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EUに「東西の壁」難民への風当たり一段と厳しく EU大統領までメルケル主導の割当制に反対

107歳の盲目女性を強制送還しようとしたスウェーデン

2015年の欧州難民危機で、アフガニスタン北部クンドゥーズの戦火を逃れ、イラン、トルコ、バルカン半島を経てスウェーデンにたどり着いた盲目の女性ビビカール・ウズベクさんは107歳。世界最高齢の難民申請者である。息子と孫が彼女を背負って険しい山岳地帯を越えてきた。

故郷クンドゥーズではアフガン治安部隊とイスラム原理主義武装勢力タリバンが激しい戦闘を繰り広げている。しかしスウェーデン移民庁が今年8月「クンドゥーズは安全。家族で帰還できる」とウズベクさんの難民申請を却下したため、強制送還される恐れがあると大きなニュースになった。

息子や孫によると、ウズベクさんは脳卒中を患い、歩くことも、見ることも、話すこともできない。アフガンへの強制送還にとても耐えられる状態ではなかった。家族が提訴した結果、移民裁判所は10月「彼女の健康状態を考慮すると、アフガンに強制送還するのは人権と基本的自由に反する」と13カ月だけ滞在延長を認めた。

ウズベクさんの家族の強制送還も見直すという。しかしウズベクさんが亡くなれば、そのあと息子と孫たちがスウェーデンに留まることができるという保証は何一つない。

スウェーデンは欧州連合(EU)の中ではドイツと並んで難民受け入れに寛大な国だった。しかし14年から17年にかけて176万人が地中海を渡ってEU加盟国のギリシャ、イタリア、スペインに流入し、スウェーデンやドイツを目指したことから状況は一変した。

スウェーデンでの難民認定の新規申請者数は13年5万4265人、14年8万1185人、15年16万2455人、16年2万8790人、17年は11月時点2万1785人。16年3月のEU・トルコ合意でトルコからの難民流入をせき止めてから落ち着いている。

17年第3四半期、スウェーデンで処理された難民申請件数のうち認定されたのは22%、補助金支給や人道上の配慮に基づく滞在許可といったポジティブな決定を含めても43%に過ぎない。最終的に滞在が許可されないと本国に強制送還される。

EU首脳会談後、記者会見するメルケル独首相(12月15日、筆者撮影)

欧州難民危機の際、アンゲラ・メルケル首相が「門戸開放」政策を掲げたドイツでも難民認定されなかった申請者の本国送還が始まっている。EU統計局のデータを見ると、シリア、エリトリア、スーダン、ソマリア、イラン、イラクからの難民申請は比較的認められやすいが、ウズベクさんのようなアフガン難民に対する審査は厳しいことがうかがえる。

どうして扱いに差が出るのか、はっきりした理由は誰にも分からない。

反移民の極右政党が連立政権入りしたオーストリア

欧州最年少の宰相、セバスティアン・クルツ首相(31)が誕生したオーストリアでは、結党時にナチス残党が加わった極右政党の自由党が12年ぶりに連立政権入りした。自由党はかつてEU離脱の国民投票をちらつかせたこともあったが、今では明確に否定している。

欧州最年少の宰相、オーストリアのセバスティアン・クルツ首相(10月14日、筆者撮影)

これを踏まえてクルツ首相の中道右派・国民党は自由党との協定でEUへのコミットメントを強調する一方で、「不法移民」規制強化と難民認定されなかった申請者の強制送還をスピードアップすることで合意した。

00年に自由党が初めて連立政権入りした時には数万人が抗議活動を行ったが、今回「難民歓迎」「ナチスは出て行け」というプラカードを掲げてデモに参加したのはわずか5,000人。自由党候補があわや勝利しそうになった先の大統領選以来、オーストリアの極右政党は完全に市民権を得た。自由党は外相、内相、国防相など6ポストを獲った。

西欧と東欧の真ん中に位置するオーストリアはハンガリー動乱やプラハの春、旧ユーゴスラビア紛争で大量に発生した難民を積極的に受け入れてきた。ドイツと同じくナチス協力のトラウマが残るオーストリアでは人道主義が欧州の一員として受け入れられる重要なリトマス試験になってきた。

このため難民危機でも当初、メルケル首相の「門戸開放」政策に歩調を合わせてきた。しかし数十万人の難民が国土にあふれかえり、人口の1%強に当たる9万人が難民申請。人口100万人当たりの新規申請者数ではEU域内でスウェーデンに次いで多かった。これで国民の不安が強まり、オーストリアはバルカン諸国9カ国と協力して北上してくる難民をシャットアウトした。

オーストリアの難民支援策は手厚く、高いスタンダードを維持するためには受け入れ数を抑制しなければならないというジレンマがあった。これを解消するため、クルツ首相は理想主義を捨てて現実路線に大きく舵を切り、総選挙に勝利した。自由党が難民排斥、反イスラムに走らないようどこまでコントロールできるのかクルツ首相の政治手腕に欧州全体が注目している。

首脳会議で逆噴射した司会役のEU大統領

EUは2年前にギリシャやイタリアに滞留する難民16万人を加盟国に振り分ける割当制で合意したものの、これまでに実現したのは3万2,000人だけ。オーストリアは17人(割当数1953人)、チェコは12人(同2691人)、スロバキア16人(同902人)、ハンガリー0人(同1294人)、ポーランド0人(同6182人)と各国が難民の割当を露骨に拒否している。

政府が司法に介入する法案を巡ってドイツやEUとの関係を悪化させたベアタ・シドゥウォ首相が辞任したポーランドでは急激な右旋回が進む。11月11日の独立記念日には極右や国家主義者6万人が「ポーランドは白人の大地だ」「祖国の敵に死を」と叫びながらデモ行進した。

スロバキアのロベルト・フィツォ首相はメルケル独首相が主導するEUの割当制について「徹底的に拒否する」と発言。ポーランド出身のドナルド・トゥスクEU大統領(首脳会議の常任議長)も「役に立たない」「EUを完全に分断する」と割当制を批判した。

難民の割当を拒否する代わりにハンガリー、チェコ、スロバキア、ポーランドの旧東欧4カ国は地中海のEU境界管理を強化するためイタリアに3500万ユーロを拠出する考えを示した。しかし12月14、15日のEU首脳会議でこの問題を議論したメルケル独首相は「EUの結束は選り好みできない。許容できない」と4カ国の難民受け入れ拒否に憮然とした表情を浮かべた。

EU首脳会議後の共同記者会見で逆噴射するトゥスクEU大統領(12月15日、筆者撮影)

首脳会議の司会を務めるトゥスクEU大統領はジャン=クロード・ユンケル欧州委員長との共同記者会見で逆噴射した。「割当制の義務化は対立を呼び起こす問題だ。難民の加盟国への振り分けは不法移民問題に対する解決にはならない。妥協が成立するのは極めて厳しい」

問題は来年6月まで先送りされた。ドイツでメルケル首相の連立交渉が続いている限り、EUは何も決められない宙ぶらりんの状態が続く。もうお馴染みになった光景だ。解決の糸口がつかめないまま、EU域内の東西対立はますます先鋭化していく危険性が膨らんでいる。

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