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映画『ダンケルク』で考える集団的自衛権の歴史

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こうした史実は、第二次世界大戦以後、個別的自衛権、集団的自衛権、集団安全保障が、すべて一続きの安全保障構想の中で位置づけられるべきものだとされるようになった背景を示している。

当時、アメリカはイギリスに強力な輸送・物資支援を提供し、1941年には米英共同で大西洋憲章も発表して、事実上の同盟国としてイギリスを支えた。しかし国際連盟加盟国ではないアメリカは、イギリスとは異なる法的地位にあった。不戦条約を推進し、スティムソン主義にもとづいて日本による満州国設立を認めない立場をとっていたアメリカだが、戦争に参加する法的根拠は持ち合わせていなかった。真珠湾攻撃によってアメリカの参戦が決まった後、チャーチルが深く安堵したということは、広く知られている。

日本では、アメリカのF・D・ローズベルト大統領が日本の参戦を誘発する政策をとっていたことが、陰謀のように語られることが多い。国際社会主流の見方をとれば、話は逆だ。当時、集団的自衛権が広く認められていたら、アメリカの法的地位は変わり、ヒトラーが計算ミスで拡張主義をとってしまうことを抑止する大きな力になっただろう、と考えるのが、普通である。第二次世界大戦の結末を予期できてさえいれば、ヒトラーは拡張政策をとらなかっただろう。集団的自衛権があれば、少なくともイギリスの参戦の脅威で、いっそう大きな抑止力が働いただろう。

第二次世界大戦後、イギリスは、アメリカと、第二次世界大戦で守ろうとした西ヨーロッパ大陸諸国と、国連憲章51条に明記された集団的自衛権を法的根拠にして、NATOを結成した。これによってドイツは、個別的自衛権を行使せず、集団的自衛体制の枠組みでのみ行動する国となった。東側陣営と厳しく対峙し続けたが、今日に至るまで70年近くにわたって、NATO加盟欧州諸国は、内部からも外部からも、武力攻撃されることがない、人類史上まれに見る強力な抑止体制を築き上げた。

ナチスはドイツ民族の個別的自衛権を濫用して、拡張政策を正当化しようとした。そのため、戦後のドイツは、個別的自衛権を封印し、集団的自衛権の枠組みの中で、自国の安全保障政策を進める国家体制へと移行した。

ヒトラーやムッソリーニに、個別的な自衛権濫用の前例を与えたのは、日本である。日本は、不戦条約に加入していたにもかかわらず、率先して自国の個別的な自衛権を濫用して満州事変を引き起こし、世界大戦への道を開いた。その結果、個別的自衛権の濫用に対して集団的自衛権の論理で結びついた連合国陣営に、体制転換を行うための降伏と占領を許すまでに、徹底的に打ち砕かれることになった。

日本国憲法は、こうした歴史を反省し、こうした歴史を二度と繰り返さないために、作られたものである。

ところが、戦後、四半世紀もすると、日本では、個別的自衛権を善とし、集団的自衛権を悪とする勢力が台頭した。安保闘争、ベトナム反戦運動/学園闘争をへた左翼運動が、アメリカこそが悪だとし、日本の主権独立を振りかざすことが平和への道だと鼓舞したからである。

第二次世界大戦の歴史にもかかわらず、いつのまにか、日本だけが、個別的自衛権だけが善で、集団的自衛権は悪だ、と信じる奇妙な国になってしまった。個別的自衛権なら拡張しても心配ないが、集団的自衛権は少しの行使でも危険だ、などと主張する民族主義的独善国家に成り下がってしまった。

石川健次・東京大学法学部教授(憲法学)によれば、国連憲章における集団的自衛権は、政治的に「自衛権」の規定に「潜り込ませ」られたに過ぎず、「国際法上の自衛権概念の方が異物を抱えているのであって、それが日本国憲法に照らして炙りだされた、というだけ」なのだという(拙著『集団的自衛権の思想史』第1章参照)。

こうして日本は、「国連憲章51条は異物」と述べる憲法学者を旗印に、国際政治は邪悪、平和主義は日本(の憲法学者)だけ、などと主張するガラパゴスな国になり果てた。

邪悪なアメリカが集団的自衛権を理由にして日本を戦争に巻き込みさしなければ、あとは個別的自衛権の拡張さえしておけば、日本も世界も平和になるのだという。したがって、安全保障論は、憲法学者に仕切らせるべきなのだという。

様々な憲法解釈や外交論があってもいい。しかし「アベを許さない」といったレベルの感情論から勢い余って、集団的自衛権=邪悪論を大真面目に布教し続けようとすることは、極めて無責任な行為だと言わざるを得ない。それは、日本を再び独善的な世界の孤児にしてしまう行為であり、極めて危険な態度である。

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