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【読書感想】愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか

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 昭和の前半は、日本に大きな戦争が近づいてくる時期なのですが、満州事変が起こってもクリスマスの盛り上がり(当時は、カフェやダンスホールに大人が集まって踊りまくる、というようなイベントと、子ども向けの『クリスマス会』、家庭での豪華なディナーなどが定着していたそうです)は、しばらく続いていました。

 著者は、満州事変が勃発した昭和6年から3年ほどが”日本クリスマス史上もっとも狂瀾的騒擾に走っていた時期”ではないか、とも指摘しています。そして、戦後になって、また狂騒をみせるようになったクリスマスに対して、こんなふうに述べているのです。

16世紀から、ずっとクリスマス記載を見続けている私にとっては、「1928年から1936年までのクリスマスの大騒動」と「1948年から1957年までの狂瀾クリスマス」はどう見てもつながっている。中断期間は11年、そのうち9年は交戦中である。

 戦争中は自粛していたが、戦争が終わったので、同じクリスマス騒ぎの続きを始めた、というふうにしか見えない。実際にそうだろう。どちらもメインはジャズとダンスである。歓楽エリアで大騒ぎをしている。のちの1980年代のクリスマスや、前の1900年代とはちがう。1930年代と1950年代は同じである。あきらかにつながっている。

 でも、どこにもそんな言説がない。もののみごとに、ひとっつもない。
「戦後になってずいぶんクリスマスが盛んになった」とは言われるが、誰一人として、共通点を指摘しない。おそらく意識もしていなかったのだろう。

 それだけクリスマスに関心を持たないものなのか、と驚いてしまう。
 戦後に書かれたものだけを見ていれば、クリスマス騒ぎは、戦後のものであって、それはアメリカさんに占領されたからだ、と考えるだろう。  だれも、昭和3年から11年にかけてお馴染みだったあの”クリスマスの大騒ぎ”が、またぶり返してきた、と言っていないからだ。

 まことに不思議である。
 みんなの記憶がすべて飛んだのか、昭和初年に騒いだ人たちが戦争で全員死んだのか、それともおれが調べた新聞記事がうそだったのか、一瞬、奇妙な感覚にとらわれてしまう。

 自分が間違っていないなら(そうおもわないと書き進められない)、つまり1928年から1936年に顰蹙を買うクリスマス騒ぎが東京で繰り広げられており、1948年から1957年にも同じ騒ぎがあったのが事実だとすると、奇妙なのは私ではなく、戦後の日本人、ということになる。

 もちろん覚えている人と、覚えていない人がいたのだろう。そして、覚えている人が、この騒ぎは戦前と同じではないか、と発言できない空気が強かったのだ。そう考えないと辻褄が合わない。

 あれだけの大きな犠牲を出した戦争を経験しても、人間は、本質的には変わらない。
 戦後、大人たちの「狂瀾のクリスマス」が復活し、社会が落ち着いてくると、「家族で過ごすクリスマス」に回帰していきます。

 そして、1980年代から、「恋人たちのクリスマス」が、「バブル経済」とともにやってきました。
 現在、2010年代は、若い世代の「クリスマスにひとりぼっち(恋人がいない)だと寂しい、という感覚は残っているものの、僕が若かった1990年代ほどの強迫観念めいた空気ではなくなっているような気がします。それは、僕が年を取って、触れる空気が変わってしまったからなのかもしれないけれど。

 この本を読んでみると、結局のところ、さんざん苦言を呈されながらも、明治維新以降、「キリスト教的なクリスマス」が日本に定着したことは(在留外国人や信者を除いては)一度もなく、戦争の時期以外は、大人が盛り場で大騒ぎするクリスマスと家族で過ごすクリスマスを繰り返しているということがわかります。

 日本人にとっては、「キリスト教の信者ではない」からこそ、制約が少ない、好きなように解釈して、楽しめるというのは、「長所」でもあり、それは、ハロウィンにも言えることなのでしょう。
 僕の子ども時代の記憶を辿ってみても、クリスマスは、けっして、悪いものではありませんでした。
 「恋人たちのクリスマス」ブームの時代については、微妙な感情を抱いているのだけれど。

 日本人の営みとモノの考え方の歴史について、興味深い検討と考察がなされている本だと思います。
 ただ、「そういう難しいことを考えないのが、日本のクリスマスの良さなんだよ!」とも言えますよね。

fujipon.hatenadiary.com
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