- 2017年12月24日 16:05
プーチンより毒をこめて:国連総会「エルサレムの地位変更無効決議」にみるトランプ政権の「負け勝負」
1/212月21日に国連の緊急総会で行われた決議で、エルサレムをイスラエルの首都と認める米国トランプ政権の決定が無効であることを193ヵ国中128ヵ国が支持しました。
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約3分の2の加盟国の反対は、トランプ外交の大きな失点。国連で米国が孤立する様相は、2003年に国連安保理でイラク侵攻への反対が相次いだことを想起させます。

「超大国」とは単純な大国と異なり、大きな軍事力、経済力をもつだけでなく、世界全体の秩序を生み出す国にのみ冠される言葉です。その意味で、トランプ大統領のもとで米国はもはや「世界最大の問題児」としての様相を強めています。そして、そこにはロシアの影を見出せます。
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世界最大の問題児
エルサレムをイスラエルの首都と認定することに世界各国から批判が高まるなか、以前からトランプ大統領は「無効」決議に賛成する国への援助を減らすことを示唆してきました。さらに決議での「敗北」を受けて、米国のヘイリー国連大使は国連への拠出金の削減にまで言及しています。
とはいえ、実際に開発途上国への援助を削減することにはリスクもあります。
世界銀行の統計によると、2015年度の米国の政府開発援助(ODA)は約266億ドルで、世界一。その規模は、西側先進国の援助額全体(約1077億ドル)の約25パーセントを占めます。その最大の援助国である米国が援助を削減すれば、開発途上国とりわけ貧困国にとって大きな圧力になることは確かです。それはトランプ政権にとって、自分に従おうとしない者への一種の「制裁」といえます。
しかし、その影響が大きいが故に、仮にトランプ政権が実際に援助を削減すれば、それ以外の国、特に中国がこれまで以上にこの分野で存在感を高めることになり得ます。

中国はアフリカなど貧困地帯向けの援助で急速に台頭しており、その資金協力は純粋な「援助」というより「投資」や「融資」が中心です。それでも2013年段階で、例えばアフリカ向けだけで中国の融資は約100億ドルにのぼり、これは日米をはじめとする西側先進国や世界銀行などの国際機関を上回る規模です。
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つまり、米国だけが援助国でない以上、いかにもワンマン社長らしく実際に援助を停止すれば、貧困国の間で「札束で顔をひっぱたこうとする傍若無人な金持ち」としてのイメージが定着するだけでなく、これまで以上に開発途上国が中国になびく可能性が大きいのです。国連加盟国193ヵ国のうち「西側先進国」が開発援助委員会(DAC)加盟の29ヵ国に過ぎないことに鑑みれば、その支持を失うことは米国にとって大きなダメージと言わざるを得ません。
有利な時は弱気に、不利な時は強気に
かといって、いかに「敵に塩を送る」ものであっても、援助を多少なりとも停止しなければ、ただの「ビッグマウス」で終わります。それはそれで、米国の体面に関わる問題です。
そのため、例えば(ロシアの縄張り)中央アジア諸国や(フランスの縄張り)仏語圏アフリカ諸国など、もともと米国があまり重視していない「切り捨てやすいところ」の援助を部分的に削り、それを過剰に宣伝することで、「ぶれてない」と強調することが見込まれます。本質的な部分での行き詰まりに煙幕をはるため、周辺的な部分で緊張を高める行動パターンは、北朝鮮問題でもみられたものです。
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ただし、これが余計に米国への支持や信頼を失わせることは、いうまでもありません。つまり、援助を削減してもしなくても、米国は大きなダメージを受けるといえます。
ポーカーの基本は、手の内と逆のふりをすることです。つまり、「強い手札の者ほどそれを隠すために弱気にふるまい、弱い手札の者ほどそれを隠すために強気にふるまう」のが常道です。だとすれば、大声で「援助削減」や「国連分担金の削減」を叫ばずにいられないほど、米国は「負け勝負」に臨んでいるといえます。
ロシアの「負けない一手」
米国を無残な「負け勝負」に向かわせた契機は、ロシアの「負けない一手」にあったといえます。
今年4月、ロシアは西エルサレムをイスラエルの首都と承認。これはあくまでエルサレムの西半分に限定したもので、パレスチナ人のものとされる東半分は含まれていませんが、それでも各国に先駆けてのものであったため、イスラエルから大いに歓迎されました。一方、パレスチナ自治政府は「将来的には統一エルサレムをイスラエルと共用すること」を念頭に置いていますが、少なくとも現状において西エルサレムの領有権を主張できないため、これに対して目立った抗議を行いませんでした。

ロシアはイスラエルと対立するイランやシリアを支援してきました。しかし、その一方で、イスラエルと常に敵対してきたわけでもありません。帝国時代から、ロシアには多くのユダヤ人が暮らしていました。その多くはソ連崩壊後イスラエルに移住しましたが、このなかには高度な教育を受けた人々も含まれていたため、その後のイスラエルの科学技術の進歩に少なからず貢献しました。
一方、オバマ政権は米国歴代政権のなかでもとりわけパレスチナを支援することで中東和平を進めようとした他、イランとの関係改善を目指しましたが、これらがかえってイスラエル側の反発を招いていました。このような背景のもと、2010年にイスラエルとロシアは軍事協力協定に調印。そして、先述のように、今年4月に米国を出し抜く形で西エルサレムをイスラエルの首都と認定したことで、ロシアは一躍イスラエルにとって重要な存在と映るようになったのです。
- 六辻彰二/MUTSUJI Shoji
- 国際政治学者



