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続・ギャンブル場からの家族排除制度は本当に大丈夫か?

本エントリは昨日のエントリの続きです。未読の方はそちらからどうぞ(→リンク)。

本題に入る前に、まずもって私自身のスタンスを明確にしておくと、私はカジノ業の人間としてギャンブル依存対策を推進してきた立場であって、各関連業界でその対策が進むこと自体は喜ばしいことだと考えています。一方で、現在各業界で行われている対策論議があまりにも「おざなり」というか、カジノ合法化論議の流れの中で「やりなさい」と言われたから渋々やってます的な各所の対応に呆れているわけです。例えば、しんぶん赤旗が先週報じた以下の記事。
競馬場のATM銀行カードローン 野放し廃止はクレジット会社のみ 「借金で馬券」歯止めかからずhttp://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2017-12-18/2017121815_01_1.html

今年8月のギャンブル等依存症対策推進閣僚会議において実施が明言されていた競馬場設置ATMのキャッシング機能の停止に関して、クレジットカード会社の提供するキャッシング機能は廃止したものの、銀行カードローンの融資機能はそのまま放置されていた、と。この辺の重箱のつつき方は流石赤旗(笑)というべきですが、JRAによるコメントがまた酷い。
JRA報道室の話 政府の関係閣僚会議の指摘はクレジットカードによるキャッシングサービスだけを問題にしており、銀行カードローンについては具体的に言及されていないことから、特段の手だてをとらなかった。今後どうするかは決めていない。
政府会議で指摘されていないので対処しませんでした、と。あの政府指針の本旨を鑑みれば、別にクレジットカードだけを問題視しているわけじゃないってことは判るでしょう。どこの子供の言い訳ですか(笑

そもそも公営競技業界は、ついこの間まで「公営競技には依存問題はない」などと公言してきており、IR推進法の成立と依存対策論議の高まりを受けてついに「これは逃げ切れん」と判断した以降、急に「実は私達も従前から依存対策はやっていまして(テヘペロ」とか言い出したのが象徴しているように、彼らは根源的にこの問題を「カジノのせいで…」としか思ってないわけで、その対処に非常に後ろ向きなわけです。

そしてその「言われたからやりました(言われた事しかやりません)」的ないい加減な取り組み姿勢の局地として現れたのが、昨日のエントリで述べた圧倒的な論議不足の家族排除制度の実施であるわけです。例えば、今回発表された中央競馬における家族排除プログラムに関して以下のような文書が政府会合の中で提出されているわけです。
家族申請によるネット投票の利用停止について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gambling_addiction/kanjikai_dai4/siryou3.pdf

< 家族申請によるネット投票の利用停止の概要 >
1.対象となる会員
○ 医師からギャンブル障害の診断を受けている会員
○ 医師の診断は受けていないが、外形的にギャンブル障害の状況にあるお それがあると認められるものとして、ネット投票での勝馬投票券の購入 金額が、家計の経済状況等に照らして、本人と家族の生活維持に重要な 影響を及ぼしている蓋然性が高いと判断される会員 等

2.申請できる家族
○ 会員本人と同居している親族(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)
会員本人と同居している親族が申請主体となった場合「医師からギャンブル障害の診断を受けている」ことを客観基準として特定の顧客のネット馬券購買を排除するのは妥当でしょう。ところがJRAは医師の診断がない場合においても、「ネット投票での勝馬投票券の購入金額が、家計の経済状況等に照らして、本人と家族の生活維持に重要な 影響を及ぼしている蓋然性が高いと判断される」場合には排除対象とする方針を示しているわけです。

ただちょっと待ってください、と。公営競技の施行主体は文字通り、国(中央競馬)もしくは地方自治体(その他の公営競技)であるわけですが、家族からの申請を前提としているとはいえ、そういう公的主体が何らかの基準を設け、特定人物の経済状況を加味しながら能動的にその人物がギャンブルをするのに相応しいかどうかを判断するということですか? その基準というのは一体何なんでしょう?生活保護の受給ですか?裁判所による破産宣告ですか?それとも多重債務があるという事実ですか?それとも貸金業法の総量規制のように所得による上限でも定めますか?

…と、今回JRAは家族排除の文脈の中でこの施策の実施を発表していますが、実は現在、彼らが主張している施策の内容は単純な家族の申請に基づいて特定人物をギャンブルサービスから排除する「家族排除」だけではなく、公的主体が何らかの判断基準を設けた上で特定人物のギャンブル利用の可否を判断するという「第三者排除」の領域にまで半分踏み込んでしまっているわけです。各公営競技の所管官庁はこれを「事業者による契約の自由の範疇」だと主張していますが、JRAも含めて特に公営競技の施行主体は国および地方自治体なのであって、それは実質的に国や自治体がギャンブルをして良い人と悪い人を何らかの基準をもって選別するということに他ならないわけで、民間事業でいう所の「契約の自由」とは質的に全く異なる論議となるわけです。実はこの辺の話というのは、私自身はカジノ業界側で幾度となく行ってきています。

そして、今回発表された排除制度の最大の問題点は、これら施策を法令事項ではなく「運用」の中で決めようとしてしまっていることであります。実は国や自治体が何らかの基準をもって特定人物の公営競技への参加を防止しようとする施策は、2013年の兵庫県小野市による生活保護受給者の見守り条例など、幾つかの事例が存在します。
【参照】生活保護受給者にギャンブルする権利が有るか?
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7750136.htm
ただ先のエントリでも述べたとおり、この種の問題はその施策の拡充を求める社会的要請が存在する一方で、全ての国民に保証される基本的人権(経済的自由権)との兼ね合いが確実に存在する分野です。このような多層的な論議が必要な施策を政府が主導し、特に公営競技においては施行主体が必然的に国および地方自治体にならざるを得ない中で、法令上の根拠を求めず運用だけでこれら施策が実施される。このような施策の進め方は、かねてより排除制度の推進派として動いてきた私ですら「ちょっと怖いな」と思ってしまうのが正直なところ。

この辺りは、おそらく来年の通常国会で始まるギャンブル等依存症対策基本法の審議の中で、それこそ共産党あたりがヒステリックに突っ込んでくる案件になるのは予想に難くないワケですが、そういったある意味で「常識的な」施策遂行の判断すらも出来なくなってしまっている各関係省庁における現行の依存対策には、個人的に本当に残念で仕方がありません。

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