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高齢者だけに音が大きく聞こえるテレビが市販されるのもそう遠くない - 「賢人論。」第50回落合陽一氏(前編)

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今回の「賢人論。」ゲストは落合陽一氏。科学者、実業家などさまざまな顔を持ち「メディアアーティスト」として世界中を飛び回っている。最近では介護業界向けの技術開発にも力を入れており、現場からの期待は大きい。“現代の魔法使い”は今、何を考え、何を見ているのか?

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

提案されてみないと気付かないニーズはたくさんある

みんなの介護 落合さんは「メディアアーティスト」として、研究者のみならず企業家としても活動されています。卵やケーキを空中に浮かせるなど、“魔法”のようなパフォーマンスが印象的です。

落合 物体を浮かせるのには、超音波を使っています。水面に石をポン、と投げ入れると波紋が生まれますね。もうひとつ投げ入れると、2つの波紋ができる。その2つが重なり合うと、ある箇所に波の“節”、つまり安定するポイントが生まれるんです。

同様に、超音波を干渉させてもそういう安定点ができる。その点のエネルギーは非常に強く、うまく制御すれば物体を浮かせることさえできるんです。超音波は人間の可聴域外の音なので何も聞こえず、まるで魔法で浮いているみたいに見える。しかし、犬なんかは可聴域が広いですから、近くにいたら「超うるさい!」と思っているのかもしれない(笑)。

みんなの介護 技術的に高度なだけでなく、目にも楽しい素晴らしい研究だと思います。実用としては、その技術はどのようなことに活かせるのですか?

落合 ひとつのアイデアとしては、新型の「補聴器」。例えばリビングに大きなスピーカーを置き、スピーカーから出る音がおばあちゃんにだけ大きく聞こえるようにする、ということが可能になるんです。

みんなの介護 それは先ほどの“物体浮遊”とどう関係があるのですか?

落合 卵を浮かせたのと同じ原理で、波が強め合うポイントを耳の中に設定するんですよ。やり方はいろいろありますが、「ある特定の個人にロックオンする」ということ自体は、技術としては簡単なんです。今は、その指定した点で音が強くなるようにする技術の調整を進めている段階ですね。

同じ仕組みを使えば、視覚障がいをもつ人のために、点字ブロックの近くに来るとその人にだけ音が鳴る、という装置をつくることも可能です。人間に聞こえない音波を発しておいて、点字ブロックが近づいたときだけ、可聴域の音に落とし込むんです。

もっと身近なところだと、フードコートなどの呼び出し音にも使えますよね。「注文の品ができました」とお客さんを呼び出すとき、その席だけには音が聴こえるのに、他のお客さんの邪魔にはならない、という。障がい者や高齢者向け製品のニーズは実はあるんですけれど、提案されてみないと気が付かない部分ですよね。


シャボン膜の表面の色彩から、光の干渉現象に興味を持った

みんなの介護 そういった技術が実用化されていくまでにはどのくらいかかりそうですか?

落合 実際にプロトタイプは製品発表していますし、展示会にも出していますから、それほどかからないと思いますよ。あとは使ってもらうだけ、というレベルには達していますし、その仕組みを組み込んだ製品もだいぶできています。

人間には見えない・聞こえない・触れないものを、人間の感覚の中に落とし込んで利用する、というスタンスが私の研究の軸なんです。大学の博士論文はその分野の研究で取りましたし、私にとってとても得意な分野なので。

みんなの介護 ちなみに、どんな内容の論文だったのでしょう?

落合 まさに今やっていることの原点で、超音波場を使って対象の物体を振動させたり掴んだりする、という基礎技術の研究をしていました。博士論文を取った後は、赤外光や電波など、音波以外の波へ研究対象を広げましたが、「波」に関わる研究をしているという点では変わっていないですね。

みんなの介護 なぜそもそも、「波」に興味を持たれたんですか?

落合 シャボン膜の表面の色彩とか、ダイヤモンドの輝き方とか、そういう、光が干渉して起こる現象が幼い頃から好きで。一方では、エレキギターの音色とか、音に関することも好き。受け取った波面が耳で表現されるか、目を通じて表現されているかの違いがあるだけで、光と音の間にはそれほど差がないもの、と捉えています。

ちなみに、昨日ずっと考えていたのは「巻き貝」のこと。

みんなの介護 巻き貝?

落合 巻き貝を耳に当てると「ボーッ」という音が聞こえますよね。あれって、音響場の中ではどういう意味なんだろう?と。つまり、イルカには巻き貝がどう見えているんだろう?

イルカって、前頭部のところにソナーがついているんですよ。超音波を発して、反射して帰ってきた超音波を受け取ることで、視覚ではキャッチできない遠くのものを見たり、暗闇の中でも周囲の状況を知ることができるんです。そのイルカが、前頭部のソナーを使って見たとき、巻き貝はどういう見た目になって戻って来ているんだろうか、と。

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