記事

崩壊寸前の地域医療 福島県大町病院の場合

2/2

画像を見る
(写真)尾崎章彦医師と山本佳奈医師 東大医科学研究所の研究室にて ©上昌広

彼は、南相馬市で地域医療に従事する傍ら、多くの医学論文を発表し、日本の医学界が注目する若手医師となったhttps://career.m3.com/contents/lab/akihiko_ozaki.html?utm_source=google&utm_medium=cpc&utm_campaign=sem_adpcareer__cmr_dr-lab_cv9000089_20170703

大町病院の窮状を見た彼は「誰かが行かねばならない」と言い、南相馬市立総合病院に辞表を提出した。1月から大町病院で働く。大町病院には尾崎医師と同年配の外科医がいる。慈恵医大の医局から派遣された医師だ。

猪又院長によれば「手術は月に4件程度」で、外科医として十分な経験は積めない。車で一時間程度のところに、仙台厚生病院、宮城県立がんセンターなどの全国的に有名ながん専門病院、さらに東北大学、福島県立医大がある。胃がんや乳がんなどの患者は、このような病院に行ってしまう。外科の修練を積むという意味では、大町病院に赴任することは、尾崎医師にとってデメリットにしかならない。

なぜ、彼は大町病院に赴任するのだろうか。それは、医師としての義務感に加え、崩壊の瀬戸際にある地方病院に勤務することで、得がたい経験を積み成長することができるからだ。

2016年末、福島県広野町の唯一の病院である高野病院で、たった一人の常勤医である院長が亡くなった。この時、『高野病院を支援する会』を立ち上げ、事務局長に就いた。自らも非常勤医師として診療に従事した。その後の活躍はメディア報道の通りだ。彼自身、体験記を公開している(http://www.huffingtonpost.jp/akihiko-ozaki/takano-hospital-and-fukushima-prefecture_b_14277516.html)(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48855)。

その後、自らの専門領域である乳がんの臨床研究不正では、中外製薬や乳癌業界の重鎮を相手に、たった一人で問題を社会に問うた(https://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/20171202-00078706/)。その勇気に敬意を表したい。一連の活動を通じて、彼は成長した。視野が拡がり、腹が据わった。

私は、尾崎医師に乳がん領域に拘らず、世界をリードする医師に成長してもらいたいと願っている。今回の件で相談を受けたときには、「病院マネジメントとは何か、地域医療とは何か、間近でみることが出来る貴重な機会だ。是非、飛び込めば」と勧めた。彼は、すでに決心していたのだろう。「外科に拘りません。内科でも事務でも雑巾がけでもなんでもします」と言ってきた。私は、彼の覚悟を猪又院長に伝えた。

大町病院の危機では、厚労省も福島県も何の役にも立っていない。飛び込んだのは山本・藤岡・尾崎という3名の若手医師だった。彼らに、このような行動を取らせたのは、南相馬という地域に対する愛着、住民への感謝、さらに苦境をともに乗り越えてきたという仲間意識だ。

最近、医師偏在を是正するために、厚労省は医師の計画配置を準備している。都道府県および日本専門医機構と連携し、専門医の研修病院の定員を決めることで、医師偏在や診療科の偏在を是正すると主張してきた。来春から開始予定だ。

12月15日、日本専門医機構が、一次募集の内定状況を公開した。この結果を仙台厚生病院の齋藤宏章医師、遠藤希之医師が分析した。その結果は凄まじいものだった。

画像を見る
(図3:新専門医制度が診療科偏在に与えた影響 2018年度と2014年度の各診療科の希望者を比較)

厚労省や日本専門医機構の思惑とは反対に、診療科の偏在が加速した。内科医が激減し、麻酔科・眼科などが増加したのだ。

さらに、地域偏在も悪化した。全ての診療科で東京一極集中が加速したのだ。図4は内科の状況だ。2014年度と比較して、東京は77人も増えた。医師不足に苦しむ東京近郊の千葉、埼玉は激減した。

画像を見る
(図4:新専門医制度が内科の地域偏在に与えた影響 2018年度と2014年度を比較)

ちなみに、来年度、福島県内で内科専門医を目指すのはわずか20人。東京(527人)の26分の1だ。この状況が続けば、福島の地域医療は崩壊する。

このような状況の中、大町病院は何とか診療が継続されている。大町病院の経験は示唆に富む。地域医療を守るのは志のある若者だ。厚労省や都道府県、大学医局に依存しても何も解決しなかった。地域医療を守りたければ、当事者が本気で考えねばならない。

あわせて読みたい

「医療」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。