者はいなくなる。発注者にとっても、技術面から「実際の工事も技術を開発した業者が受注施工させるのが合理的」ということになる。この場合、事前の協力は、「技術提案の評価」という形で反映されることになる。このような場合は、発注に当たって、価格競争で受注を奪い合う余地はほとんどない。

さらに難しいのは、施工に必要な技術の開発が単独の企業だけでは困難で、トップレベルの技術を有する複数の企業が共同で技術開発を行わなければ施工できない場合である。

発注者側の要請に応じて、複数の企業が共同で開発した高度の技術を用いて施工する場合、その施工をどのように分担するかを、工法や技術についての専門知識を持たない発注者が判断することには限界がある。「共同で技術開発した企業側の決定に委ねた方が合理的」ということになり、この場合も、受注をめぐって競争が行われる余地はほとんどない。

このような工事の場合、施工した際に、自然条件等に応じて、新たに技術開発を行い、設計変更や追加工事の発注を行うことが必要となるので、発注の段階で工事にかかる費用全体を正確に想定することはできない。むしろ、総費用を低減する上では設計変更や追加工事による価格変更を合理的に行うことの方が重要だと言える。そういう意味では、工事の内容が発注段階で確定しており、入札で競争させることがそのまま工事のコスト抑制につながる一般の工事とは異なる。そういう意味では、「競争による価格形成」自体に限界がある。

受注をめぐる競争という面では、独禁法の目的には反するが、高度な技術開発を要する工事の場合には、工事の特性からはやむを得ないものと言える。

施工に必要な高度な技術が開発され、多くの企業が共同で取り組んだ結果完成した工事の代表的なものが、三船敏郎、石原裕次郎主演の映画「黒部の太陽」でも描かれた黒部第4ダムの建設である。当時、関西地方が深刻な電力不足によって復興の遅れと慢性的な計画停電が続き、深刻な社会問題となっていたのに対して、決定的な打開策として関西電力が決断したのが、黒部第4ダム建設であった。当時の日本の土木技術の粋を集めて施工され、186名もの殉職者を出して完成するに至った「黒四ダム」は戦後日本の復興・高度経済成長に大きく貢献した。

このような国家的プロジェクトを遂行するためには、建設業界を挙げての全面的なコラボレーションが不可欠だった。そこでは、独禁法が目的とする「競争」を持ち出される余地はない。

最近の例でも、「東京外かく環状道路(関越~東名間)」に関しては、わが国ではじめて大深度地下領域を全面的に活用し、本線トンネルは全長約16キロ、片側3車線の大断面・長大トンネルであるであることなど、従来の技術では対応できない高度な工事であったため、国交省が、学識経験者、関係機関による検討委員会を設置し、スーパーゼネコン等も協力して工法の検討が行われた。新たな技術開発が必要な工事において「競争」より「共同」が重要となるものもあることは否定できない。

リニア工事で必要とされる高度な技術

今回問題になっている東京―名古屋間のリニア工事も、まさに高度な技術開発を要する工事の典型である。

路線となる東京―名古屋間の9割程度に上る約246キロメートルが南アルプスの地下を貫通するトンネルとなり、最深部は地表から1400メートル。従来のトンネルとは比較にならない程の距離のトンネルもあり、また、東京・名古屋の駅周辺の路線では大深度地下トンネル工事が行われるなど、前述の黒四ダムの工事と同様に、日本の土木建設技術の粋を結集して施工される工事と言っても過言ではない。

このような工事について、民間企業であるJR東海が発注を行うのであるが、その方式として、「総合評価方式」を併用する「公募競争見積方式」がとられているようだ。

【リニア初の大深度トンネル発注へ、東京と愛知で】(日経コンストラクション11月10日号)によれば、まず、国の公共工事でも行われている「総合評価落札方式」と同様に、技術提案と入札価格を総合的に評価する方法で「優先的に協議する相手先」を1者選定し、その相手先業者との協議(交渉)によって、工事の内容、工期、必要な費用等を決定する。そして、それらの契約内容が固まった段階で、その内容を他の業者に公開する「公募」を行い、「優先的に協議する相手先」より有利な条件を提示する業者がないかどうかを確認する。そのようなプロセスを経て、最終的に契約内容を確定して契約するという方式がとられているようだ。

リニア工事の中でも、南アルプスの地下を貫通する超長距離のトンネル工事などは、火山活動の影響等による工事の障害が生じることも想定されるし、東海地震の発生にも耐えられる構造が確保される必要がある。また、大深度地下トンネルの工事も、施工する地中の状況に不確定な面がないとは言えない。

このような超高難度の工事について、JR東海が工法、施工計画等を具体化し、国交省の認可を得るところまで、「独力」で行えたとは考えられない。JR東海側は、その経過について一切情報を公開していないが、最先端の土木技術を持つスーパーゼネコン4社が技術面で協力したことで、国交省の認可を受けることが可能になったものと考えられる。そのような工事発注前の技術協力は、発注の際にも、受注業者の選定に大きな影響を与えたはずである。

そこで問題になるのが、上記のように、リニア工事が高度の技術を要する特殊な工事であることが、4社間での「受注調整」についての独禁法違反の成否にどのような影響を与えるかである。

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