記事

【読書感想】藝人春秋2(上・下)

2/2

 もちろん、破天荒な芸人たちの伝説も収録されています。
 武井荘さんと寺門ジモンさんの直接対決は読み応え十分です。

 最後に行われた観客との質疑応答タイムにも見せ場があった。
「災害が起きた時の危険回避法は?」という質問に対して、「それは簡単!」とジモンが即答。
「それには普段からの人脈作りが大事なんだよ! まず天変地異の兆候は、築地に知り合いを作っておくのが一番早いから。そこから魚の水揚げ量の変化を常日頃聞いておくこと!」
 いきなり普通の人にはハードルが高い。
「あと、自衛隊幹部と知り合いになれば、非常時に事前情報が得られるはずだよ!」
 と、ご家庭では簡単に真似できない対処法を客席に投げ返した。

 しかし、ここでもスマイリーキクチが割って入る。
「ちょっと説明を加えますが、それウソじゃないんです。本当にジモンさんが日頃からやっていることなんですよ」
 なんでも、スマイリーが自衛隊官舎近くに住んでいた頃、ジモンから「毎朝、官舎の様子を見てこい!」と頻繁に偵察指令が下されたらしく、その面倒さに大迷惑していたと事実を裏付ける証言がなされた。

 すると「それが何か?」とでも言いたげな表情でジモンが平然と続ける。
「いいかい? じゃあ今日はライブだからもっと良い方法を教えてあげようか? 日本国の最高権力者である総理大臣が官邸にいるか、首都圏を離れたか、総理の居場所を把握して非常時を判断するの! ホントだよ。だから俺は、番組で知り合った小泉総理の息子の小泉孝太郎くんに電話番号を聞き出して、その後、さりげなく彼に電話して、世間話のフリをしながら、毎日、父親の行動を確認するの!」

 百獣の王たるものライオン総理の動静を知るべし、というわけか……。
 衝撃的かつ全く無意味な、最高権力者へのストーカー行為を告白して、この日は散会となった。

 これ、ヤバい人だよ……
 こんな話を聞くと、いろいろ批判もされるけれど、一国の総理大臣っていうのは大変だな……と思うのです。こういう人は、ジモンさんだけじゃないでしょうし。
 小泉孝太郎さんも、自分の親のこととはいえ、大変だよね……ちゃんと教えていたのだろうか。

 この『藝人春秋』、芸能界の面白おかしいエピソードを採りあげただけの本ではなくて、これまでオフレコにされていたことを明らかにしたり、みんながなんとなく信じていた「通説」を、博士自身が取材をしたり、資料にあたったりして検証しているんですよね。

 水道橋博士自身のコメンテーター降板事件や、やしきたかじんさんの『殉愛』騒動の背景にあったもの、石原慎太郎さんと三浦雄一郎さんの間に起こった「ある事件」について、三浦さん本人に直接確認した話は、本当にすごかった。
 その件に関する事実だけではなくて、人というものの「思い込み」や「誤解」「真実が失われている過程」について、考えさせられました。
 本人に対して、ど真ん中に直球を投げれば、ちゃんと受け止めてくれるのに、みんな「忖度」して、あたってみることもしないまま、わかったようにふるまっていたのだよなあ。

 こういう「徹底したジャーナリズム精神」が、水道橋博士の凄さなのだけれど、うまく手が抜けないキツさもあったはずです。

 江口寿史先生の挿絵もすごかった。
 藤圭子さん、しばらく目が離せませんでした。

 水道橋博士は、32歳のとき、「芸人として実績もないまま、評論家のように『芸』について文章を書く」ことに疑問を持っていて、それを立川談志さんに相談したことがあったそうです。

「ワタシがねー、『現代落語論』を書いたのは20代ですからねー」
 そう言うと、数秒、間を置いて頭上を見上げた。
 そして、自らが問いかけ自らが答える、いつもの談志口調でこう言った。
「ンーー、芸人が話すだけでなく本を書く……。それは全部、言い訳なんです。芸人は己の芸だけでは気が済まない。言い訳したいんだ。言い訳したいから話すんだ。話すだけでは収まらないから記すんですなー。そんなことは、全部自分が欲するからやってんだ。自分が好きでやってることなのに、なんで人の評判を気にかける? 他人は関係ない。自分のことは自分で認めてやればいいんだ。芸人なんてえのは、自分の好みになるのが一番いいんです!」

 その瞬間、長くまとわりついていた心の澱が流れ、「芸人が書く」ということに対する躊躇いが自分の中でハッキリと吹っ切れるのを感じた。
「ワタシがねー、いつも言うんですけどね、芸には完成はない。その芸人のプロセスが芸である。だからブレようが、昔と言っていることが違おうが、その変化もしれはそれでイイんです。書くことだって同じでしょう。同じテーマを与えられても全く同じことを何度も書かないでしょう」
 ボクは沈黙しながらも、心の中で深く頷いていた。

 芸能人や芸人、政治家など「別世界にいる人」の真似できないような武勇伝を面白おかしく書いたもの、のはずなのだけれど、僕は落ち込んでいるときにこの本を読んで、なんだか元気が出てきたんですよ。
 ああ、いろんなしがらみとか面倒くさいことがあるけれど、人間って、「自由に生きる」こともできるんだな、って。

 「自由に生きる」「自分らしく生きる」って言いながら、実際にやっていることは出会い系サイトや投資や仮想通貨の宣伝で、セミナーにファンを集めて、「私みたいになりたいでしょ」とお金を貢がせる人がいる。そんなニセモノの「自由主義者」に引きずられる前に、この本を読んでみてほしい。

  芸能界には、いろんな変わった人がいるし、独特のルールもあるけれど、「社会」のなかでは生きづらそうな人たちが、自分の人生や命を担保にしながら、「自由」に生きている。
 自由には責任が伴う。
 でも、逆に考えれば、責任をとる覚悟があれば、人は案外、自由になれる。

 寺沢武一さんのマンガ『コブラ』に、僕が大好きなセリフがあるんです。
 この本を読みながら、何度もこれが頭に浮かんできました。

「死ぬのは、たった一度だぜ」

合本 お笑い 男の星座 芸能私闘編・私情最強編【文春e-Books】 合本 お笑い 男の星座 芸能私闘編・私情最強編【文春e-Books】

赤めだか (扶桑社BOOKS文庫)赤めだか (扶桑社BOOKS文庫)

あわせて読みたい

「お笑い芸人」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。