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愚行

  トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都として認定するとともに、米国大使館をエルサレムに移すことを表明しました。この決定により利益を得る者は誰もいません。愚行です。

  エルサレムは、1947年の国連による分割決議以来、中東和平交渉の中心的課題でした。イスラエルは一貫してエルサレムを同国の首都と主張してきましたが、それを認めた国はありません。その主張を認めることは、占領されている東エルサレムを首都とすることを望むパレスチナ人の希望を打ち砕き、エルサレムの最終的地位は交渉によって決せられるとする1993年のオスロ合意に反するからです。

  エルサレムの扱いが厄介なのは、宗教感情に深く根差した問題だからです。ユダヤ人にとってもイスラム教徒にとっても、エルサレムは聖なる場所です。この聖地をめぐる極めて機微に関わる問題について、トランプ大統領は浅慮にも片方に寄った決定をしてしまいました。彼の主たる資金的支援者を含む支持基盤への配慮が、すなわち米国内への配慮が、国際社会の憂慮よりも優先されたということです。

  2011年9月の国連総会で、私は東日本大震災発災から半年後の日本の復興の歩みを報告するとともに、世界各国からの支援に対する感謝を主とした演説をしました。実は、私の前のスピーカーはイスラエルのネタニエフ首相でした。そして、私の後はパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長でした。偶然にも両者の間の順番となり、中東和平の動向を緊張感をもって注視している国際社会の熱い眼差しを体感することができました。その貴重な経験からも、今般のトランプ大統領の決定はあまりにも無分別過ぎるように思えます。

  反イスラエル感情が比較的抑制されていたこの時期に、イスラム教徒の怒りを挑発しました。過激主義者を刺激することにもなりました。導火線に火をつけたも同然です。米国の中東和平における役割は、大きく失墜したといえるでしょう。

  それにしても、歴代米国大統領の中でトランプ氏ほど「困ったちゃん」はいないのではないでしょうか。元々は米国が主導してきたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、世界のGDPの40%をカバーする経済圏を作る構想でしたが、多方位よりも2国間の協定を重視するトランプ大統領になってから離脱しました。地球温暖化対策の新しい国際ルール「パリ協定」からも、温室効果ガス排出量世界2位の米国は離脱しました。

  そして、イスラム諸国、アラブ諸国のみならず、全世界の中東和平推進論者の反発を招く今般の愚行。米国第1の「アメリカ・ファースト」というよりも、米国の孤立化「アメリカ・アローン」になりつつあります。わが国の同盟国の世界的影響力が低下することは、わが国にとっても大きなマイナスです。

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