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外相専用機導入を見切り発車してはならない~「中古で小さくていい」は全くの素人的発想で実は非効率~ - 織田邦男

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 仮に外相専用機を導入するとして、これまでのように、他部隊から貴重な人員を割いて充当するようなやり方では、戦力の弱体化につながることは間違いない。空自による外相専用機の運営は、現状の予算制度では「戦力の弱体化」をとるか「外相の便利さ」をとるかという究極の選択となる。

 自衛官は文句を言わないし、発言の自由もない。だから困った時の「自衛隊頼み」「便利屋扱い」が多い。災害派遣でも「緊急性、公共性、代替性」の原則があるにも関わらず、「ごみの片づけ」までやらされてきた。現場部隊は「無理筋」でも、文句言わず引き受けてきた。だが、これだけ国際情勢がひっ迫してくると、そうは言っていられない。そろそろ自衛官も「できないことは、できない」と正直に言った方が国の為だ。

 後ろ向きの話ばかりしても、話は進まない。河野外相が言われるのも分かるので、小生の経験から「ではどうするか」を提案してみたい。まずは民間機のチャーターである。チャーター機の値段は大型機でも1回3千万円程度である。保有機種以外の専用機を保有した場合、自衛官の教育訓練費、整備維持経費、人件費を全てカウントすれば、軽く1回3千万円は突破する。自衛隊の場合、人件費や教育訓練費が防衛費全体の中に隠れ、表に出ないから安価に見えるだけである。だから安易な「自衛隊にお願い」が多い。だがこれは大いな間違いである。

 次に現在の政府専用機を有効に活用する方法がある。現在、政府専用機の使用については、自衛隊法第百条の五「国賓等の輸送」に規定されている。そして「国賓等」の範囲は施行令で「天皇及び皇族、国賓に準ずる賓客」そして「三権の長と国務大臣」となっている。「国務大臣」については、「ただし、重要な用務の遂行のため特に必要があると認められる場合に限る」と規定されている。この但し書きがハードルとなって、外務大臣と言へえども自由に使用はできない。となれば、これを改正する必要がある。

 改正しても問題は残る。安倍晋三総理大臣も「地球を俯瞰する外交」で政府専用機はフル回転している。外相が利用するにも、スケジュールが重なって、2機体制という現状では事実上困難であろう。であれば、政府専用機を買い足せばいい。もちろん、それに伴う操縦者や乗員、整備員を増やし、整備維持費等も増加させることは前提だ。2機体制を4機体制にしても人員を2倍にする必要はない。既にその運用基盤があるからだ。

 保有機以外の飛行機を買って運用するより、同型機を買い足した方が、操縦者や乗員、整備員の訓練や整備維持費は格段に安くつく。同型航空機であれば、乗員や整備員の「人の回し」が効くし柔軟な運用が可能になる。効率的である分、最小限の増員に留めることができれば、何より防衛力低下への影響を局限できる。

 「小さくてよい。中古でも構わない」と河野外相は述べた。だが、実はこれが最も非効率なのである。つまり保有機種とは違う飛行機を少数機数保有する場合、全く訓練も別であり、操縦者に互換性はなく、整備体系も全く異なるため、非効率極まりない。「小さい」とか「少数」というのは、一見もっともらしく聞こえるが、実際には効率性とは真逆であることは知ってもらわねばならない。

 幸いにも今、政府専用機をジャンボ機からB777に更新時期を迎えている。この時期に合わせ、2機体制を4機体制にして、所要の増員や予算を確保し、政令を改正して「外務大臣」が公務に使えるようにすれば、空自の戦力ダウンも最小限にとどめることができるだろう。もちろん天皇皇后両陛下の御外遊や、総理の歴訪スケジュールが優先されるだろうが、その時こそ、外務大臣はチャーター便を活用すればいい。

 最後に政府専用機を導入した経緯についても触れておかねばならないだろう。1985年のイラン・イラク戦争の際、テヘランに邦人216人が取り残された。各国は軍隊を派遣して自国民を救出したが、日本政府は自衛隊を派遣する根拠法令もなければ、長距離輸送機も保有していなかった。

 そこで政府は航空会社に臨時便を要請したが、労働組合によって拒否された。まさに万事休すだったところ、トルコ航空が1890年のエルトゥールル号沈没事件で日本人によって多くのトルコ人が助けられた恩返しとして立ち上がってくれて事なきを得た。

 これを教訓として1987年、政府は政府専用機2機の導入を閣議決定した。話は逸れるが、その後制定された現行法令では、いざという時「邦人輸送」は機能しない。この問題は「有事の際、海外の邦人救出はしなくて本当にいいのか」(2015年3月18日)に書いたので省略するが、御一読いただければ幸いである。

 いずれにしろ、政府専用機の本来の目的は「邦人救出」することである。我々はこの原点を忘れてはならない。外相専用機であれ何であれ、貴重な税金を使うのであれば、いざという時、日本人を救えるものでなければならない。「20人乗りであればいい。(米国の)東海岸まで給油なしで行ける」「小さくても中古でもいい」「1機でいい」というのは枝葉末節で的外れである。根底には先ず「邦人救出」があるべきであり、それを平時の何も支障が無い時には使用するという認識が必要だろう。でなければ「おねだり」と言われてもしようがない。

 米国も国務長官専用機は空軍が運用している。だから空自が運用すべきだという人もいる。だが10倍以上の国防予算の米軍と同列には扱ってはならない。

 また外務省が、もし外相専用機購入の予算要求さえすれば、あとは防衛省、自衛隊が何とかしてくれるなどと安易に考えているならば無責任に過ぎる。十分な検討もなされずに、政治主導で見切り発車すれば、致命的に空自戦力の低下をきたす懼れが十分にある。

 外相専用機導入の必要性は良く分る。だが「ベター」であり、「マスト」ではない。「自衛隊戦力維持」は国家の「マスト」である。この視点を見失わずに、しっかりと検討した上で結論を出してもらいたい。

平成29年12月25日付JBpressより転載)
織田 邦男 Kunio Orita 元・空将
1974年、防衛大学校卒業、航空自衛隊入隊、F4戦闘機パイロットなどを経て83年、米国の空軍大学へ留学。90年、第301飛行隊長、92年米スタンフォード大学客員研究員、99年第6航空団司令などを経て、2005年空将、2006年航空支援集団司令官(イラク派遣航空部指揮官)、2009年に航空自衛隊退職。

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