- 2017年12月24日 16:05
プーチンより毒をこめて:国連総会「エルサレムの地位変更無効決議」にみるトランプ政権の「負け勝負」
2/2「トロフィー」と石油
ただでさえロシアは中東一帯での存在感を高めています。特にシリア内戦では、「イスラーム国」(IS)が支配していた要衝アレッポを2016年12月、ロシア軍とシリア政府軍が制圧。さらに2017年6月、ロシア軍はIS指導者のバグダディ容疑者をシリアにおける空爆で殺害したと発表しました。
これに対して、米国のマティス国防長官は「バグダディが死亡したという証拠がない」、「証拠が確認されるまで生存していると想定して追跡する」と強調。しかし、12月12日にロシア軍がシリアから撤退し始めたことで、シリアにおける「IS掃討のトロフィー」の大部分をロシアがもっていることが既成事実となりました。
これに加えて、米国の伝統的な友好国でもあるサウジアラビアにもロシアは接近。2017年5月、ロシア最大の石油企業ロスネフチとサウジ最大の石油企業サウジ・アラムコの、それぞれの最高経営責任者(CEO)がサウジで会談。両者は石油の協調減産について合意したと伝えられています。
シェールオイル生産を加速させ、世界最大の石油輸出国になりつつある米国は、石油輸出国機構(OPEC)加盟国中最大の産油量をもつサウジと、非OPEC国中最大の輸出国ロシアのいずれにとっても「脅威」です。ロシアとサウジの歴史的な急接近は、サウジなど伝統的な友好国との関係を重視するトランプ政権の焦燥をさらに煽るものだったといえます。
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全ての道はエルサレムに通ず
冷戦終結後の米国一極体制を打破し、グローバルなゲームチェンジを目指すロシアの「西パレスチナ首都承認」がトランプ政権に及ぼした影響は大きなものでした。
米国の有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルは5月14日、「ロシアはエルサレムをイスラエルの首都と認定。なぜ米国はできないのか?」と題するノースウェスタン大学教授ユージン・コントロビッチのコラムを掲載。名前からしてロシア系の同教授はイスラエル批判に対する反対者としても有名で、イスラエルのシンクタンク、コヘレト政策フォーラムの研究員でもあります(コヘレトは旧約聖書に記されている知恵者の名)。このコラムでコントロビッチは、遅れを取り戻すためには米国が東部を含む統一エルサレムをイスラエルの首都と認定するべきと主張しています。
「エルサレムでの大使館開設をめぐる米ロのレース」は、その後のイスラエルとの関係を左右すると目されるだけに、ユダヤ人やキリスト教右派の支持を当てにするトランプ氏が、これに敏感になったとしても不思議ではありません。
ただし、それはトランプ政権にとって「負け勝負」に突っ込む一押しであったと同時に、ロシアにとっては「どのように転んでもマイナスのない勝負」への一手だったといえます。

仮にトランプ政権が無反応を決め込んだ場合、ロシアは「西エルサレムに初めて大使館を開設した国」としてイスラエルとの関係を強化でき、中東一帯における米国の戦略に大きなクサビを打ち込めます。逆に、トランプ政権が焦って「東西エルサレムをイスラエルの首都」とみなした場合、国際的に信頼を損なうことは目に見えています(そして、実際そのようになりました)。これはロシアにとって「負けない一手」だったといえます。
トランプ大統領が「米国大使館のエルサレム移転」を発表した12月5日、プーチン大統領は早々にパレスチナ自治政府のアッバス議長と電話で会談。「米国の一方的な行動」を非難したうえで、イスラエル-パレスチナの対話に協力すると伝えています。これは「米国とロシアは違う」ことを強調するもので、少なくとも「西エルサレム」のみをイスラエルの首都と認めていたロシアの外交的マイナスはほぼゼロです。
グローバル・ゲームは続く
こうしてみたとき、今回のゲームの敗者の筆頭が米国であることと同じくらい、その勝者に長年の悲願の一つが達成されたイスラエルや、これをテコに中東一帯での影響力を伸ばそうとするトルコとともに、ロシアが含まれることは確かといえるでしょう。
トランプ大統領の就任以来、世界はそれまでにも増して大きく揺れ動いてきました。エルサレム問題は、北朝鮮問題とともに、その象徴といえるかもしれません。トランプ・ワールドでは何が発生するかを予測することさえ困難です。
しかし、一つ確かなことは、トランプ政権が少なくともあと3年は存続するということです。言い換えるなら、その間グローバル・ゲームは激しさを増すものとみられます。従来の秩序が揺れ動くなか、各国はこれまで以上に、自国の行方を注視せざるを得なくなります。
今回の国連総会決議で、日本はほとんどのヨーロッパ諸国やイスラーム諸国、多くの開発途上国とともに、「首都認定無効」に賛成票を投じました。12月10日、アラブ首長国連邦を訪問していた河野外相がトランプ大統領による決定を非難することを避け、むしろ「トランプ大統領の中東和平への尽力を賞賛する」と伝えた一方で「中東の安定に貢献する意思」を示すという迷走をみせていたものの、最終的に日本が米国の決定を追認しなかったことは、個人的にはよかったと思います。
ただし、「一人マッチポンプ」が身上のトランプ大統領のもと、手札が悪くなるにつれ、「場を荒らす」頻度があがることは十分予想されます。言い換えると、同様の事案は来年以降も続くとみられるのです。その意味で、トランプ政権が日本にとっても試練をもたらし続けることは確かといえるでしょう。
※Yahoo!ニュースからの転載- 六辻彰二/MUTSUJI Shoji
- 国際政治学者



