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"東京五輪"を過去のノスタルジーで語るな

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2020年の東京オリンピック・パラリンピックまで1000日を切った。だが、開催地決定後の熱狂はすっかりさめ、一向に盛り上がってこない。なにが足りないのか。三菱総研理事長で元東京大学総長の小宮山宏氏は、「同じ場所で2回目の五輪開催は珍しい。だが64年大会にノスタルジーを持つ人がいる。それでは若い人は動かない。五輪を通じて東京の新しい個性を示すべきだ」という――。

■「2回目の開催」東京大会の意味

招致段階で約7300億円とされていた大会経費は、すでに1.5兆円超にまで膨れ上がっています。「東日本大震災の復興五輪」「コンパクト五輪」と謳われていた招致当初のイメージはどこへやら。結局はこれまで通りの、大金をつぎ込んで国ぐるみで作り上げる巨大な商業イベントになるのではないか――。今ひとつ盛り上がりが感じられないのは、そうした「またか」という憂いの広がりに加え、大会の進め方に東京らしい個性を欠いていることが、原因にあるのではないかと思います。非常にもったいないことです。

テレビやインターネットで、派手な大規模イベントを見慣れてしまっている今の人たちにも、「東京らしい」と思ってもらえるテーマとはどんなものなのか。それを考えるとき、「2回目の開催」というのは重要なポイントです。オリンピックの歴史を見ると、2回も開催する都市はパリ、ロンドン、ロサンゼルスなどがありますが、それほど多くありません。しかも東京の場合は、1回目と2回目では、同じ街とは思えないほどに都市のあり方が違います。

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1964年に開かれた東京オリンピックでは首都高などのレガシー(遺産)が残った。2020年のオリンピックでは何を残すのか、それが問題だ。(写真=アフロ)

1964年の東京オリンピックは、戦後の復興期にあった日本が、世界の表舞台に戻ってきたことを表す「国威発揚」が目的でした。国中が湧きたち、誰もがこのイベントに参加していました。この年は、高度経済成長の真っただ中です。前回のオリンピックでは首都高、新幹線など、その後の高度経済成長を支えるインフラがレガシー(遺産)として残りました。しかし一方で高度経済成長は、深刻な公害問題も生んでいました。空気や河川、湖や海の汚染、光化学スモッグ、水俣(みなまた)病や四日市ぜんそくなどの公害病も問題になりました。

2008年に開催された中国の北京オリンピックは、1964年の東京オリンピックを想起させました。国が主導する「国威発揚イベント」だったからです。さらに高度経済成長真っ盛りで、さまざまなインフラが整えられる一方で、大気汚染などの公害も問題化していました。

高度成長期の日本へのノスタルジーで、次のオリンピックについても1964年の大会をイメージする人がいますが、それでは意味がありません。先進国として、成熟期を迎えた国が、次の時代に何を目指し、何を残すのか。そうしたビジョンを示すための場にするのです。国立競技場や公式エンブレムのすったもんだで、こうしたビジョンについての重要な議論が、すっかりかき消されてしまったように見えるのは、残念でなりません。

■「国威発揚イベント」からの脱却を

さらに、そろそろ国が主導し、国同士が競い合う国威発揚のイベントからは脱皮するべきでしょう。クーベルタンが提唱した、オリンピックの本来あるべき姿に立ち戻るべきです。

近代オリンピックを提唱したクーベルタンは、文化や国籍などの違いを超え、スポーツを通して平和でよりよい世界を実現することを、オリンピックのあるべき姿としていました。当時蔓延していた、各国が覇権を争う帝国主義への、アンチテーゼだったわけです。それをナチスドイツのヒトラーが、1936年のベルリン大会で国威発揚に利用し、オリンピックを汚してしまった。以降のオリンピックは、国が主導して、国と国が競い合う場になってしまったのです。しかし本来オリンピックは、国ではなく、個人主体のものだったはずです。

日本人は、お上(かみ)が呼び掛けてやる全員参加は得意なのですが、自分たちで呼びかけ、ボトムアップで進める全員参加は得意ではありません。

1964年の大会はまさに、お上が呼び掛けた全員参加でした。2020年の大会も、各国の選手たちの練習場を各地に分散することや、聖火リレーなど、国が主導して国民の参加を促すものはいくつかあります。でも私は、それだけではなく、公募型のものや、「勝手連」的なボトムアップによるたくさんのプロジェクトが、ゆるやかに連携して一つの大会を形作るといった、次世代型の参加方法が必要だと考えています。

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